第二百四十三話 オオクズ伯爵家への強制捜査
僕とクリスは、急いで着替えてヘルナンデス様のところに戻った。
僕は宮廷魔導師の服で、クリスは軍服だ。
「シルバ、トラちゃん、リンゴちゃん、みんなを守ってあげるんだよ」
「「ガルッ!」」
フリージアお祖母様と一緒にノーム準男爵家に向かう三匹に、ちびっ子たちの事を任せた。
そして、僕とクリス、それにスラちゃん達はヘルナンデス様と共に馬車に乗って目的地に向かった。
「ノーム準男爵とは、現地で合流する事になっている。相手の貴族が爵位を盾に反抗する事も予想されるから、対抗措置としてルーカスも参加する」
馬車内でヘルナンデス様が相手の貴族について教えてくれたが、伯爵の面倒くさい貴族主義勢力らしい。
確かに僕やエレンお祖父様の方が爵位が下なので、相手が尊大な態度に出る可能性がある。
でも、公爵家のヘルナンデス様に加えて侯爵家のルーカス様も一緒だと、相手も反抗するのは難しいはずだ。
スラちゃん達も、十分に気をつけると触手をフリフリとした。
そんな事を話していると、目的地である伯爵家に到着した。
「おっ、来たな」
「おお、ケン君達も来たのか」
既に屋敷前には、ルーカス様とエレンお祖父様もついていた。
だが、屋敷を囲む柵の門の所で止まっていた。
えーっと、これってもしかして……
ガシャン、ガシャン。
「おい、国からの命だ。今すぐ開けろ!」
「くそ、開けるものか!」
やはりというか、門が閉まっていて押し問答状態だ。
どうして、貴族主義の貴族はこうして無駄に抵抗するのだろうか。
「時間が惜しい。ケン、開けてくれ」
ヘルナンデス様も、溜息をつきながら僕に指示をしました。
僕も、直ぐに門に近づきます。
シュイン、ガチャ。
「「えっ!?」」
僕が解錠の魔法で門を開けると、門を開けようとした軍の兵も開けさせないと抵抗していた門番もキョトンとした。
そして、訳が分からないという門番の肩をヘルナンデス様がポンポンと軽く叩いた。
さてさて、時間がないからさっさと敷地の中に入りましょう。
ガチャガチャ。
「やっぱり、屋敷の玄関ドアも閉まっています。しかも、玄関ホールに人が集まっていますね」
「では、玄関ホールの鍵を開けても突入はせずにする。ケン君、解錠タイミングを指示する」
兵が配置に着いた所で、ルーカス様がハンドサインで合図を送ってくれた。
三、二、一。
シュイン、ガチャ。
「「「「「うぉらー!」」」」」
ブオン、スカッ。
玄関ドアを開けた瞬間、玄関ホールに潜んでいた成らず者が突っ込んできた。
勢いよく剣を振り下ろしたが、残念ながらそこに僕達はいない。
「取り押さえろ!」
「「「「「はっ」」」」」
「がっ、くそ!」
「離しやがれ!」
ヘルナンデス様が兵に指示し、直ぐにならず者は捕らえられた。
改めて安全を確認し、僕達は屋敷の中に入った。
「これはこれはオオクズ伯爵様、中々な熱烈な歓迎ですな」
「ぐっ、黙れ!」
ヘルナンデス様は、敢えて笑顔で体の大きな貴族に話しかけた。
玄関ホールには、もう一人焦った表情をしている少し若い男性と多数のならず者の姿があった。
この時点で、オオクズ伯爵は軍の命令を聞くつもりは全くないと直ぐに分かった。
「しかし、こりゃ凄い調度品だな。私の家の調度品よりも豪華だ」
「ふ、ふん。貴族が贅沢をして何が悪い!」
あらら、ルーカス様が軽く言っただけなのに、オオクズ伯爵は更にヒートアップしていた。
何というか、玄関ホールにも無駄に豪華な調度品が並んでいて、統一性がないというか。
「実は、キケン伯爵様の事件捜査の中で、オオクズ伯爵様の贈収賄や商店との違法な癒着が判明した次第です。随分と、お金を貯め込んでいるようですね」
