3-8
ワイバーンの被害は列島でも多かった。
ヤツらは社会性をある程度持っているが、縄張り意識が強く、更に個々のテリトリーが広いこともあって、海を越えて新天地を求めてくることがあるからだ。
特にドラゴンの奉仕種族となった使いっ走りのワイバーンは、他のワイバーンを遠くに追い払おうとする習性があるため、度々襲来してえらいことになった。
そして、列島はドラゴンよりも身近な脅威としてヤツらを研究し尽くした。
「行くぞ」
私は車に直結したケーブルを通し、ある音声を鳴らした。
ワイバーンの威嚇音。
つまり喧嘩を売る音だ。
「これで直にやってくる」
デジタルホーンをちょっとイジれば、大音響のスピーカーにすることは容易い。軍は時に車両を緊急避難放送拠点にすることもあるため、ちょっとした操作で音声を発せられるようにしている。このパラミリモデルの高機動車両とて例外ではない。
『しかし、凄い音ですね、他のも来ませんか?』
アゼリアが渡した耳栓の位置を正しながら問うたが、槌をブンと振り回してリズが笑う。
その時は功名の取り得だと。
まぁ、この面子であるのならばワイバーン如きに劣ることはあるまい。それに、亜竜はドラゴンみたいな再生能力を持っていないし、眼球なら徹甲弾で貫通できるんだ。弾頭にタングステンの芯材を使った特種弾で、一発五千円超えのお大臣価格だが、私にだって殺しきれる武器はあるんだぜ。
まぁ、使った後に申請書書かないといけないからクッッッソ面倒くさいんだけど。
あと、本物の切り札だから弾倉一個、十五発しかないしね。
『……失礼……』
ん? と思っていると、リリムが杖を掲げた。
するとだ、数秒後に我々の半径50mを囲む淡い青い色をした力場が広がり、九時の方角で炎が弾けた。
『来た!!』
リズが楽しそうに声を上げる。
みれば、空の彼方に点のような小ささの姿が見えた。視角素子を働かせ、最大望遠すれば分かるが、赤い鱗が特徴のワイバーンが凄まじい速度で迫っていた。。
『レッド・ワイバーンですね』
『若い、感じ、では、ありません、相手に、不足は、ありません』
抜剣するアゼリア、舌舐めずりをするリズ。あのですね、パラミリモデルの資格素子とAI画像補正を掛けてやっと見える姿を、肉眼でより精密に観測するのやめてもらっていいですかね?
それはさておき、飛来するレッド・ワイバーンは軽く音速を突破しており、第二世代のジェット戦闘機と格闘戦が繰り広げられる性能がある
これを弓や投石、格闘戦で撃破する現地人は凄いが、我々はもっと効率的にやる。
喧嘩を売る音を放ち続けるスピーカーの側に、近接防空システムを設置するのだ。
毎分八千発叩き付けられる30mmの雨を耐えられるモンなら耐えてみろってもんよ。超音速ミサイルさえ叩き落とす代物だからな。
まぁ、漁協から「漁場を汚すな」と怒られることもあって、設置場所選定には、かなり苦労したらしいんだけどね。
とはいえ、コイツらへの海軍と空軍の恨みは根深い。なにせレーダーサイトの密度を三倍にしなければならなかったのだ。
だから陸にも相手する時のマニュアルがあるのだ。
『……待っていて、直に、焦れる……』
ドラゴンは傲慢にして短気な生物だ。その亜種たるワイバーンも同様の性質を汲んでおり、基本的に長期戦を好まない。
干渉式によって、何故か火球として飛んで来る千数百度の〝ファイアボール〟を浴びせ掛けてくるが、飛び方からして焦れていることが分かる。
そりゃそうだ、プライドを持って吐きかけている必殺の弾が弾かれて何の効果も発揮していない。その上で喧嘩を売る甲高い声が止まないのだ。いらつきもするだろう。
賢い生物、たとえばダイアウルフであれば、ここで退くだろう。
