第百四十五話 王都への帰還と謁見
ガルフォース辺境伯家に二日間滞在し、僕たちは王都へ帰還する事になった。
当初予定していた新型魔導船の試験飛行は、兄の護送の往復分も含めてテストする事ができた。
これから、得られたデータを元に更に改良を加えるという。
「間もなく、王都郊外の軍の施設に到着します」
「「やっと戻って来た……」」
魔導船内に流れる館内アナウンスを聞き、ナッシュさんとクリスはかなり安堵の表情を浮かべていた。
当初の予定を遥かに超えての、国境への旅だったもんなあ。
魔導船は無事に王都郊外の軍の施設に到着し、用意された馬車に乗って王城へと向かった。
そして、てっきり狭めの玉座の間に案内されると思ったら謁見の間に案内された。
「「わあ、凄い……」」
ナッシュさんとクリスは、豪華な装飾が施された謁見の間の扉に目が釘付けだった。
そういえば、僕が初めて謁見の間に行った時も同じ感想を漏らしていたっけ。
ナッシュさんもクリスも、初めて謁見の間に入るそうだ。
「これから、我々は多くの貴族の前で到着報告をする。兄上からもお褒めの言葉があるだろう」
「基本は伯父上と私で話をするが、ケン君も何か話す機会があるだろう」
「「ホッ……」」
ヘルナンデス様とルーカス様が苦笑しながら説明すると、ナッシュさんとクリスはかなりホッとした表情をした。
あの、流石に僕も大勢の貴族の前で陛下に話をするのは緊張するんですけど。
ギギギギ……
「ニース将軍一行の到着になります」
そんな事を話していたら、係の人のアナウンスを合図に謁見の間の扉が重厚な音を立てながらゆっくりと開いた。
僕たちは、姿勢を正して表情を引き締めながらゆっくりと歩いて行く。
スラちゃんたちも、ぴょこぴょこと僕たちの足元をついてきた。
そして、大勢の貴族が見守る中、玉座の前に伸びている絨毯の切れ目で膝をついて頭を垂れた。
「国を守りし者共、面を上げよ」
陛下の厳かな声で、僕たちは顔を上げた。
陛下は、一瞬ニヤリとしてからヘルナンデス様に話しかけた。
「ヘルナンデス、急遽の国境への移動並びに帝国との停戦交渉の成立、誠に大義である。先に話をしたが、今回の戦闘は帝国側の体制変更を起因とする難しいものだ。よく、交渉を取りまとめた」
「畏れ多くも陛下にお褒め頂き、恐悦至極にございます」
既に陛下やアーサー様が大体の概要を話してくれていて、僕たちとしてはとてもたすかった。
陛下とヘルナンデス様、またルーカス様は、形式的な話のやり取りをしていた。
こういう堅苦しい言葉のやりとりは、僕にはまだ無理だ。
「ダイナー男爵家ナッシュ、並びにクリスも、難しい戦況下で良く対応した。兄妹揃って、優秀な成果を上げたと言えよう」
「「あ、ありがとうございます」」
ナッシュさんとクリスは、まさか話を振られるとは思っていなかったみたいだ。
ダイナー男爵家の名を挙げることにもなり、物凄い功績と言えるだろう。
とはいえ、兄妹揃って無難に対応していた。
「そして、忘れてはならないのが【蒼の治癒師】の活躍だ。二日間に渡り帝国から放たれた魔法を完璧に撃退し、更に王国の勝利を決定付ける大活躍をした。今回の戦闘の勝利は、アスター男爵の活躍無くして語れないだろう」
「陛下、お褒め頂きありがとうございます」
陛下は僕に最大限の賛辞を送り、周りにいる貴族も僕に拍手を送った。
僕の横にいるクリスも、僕にニコッと微笑みかけていた。
「帝国とはまだ様々な調整中だ。今後とも、気を引き締めて政務にあたるように」
「「「「「はっ」」」」」
こうして、僕たちを出迎えての臨時の謁見は無事に終了した。
