第二百五十六話 久々に直轄領へ
翌日、僕とクリスは予定通り軍の施設へと向かった。
勿論、魔導船に乗って直轄領に調査に行くためだ。
スラちゃん達とピーちゃんもついてきて、トラちゃんはアイちゃん達の護衛として残る。
「グルル……」
「怖くないよ、怖くないからね」
ミュウさんも財務職員としてついてきたのだが、キングレオも張り切ってついてきた。
ところが、離陸した魔導船の浮遊感が怖いのか、伏せた状態で目を押さえて怯えていた。
ミュウさんがなだめても、怖いものは怖いみたいだ。
「こう見ると、キングレオも表情が豊かだな」
「グルル……」
そして、僕達のお守りとしてナッシュさんがついてきた。
ニアちゃんも大きくなってきて、とても生育も順調らしい。
特に、ケーラさんは初孫が可愛くて仕方ないみたいだ。
だからこそ、ナッシュさんが僕とクリスと一緒についてくることができた。
更に、今回はセレナさんとユリアさんも着いて来た。
二人とも、上級魔法兵として研修を兼ねていた。
「現在の現地駐留軍の司令官と知り合いだ。代官も知っている奴だから、先ずは話を聞くとしよう」
何というか、本当にナッシュさんの交友関係は広すぎます。
助かることには間違いないので、色々と教えてもらおう。
特に、セレナさんとユリアさんは軍の偉い人と会うのも立派な仕事だ。
「グー、グー」
「スラちゃん、ありがとうね」
そして、キングレオはいつの間にかぐっすりと寝ていた。
スラちゃんが、ミュウさんに頼まれてキングレオに睡眠魔法をかけたんだ。
寝ている間に到着するし、苦痛は少ない方がいいはずだ。
この分だと、帰りもキングレオは睡眠魔法が必要かも。
そんな事を話していると、無事に直轄領に到着。
前よりもずっと早くお昼過ぎについたけど、テクノロジーの進化は本当に凄いぞ。
「最初に、代官邸に行って挨拶してこよう。軍の司令官も同席するらしいぞ」
「ガウッ!」
ナッシュさんの話に、キングレオが元気よく返事をした。
ぐっすり寝れたので、朝よりも元気いっぱいだ。
僕達は、出迎えの馬車に乗ってさっそく代官邸に移動した。
「わあ、キングレオだ!」
「馬車と並走しているよ」
「大きいな、凄いな」
町の子どもたちが、キングレオを見て大興奮していた。
出会ったら死を覚悟するレベルの魔物だけど、こうして大人しい分には可愛いものだ。
子どもよりも大人の方が、キングレオを見てビビっているぞ。
そんなこんなで、僕達を乗せた馬車はあっという間に代官邸に到着した。
「ナッシュは昔から非常識だったが、まさか【蒼の治癒師】の義兄になってキングレオを連れてくるとは」
「本当に信じられないと言った方が良さそうだな」
代官邸の応接室に移動すると、代官の男性と司令官の女性が出迎えてくれた。
代官はビスマルクさんで、家族で直轄領に赴任している。
栗毛の長髪を一つにまとめており、中々の長身イケメンだ。
司令官はローズさんで、軍では珍しい女性幹部だ。
ピンクのショートヘアで、こちらも背が高くスタイル抜群だ。
床に伏せているキングレオを見るなり、二人とも苦笑していた。
「さて、話をしよう。温泉街の件は、私も調べていた。どうやら温泉街に保養所を作ろうとしていたらしいが、その土地は村の持ち物なので少し揉めていた」
「村の土地なのに、何で保養所を作ろうとしたのでしょうか」
「単に、上から目線だ。自分達は貴族なのだから、村ごときがつべこべ言うなと言うことらしい」
ビスマルクさんが苦笑しながら背景を教えてくれたが、まさかあの子爵達はそんな馬鹿な事をしようとしていたなんて。
これには、クリスもミュウさんも呆れ顔だ。
でも、あの子爵たちなら馬鹿な事を言いそうだ。
「あと、元々温泉街には軍の保養所があるわ。あの貴族は、軍の保養所を使わせろと何度も揉めていたのよ。そこで、自分達の保養所を作ろうとしたみたいね。費用は全て国に出させて」
「だから、備品申請などもしていたんですね」
「多分、偽装申請の可能性もあるわ。予算を確保すれば、後は別の用途に使おうとしたはずよ」
ローズさんも、溜息をつきながら話してくれた。
うん、僕も溜息をつきたいくらいだ。
直ぐに、通信用魔導具で各所に連絡した。
「温泉街の住民も、あの貴族には良くない感情らしい。捕まったという情報が流れたら、当然だろうと言っていたくらいだ」
「うーん、それだと温泉街の人達と貴族との間に溝ができそうですね」
「普通の貴族なら問題ない。それに、直轄領の危機を救った【蒼の治癒師】には、良い感情を持っているはずだ」
ビスマルクさんの話を聞き、僕はやっぱり不安に思ってしまった。
明日、さっそく現地に向かう事で調整がついた。
ビスマルクさんとローズさんも、確認のために一緒についてくる。
これで話は終わりなんだけど、ここからちょっとした愚痴が始まってしまいました。
「ケン君のことは小さい頃から知っているけど、まさか先に結婚されるとは思わなかったわ」
「うんうん、そうね。でも、ケン君とクリスちゃんは小さい頃からとても仲が良かったわ」
「グルル」
女性軍人は幹部になると婚期が遅くなると言われているらしく、セレナさんとユリアさんもキングレオを撫でながらそんなことを言っていた。
う、うーん、宮廷魔導師の女性にも、一人婚期の件で悩んでいる人がいるんだよなあ。
「私も、中々相手が見つからない。困ったものだわ」
「わ、私は実家の事件の件があるので。でも、難しいですね」
ローズさんとミュウさんも、婚期の件で少し悩んでいました。
う、うーん、四人とも美人さんだし、ちょっとしたきっかけがあれば直ぐに結婚しそうなんだけどなあ。
「ほら、ナッシュお兄様も何か言わないと。ケンばっかりフォローしているよ」
「む、無理だ。こういうのは、既婚者はやっかみを受ける」
「私も無理に慰めるのはよしておこう」
結局、ナッシュさんとビスマルクさんも悩める四人の女性からスススと離れていった。
あの、僕だって既婚者ですからね。
しかし、残念ながら僕が解放されたのは夕食前だった。
その間に、ナッシュさんとビスマルクさんは逃走した。
僕はというと、話という名の愚痴をずっと聞いてヘロヘロになってしまったのだった。
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