3-1
今回から試験的に「Web媒体で読みやすい尺」ということで、いつもの5000文字から減量し、2,500文字~3,000文字の尺に収め、可能な限りの連続更新を目指してみようと思っております。
いつもより短いですが、お付き合い願います。
コウヅキが急に帰った翌日、大事な話があると切りだして皆を談話室に集めた。
そして、翻訳機が飽和し、抗議の断末魔を上げる。
「どういうことですかコウヅキ!」
「はぁ!? 新人!? 聞いてねぇぞ!!」
「……それは、ひどくない?」
各々好いたように文句を言うせいで、民生用のPDAに搭載された翻訳AIは処理領域を超え、遂には機能に限界が来たのか電源が落ちる。再起動しないとソフトに致命的なエラーを引き起こすと判断したのであろう。
わたわたと手を振りながら仲間を抑えようとしたコウヅキは、PDAをガタガタ弄くって再起動しようとするが、どうにも上手く行かない。やっと再起動する頃には何十と聞き取れない言葉を浴びせ掛けられたので、彼はスイッチを切り替えることにした。
ガタリと音を立てて立ち上がり、軍人の下士官モードへと移行。すると彼の空気が変わったことを察したのだろう。
一瞬の沈黙、それを上手く使ってコウヅキは強く宣言した。
『私は兵卒の長でした。それ故、志願した、兵隊を、見捨てられ、ません』
「ですが!」
『会社に、文句は、あります。ですが、兵士に、罪は、ありません』
強くハッキリとした言葉に、今まではヘルメットに隠されていた兵士としての顔。普段との二面性にドキッとしつつ、三人は改めて実感した。
この男は責任を果たそうとしていると。気に食わなかろうが、何だろうが、兵士としての自分を曲げないために。彼は冒険者になることが夢だと言ったが、その下で鍛造した兵士という地金は、どうあっても隠せないのだ。
では、これ以上文句を言うべきではないかと、ベリアリューズは最初に折れた。
「そこまで言うなら仕方ねーや。ま、お前が責任見るってんならアタシはいいぜ」
「リズ!?」
「仕方ねーだろ。男でも冒険者が吠えたんだ。それなら認めてやらねぇと女が廃る」
リズは椅子に体を投げ出して頭の後ろで腕を組み、足を交差させる不敵な姿勢を取りつつ瞑目した。
自分の男がプライドにかけてやると言い切った。それも、彼が常々言っている兵士として。それならば、惚れた弱みもあるが認めざるを得ない。
「でも、コウゲツ……大変じゃないの……?」
『慣れて、います。部下は、何度も、持ちました。新兵、教育は、覚えます』
リリムに問われ、コウヅキは少しだけ表情を曇らせたが、直ぐに持ち直して言い切る。
彼は下士官であり、最低限のカリキュラムを終えた兵士の訓練は行っていたが、教官資格まで持っているわけではない。
だが、自分が追ってきた背中、そして覚えた技能を仕込むくらいはできるはずだ。
いや、できなければ恥ずかしくて海兵隊員の看板を下ろすほかない。
あとは届く装備次第だが、それ次第で道も拓ける。カンパニーが相当にケチっていなければだが。
それに、強化外骨格のウリは練兵の速さだ。FCSは初日から50mでライフル射撃でのホールショットを可能とし、運動不足の人間に一日で100kmを踏破させる。
最低限の使い方が分かっていれば、後は兵士としての所作を叩き込むだけ。
これは小隊長の女房役である陸曹の仕事であるからして、彼にとっては生活の延長に過ぎない。
「……けど、責任が増えて」
『お給料、増えました』
ほっこりと笑う顔に、リリムは驚いた。あのケチだケチだと思っていた会社が、一応とは言え報いようとしているとは。
それならば、彼女もよいかと納得する。
実際の昇級が課長の役職手当と、新人教育手当で、年俸にして銀貨百枚程度の昇給であったとは知らないまま。
「……貴方が、受け容れるというのなら」
「リリムまで!?」
「……一番大事なのは、コウヅキの、意志……」
「そうですが……」
「……彼が鍛えるなら、私も、鍛える。そうすれば素人が一人増えてもね……」
やる気のない、鈍間な足手まといなら吹き飛ばすけれどもと含意を含めつつ、フェアルリリムは椅子に座って杖を抱えた。
こうなれば多数決で、王族としての意志を押し通すことを嫌うアゼリアも抵抗できない。
まだ内々に進めている計画とはいえ、姉が懇意にしているタナカの知人を社長として新会社を設立し、そこにコウヅキを勧誘するという計画が倒れてしまったとしても。
実際には計画を練った段階であり、彼女も強引に彼を縛り付けようなどとは思っていなかった。昨日はあくまで、準備をしたから、その是非を問いたかったのだ。
ただ、列島で武装を買う許可を得て、彼に素敵なスーツをプレゼントしてあげたかった。
これがアゼリアの誠意にして全てである。
あとは玄人である姉と、助言役として雇い入れる本土PMCから引き抜きをかけた人間に任せ、現地ではコウヅキが動きやすいように〝どうして欲しい?〟と聞くまで準備を終えた、正にザックリとした草案であって、完成稿ではなかったのが幸いか。
姉は外商部のタナカから色々聞いたが「レクシアMk-Ⅲとかいうのが一番高価だから、それでいいんじゃないか?」と極めて適当な決定がなされてはいたのだが。
『……待ってください』
「どうしました、コウゲツ」
二人が納得し、何よりも愛しい彼が自分の責任を果たそうとしているのであれば、それを邪魔するのは無粋にも程があることを、どうにか理解して受け容れたアゼリアであったが、彼が困惑した顔をしている意図までは察せなかった。
『私は、パーティーから、抜ける、つもりでした』
「は?」
「え?」
「……ん?」
『私の、都合で、足手まといを、増やせ、ません』
この男は何を言っているのだろうと全員が思った。
自分達の覚悟を知ってか知らずか、迷惑になったから抜ける? 何を今更。むしろ、彼がその程度の関係だと思っていたことが彼女達の逆鱗に触れた。
コウヅキにとって幸運だったのは、この場に四人であったことだろう。
もしも誰かと一対一で相談していたならば「なら本気を見せてやるよ」とばかりに間違いが起こっていたかもしれない。最低でも唇を奪うくらいはやっていただろう。
「コウヅキ、何か勘違いしているようだから断言しておきましょう」
『何でしょうか』
「私は……いえ、私達は、元より貴方を手放すつもりはありませんよ。何があろうと。それが列島に弓を引くようなことになろうと」
力強い宣言にリズが口笛を吹いた。
大国を相手にしようが手放すつもりはないなんて、もう自分の男だと宣言したようなものではないか。それこそ西方においては、かなり強引なプロポーズの言葉だといってもいい。
それは他二人への宣戦布告にも等しい。
しかし、無情にもポンコツ翻訳AIはそれを平易にしてしまう。
私達は貴方と一緒にいますと。
言葉に込められた熱っぽい意味を知らず、一瞬目頭を熱くした傭兵は無意識に敬礼していた。
それ以外に、泣き出しそうになるほど嬉しい言葉を受け止める術がなかったから…………。
ということでコウヅキくん、やっとここまで言われて絆を実感できました。よかったね!
明日(2026/05/03)も更新するので、お楽しみに!!




