第二百二十三話 シンシアお姉様の出産
もう間もなく学園のテスト入園生の入園式が開かれるのだが、その前に大きなイベントが発生した。
それは、屋敷で朝食を食べていた時だった。
「失礼します。シンシア様の陣痛が始まったとの事です」
「「「おおー!」」」
ハンナおばさんが僕達に教えてくれ、アイちゃん達はかなりビックリした。
でも、アイちゃん達はまだ陣痛とかは分からないから、何かのイベントが起こるのだと思っているみたいだ。
「あのね、これからシンシアお姉様は赤ちゃんを産む為に頑張るんだよ。明日になれば、赤ちゃんに会えるはずだよ」
「「「わあ!」」」
僕の説明を聞き、アイちゃん達は赤ちゃんに会えると期待を持っていた。
そして、スラちゃん、アクアちゃん、シロちゃん、レモンちゃんは、直ぐにうちの馬に乗って、シンシアお姉様が嫁いだメダリオン男爵家へと向かった。
みんな、シンシアお姉様の出産をサポートするぞとやる気満々だ。
でも、僕もクリスも出産に時間がかかるのを知っている。
なので、今は普通に仕事に行く事にした。
「そうか、遂に出産が始まったか。ケン君を幼い頃から面倒をみてくれた人だ、気になるのは当然だな」
王城の執務室について事情を説明すると、アーサー様も直ぐに状況を理解してくれた。
更に、赤ちゃんが産まれたら見に行って良いとまで言ってくれた。
でも、仕事はキチンとやらないと。
僕は、目の前の書類の整理を始めた。
逆に、仕事に集中すれば気持ちも落ち着くと思った。
「そうなの、出産が始まったのね。ケン君にとっては姉みたいな存在だったし、私も感慨深いわ」
昼食を王家の食堂で招かれ、話を聞いた王太后様はとても感慨深そうに話した。
今思えば、僕にとって年齢が近い初めての人だった。
いつも僕の事を気にかけてくれ、優しく接してくれた。
本当にとてもありがたい存在だ。
なお、既にメダリオン男爵家へ出産祝いを贈っていた。
いつもと同じ物になるが、やはり実用的なオムツやタオルはとてもありがたいと言われた。
「うーん、時間がかかっていますね……」
ところが、夕方になっても赤ちゃんが産まれたという連絡が入らなかった。
初産は時間がかかるとはいえ、流石にちょっと長いかなと思ってしまった。
結局業務も普通に終わったので、軍の施設でクリスを拾ってメダリオン男爵家へと向かった。
すると、出迎えてくれたアクアちゃんがびっくりする事を教えてくれたのだ。
ふりふりふり。
「えっ!? もうとっくに赤ちゃんは産まれていて、仕事の邪魔にならないように敢えて黙っていた?」
「えー!?」
これには、僕もクリスもかなり驚いてしまった。
アクアちゃん曰く初産にしてはかなり安産で、おやつ前の時間には赤ちゃんを出産したという。
思わぬ事実にガクリとしてしまったが、めでたい事は間違いない。
ということで、急いで赤ちゃんのいる部屋に向かった。
コンコン、ガチャ。
「あら、ケンじゃない。いらっしゃい」
「「「「いらっしゃーい!」」」」
部屋に入ると、普通にしているシンシアお姉様とアイちゃんやルートちゃん達ちびっ子が僕とクリスを出迎えてくれた。
うん、本当に元気そうだ。
そして、ベビーベッドにはとても元気な赤ちゃんとスラちゃん達の姿があった。
すると、ちびっ子達が僕達のところにニコニコしながらやってきた。
「あのね、男の子なんだよ!」
「オルテガちゃんなんだよ!」
「とってもかわいいんだよ!」
「かわいいよ!」
ちびっ子達がわちゃわちゃとしながら話し、更に僕とクリスの手を引っ張ってベビーベッドに連れて行った。
「うにゅ」
赤ちゃんは僕やシンシアお姉様と同じ蒼色の髪をしており、とても小さくてあどけない表情だ。
スラちゃん曰く、母子共に健康だという。
「でも、シンシアお姉様も酷いですよ。赤ちゃんが産まれたのを黙っていたなんて」
「うちの人にも言わないでいたから、流石にケンにも言わなかったのよ。特に、ケンはとても重要な仕事をしているからね」
シンシアお姉様は、ごめんと言いながら訳を話してくれた。
実はシンシアお姉様の旦那さんであるガイアさんだけでなく、メダリオン男爵家当主のチャーチルさんも赤ちゃんの誕生をとても楽しみにしていたという。
仮に、二人に赤ちゃんが産まれたと伝えたら仕事にならないと思ったという。
僕は、赤ちゃんの誕生に立ち会う事に慣れていたから大丈夫かなと思われていたという。
「でも、元気な男の子が産まれて良かったですね」
「本当よ。跡取り息子だったから、本当にホッとしたわ」
これで、女の子が産まれたら早く男の子を産めと周りから圧力をかけられる事があるという。
メダリオン男爵家の人は良い人でも、周囲はそうではない可能性もあった。
「スラちゃん達は、暫く交代でいるそうです」
「スラちゃんの治療は、本当に助かったわ。それに、他の人の出産にも立ち会っているから手際が良いと助産師さんも褒めていたわよ」
治療ができるだけでもとてもありがたいし、スラちゃん達は出産の立ち会いにも慣れている。
でも、王太后様からスラちゃんが出産に立ち会うのは特定の貴族に限られている。
それだけ、みんなが特別なスライムだと言う事だった。
さて、そろそろガイアさんも仕事から帰ってくるはずだ。
きっと、この部屋も賑やかになるはずだ。
こうして、メダリオン男爵家に新たな命が誕生したのだった。
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