「下級貴族が、上級貴族たる儂に指図するな! ちょっと金を稼いだくらいで、大事にするな!」
あらら、エレンお祖父様が罪状の説明したら、オオクズ伯爵の態度が一変した。
やっぱり、下級貴族などを格下だと見下しているんだ。
僕も、簡単に話をしてみよう。
「強制捜査執行命令ですので、軍の捜査を邪魔するのは命令違反になります」
「けっ、ぽっと出の新興貴族が粋がるな! 儂の屋敷なんだから、儂の言う事が絶対なんだ!」
おお、オオクズ伯爵は唾を飛ばしながら物凄い勢いで喋っているよ。
貴族主義の貴族にとって、僕はまさに目の上のたんこぶなんだろうね。
ヘルナンデス様やルーカス様も、かなり呆れているぞ。
「じゃあ、そろそろいいか。ケン君、クリス、先に邪魔者を叩きのめしてやれ」
「「はい!」」
ヘルナンデス様ももういいかということで、ため息をつきながら僕とクリスに指示を出した。
僕とクリスは、人を殺さないように敢えて木剣を構えた。
シュッ、バシッ、ボカッ。
「「せい、やあ!」」
「「「「「ぐはぁ!」」」」」
僕とクリスは、身体能力強化魔法で一気にスピードアップし、十人以上いたならず者をあっという間に叩きのめした。
一分も掛からずに終わったけど、かなり弱かったなぁ。
「「えっ?」」
オオクズ伯爵と息子は、僕とクリスの動きが見えなかったようだ。
一瞬にして全員倒れたので、状況を良く理解できていない。
「ふ、ふん。コイツラを倒した所で、お前たちの欲しい証拠は今ごろ執事が破棄しているはずだ」
自分が追い詰められると知るやいなや、オオクズ伯爵は大きな態度に出た。
でも、執務室で何かしているのは既に読んでいた。
そして、実はいつも僕達と一緒にいるスラちゃん達の姿がありません。
ぴょんぴょん。
「な、なんだ?」
このタイミングで、スラちゃんが廊下の奥の方から玄関ホールにやってきた。
オオクズ伯爵は、突然目の前に現れたスライムに少し怪訝そうにしていた。
そして、この後オオクズ伯爵は、信じられないという表情に変わる。
シュッ、ドサドサ。
「げー!? こ、これは!」
スラちゃんがアイテムボックスから取り出したのは、オオクズ伯爵が執事に廃棄を命じた数々の証拠品だ。
オオクズ伯爵は、目が飛び出そうなくらい驚いているぞ。
「お前らがここで私達を足止めしていたように、私達も敢えてお前らを玄関ホールに引き付けていた。お前らのやる事など、とっくにお見通しだ」
「ぐっ……」
ヘルナンデス様は、かなり呆れながら作戦のネタバラシをした。
実は屋敷の裏口が開いていたので、スラちゃん達には裏口から入って証拠品を押さえてもらった。
これで、もう終わりだ。
すっ、シャキン!
「「くそー!」」
オオクズ伯爵親子は、胸元からナイフを取り出して破れかぶれで僕達に突っ込んできた。
ところが、オオクズ伯爵親子の威勢の良い声は一瞬で途絶えた。
ガシッ、ドタドタ。
「「うがー!」」
ドテーン。
オオクズ伯爵親子は普段全く運動しないのか、走り出した瞬間足がもつれて豪快に転んだ。
膝などを強く床に打ち付けたのか、苦悶の表情を浮かべているぞ。
もちろん、兵はそんなのお構いなしにオオクズ伯爵親子を取り押さえた。
「何というか、みっともない捕まり方ですね……」
「大犯罪者にしては、呆気ないな」
ルーカス様も、オオクズ伯爵親子の捕まり方は思わず呆れる程でした。
しかし、オオクズ伯爵親子は動けないのか、担架に乗せられて運ばれていった。
もちろん、僕やスラちゃんがオオクズ伯爵親子を治療する事はなかった。
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