僕たちは謁見の間を先に退場し、使用人の案内で応接室へと移動した。
すると、僕たちのところに歩いてきた幼児がいた。
トコトコトコ、ギュッ。
「おー!」
「ジョセフちゃん、ただいま」
「おー!」
ジェセフちゃんは、父親のルーカス様ではなく何故か僕の方によちよちと歩いてきた。
これには、ルーカス様も応接室にいたシーリアさんも思わず苦笑していた。
「ジョセフは、私のところに来ないのか?」
「あとー」
どうやら、ジョセフちゃんは僕に抱き着いてからルーカス様のところに行くようだ。
満面の笑みでルーカス様に話すジョセフちゃんが、かなり可愛らしかった。
「ビアンカちゃんも久しぶりね」
「あうあう」
クリスは、シーリアさんが抱っこをしているビアンカちゃんを覗き込んでいた。
ビアンカちゃんも、ぐずることなくとっても機嫌が良かった。
ガチャ。
「ははは、ルーカスは息子をケンに取られてしまったか」
「ケン君の力には勝てませんよ」
「うにゅ?」
ここで、王族の方々も応接室に入ってきた。
更に、エレンお祖父様やビースリーさんも一緒に応接室に入ってきた。
親子の微妙な会話を、孫のジョセフちゃんは不思議そうに眺めていた。
改めてソファーに座ったが、ジョセフちゃんがルーカス様に抱っこされていてとてもご機嫌だった。
「「えへー」」
その代わり、王家の双子ちゃんが僕に抱き着いているけど。
王妃様も王太后様も、思わずニコリと眺めていた。
「先ずは、ルーカス、ナッシュ、ケン、クリスはよくやったと言えよう。特に、ルーカスとクリスは反逆兵に対する難しい対応をとった。このことも、褒められるべきだろう」
「「ありがとうございます」」
ルーカス様とクリスは、ソファーから立ち上がって陛下に一礼した。
そして、僕もスッとソファーから立ち上がると、エレンお祖父様も一緒に立ち上がった。
「陛下、重要な作戦実施中に兄が大変なことをしました。深くお詫び申し上げます」
「私からも、謝罪いたします。不出来な孫で本当に申し訳ありません」
「うむ、二人の謝罪を受け入れよう。二人とも、不出来な肉親の呪縛に囚われていた。もう、気にすることはないだろう」
陛下も、肉親の争いは難しいと腕を組んで唸っていた。
そして、陛下はこんなことも言ってきた。
「本来なら、ケンは子爵に陞爵させても良かった。しかし、兄の件で文句を言う貴族は必ずいる。それなら、兄のそしてギャイン騎士爵家への正式な裁判を経て、来年の新年の謁見で発表する方が良いだろう。帝国側との件もあるし、今は無用な争いを起こす必要はない」
「陛下、色々と配慮頂き感謝します」
あの謁見が直ぐ終わったのも、兄の件で僕がツッコまれるのを防いだという。
やはり、陛下は筋肉ムキムキだけじゃなくとても頭が切れた。
そして、陛下はこの事にも言及した。
「そうそう、ナッシュとクリスの官僚試験の件も聞いたぞ。特に、ナッシュは国境での戦いを経験した貴重な軍の幹部候補だ。是非とも頑張ってもらわないとな」
「「が、頑張ります……」」
陛下にもこう言われちゃったら、兄妹揃って頑張らないと駄目だろう。
ナッシュさんとクリスは、真顔で陛下に頭を下げていた。
因みに、父親であるビースリーさんは子ども二人が官僚試験を受験するのに大賛成だという。
結婚式は秋だし、女性陣が張り切って準備しているからやることはないだろうと言っていた。
こうなると、ナッシュさんとクリスは頑張って勉強をやらないといけないね。
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