だがワイバーンはそうではない。
然もなければ、特徴に獰猛にして好戦的、そして傲慢などとWikiに書かれない。
「さぁ、くるぞ」
『来てください、来てください!』
リズが障壁の縁で待ち構え、私は安定した射撃姿勢を取るべく、膝を突いて膝射姿勢を取った。
ぐんぐんと近寄ってくる。その軌道は真っ直ぐで、大きく発達した牛でさえも掴み上げられそうな後足を突き出していた。
狙い通り。遠距離が駄目ならば、ワイバーンは明らかに格上であるドラゴン以外には、必ず突っ張ってくる。
これが分かってるから、こうやって真正面から喧嘩を売っているのだ。
「来いよ、来いよ……」
ワイバーンは肉食にして徘徊性の狩りをする動物なのもあって、トカゲの親戚ではあるが目は正対すれば前方から観測できる場所についている。目標との相対距離を測る必要がある、肉食動物の特徴だ。
FCSは速度と距離もあって赤表示しているが、それは計算上の問題だ。
私のカンと磨いた感性は言っている。
当たると。
あと500、300、100……ここだ。
引き金を絞って解き放たれた〝とっておき〟は、虚空を直進し次第に重力の誘惑に負けて下降。そして真っ直ぐと降下軌道を駆け抜けていたワイバーンと軌道が交錯。
「GUUUUGIAAAAAAAAAAAA!?」
『絶叫:発声者・リズ』
空中で悶えて堕ちていくワイバーン。命中時の距離は恐らく1,500。弾道の落下を計算しつつ外骨格で関節をロックし、軌道が重なるタイミングさえ捕まえてしまえば12.7mmは狙いを過たない。
『コウヅキ! 貴方!』
「こっちの方が早かったからな。せめてもの鎮魂だ」
有り難いことにフェアルリリムの干渉式は、外からも内からも攻撃を通さないなんて不便な造りをしていない。彼女曰く、かなり繊細な作業だそうだが、熟練した使い手ならできて当たり前のことだそうだ。
実際、彼女も何らかの攻撃を試みていたのだろう。少し残念そうに杖を下ろした。
しかし、これくらいはやらせてくれ。あの宿場の仇討ちは、私がやりたかったんだ。
無力さを噛み締めた災害救助の現場。瞼に焼き付いたアレを少しでも追い払うために。
何よりも、RPGの正義溢れる冒険に憧れた者として。
「それに私だってたまには役に立たなきゃな」
空中に飛び出した空薬莢を捕まえた右手で、真鍮色の一輪挿しくらいに使えそうな代物を弄びつつ嘯けば、リズは私の前で地団駄を踏む。障壁にぶつかって、無様な有様になったワイバーンの頭蓋骨をかち割りたかったのだろう。
だが、心配は要らないと思うぞ。
「お代わりだ」
『おっ?』
指させば、空の彼方に青い異形が見えた。
ブルー・ワイバーン。平原を住処とする狩人であり、竜にしては珍しく自分に合った洞窟を探すのでもなく、高地に陣取るのでもなく、巣穴を自ら掘る種類だ。
「大音量で垂れ流してるんだ。あと2、3匹は来るぜ」
その形は翼竜に近く、発達した翼と優れた干渉式により、最も航空戦に秀でたワイバーンである。機動力は群を抜いて高く、カンが良い個体だとCIWSの弾幕を〝潜る〟こともあるらしい。
その狩りは風圧によって敵を転倒させ、疲れ切った末に巨体で覆い被さるというもの。
つまり、今の状態だとカモだ。
私はFCSと物理セーフティーをかけ、暴れたがっている前衛勢に任せることにした。
しかし、煽りに弱すぎるのも考え物だね。有益だが、殺生が却って増えてしまった…………。
実際にある猟を参考にしました。鹿のコール猟ですが、プライドが高い生き物なら煽り耐性低いから余裕だろうなと。
※ワイバーンは“害獣”なので、西方でも許可されています。この猟が禁止されている生物もいるから真似しないでね!




