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毒父に物資として戦地に送られた転生治癒師、無自覚チートで何でも癒しちゃいます  作者: 藤なごみ


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第百四十三話 帝国との停戦交渉

 翌日は、いよいよ停戦交渉が行われる。

 十時頃に帝国側の陣地で行われることになり、僕たちもキチンとした服に着替えた。


「あの、僕は宮廷魔導師の服で良いのでしょうか?」

「もちろんだ。帝国軍に成長したとみせつけてやれ」


 ヘルナンデス様は、僕の服装は何も問題ないと言ってくれた。

 クリスやナッシュさんたちも、専用の軍服に着替えた。

 僕たちは、早めに帝国側の陣地に向かうことになった。


「ご苦労、異常はないか?」

「はっ、異常はありません」


 王国の国境の基地から歩いて帝国側の陣地に到着し、僕たちは前回の停戦交渉も行われた応接室に入った。

 ここで、ヘルナンデス様が僕にある指示を出した。


「今回も帝国軍はレーベンス大将が出てくる。しかし、どうやらレーベンス大将は怪我をしているようだ。ケン君、会議の前に治療をしてやってくれ」


 レーベンス大将は、帝国軍の中でもとても頭が良くて僕にも良くしてくれた。

 怪我をしたと聞いて、僕とスラちゃんは少し不安になってしまった。


 ガチャ。


「皆のもの、待たせて済まない」

「「「レーベンス大将!?」」」


 応接室に現れたレーベンス大将は、左腕を肘から先を失って三角巾で吊っていた。

 しかも、足も怪我をしているのか引きずるような歩き方だった。

 他の帝国軍の幹部も複数の怪我をしていて、一体何があったのかと僕だけでなくヘルナンデス様とルーカス様もかなり驚いていた。


「ケン君、急いで治療してくれ!」


 僕は、ヘルナンデス様の指示よりも先に身体が動いていた。

 そして、急いでレーベンス大将の治療を始めた。


 シュイン、ぴかー!


「おお、これは凄い……」


 レーベンス大将は、自身の体の回復にかなり驚いていた。

 失っていた腕の先を再生でき、怪我をしていた足も治療できた。

 だが、他にも複数の怪我があった。


「レーベンス大将、体中にあざもありました。本当に、本当に酷い状況です……」


 あまりにも酷い状況に、僕は思わずポタポタと涙を流してしまった。

 そんな僕のことを、レーベンス大将がガシガシと再生した手で少し強く撫でてきた。


「あの小さかったケン君が、本当に大きく立派に育った。交渉の場にケン君がいるとなると、下手に治療するよりも確実に治療できるだろうと思った」


 レーベンス大将は、どうも怪我をしても急いで国境に来る理由があったのだろう。

 僕も、涙を拭いてスラちゃんと共に他の人の治療をした。

 他の人も酷い怪我を負っていて、手首から先を失ったものもいた。

 全て治療し、僕とスラちゃんは席に着いた。


「その、帝国軍でも知っている良い人が大怪我をするのは、とてもショックです。悪いことをしたのならともかく、無意味に人が傷ついたり死んだりするのは僕は嫌です……」

「ケン君は、本当に優しい子だ。確かに、民を巻き込む無駄な争いや犠牲は起きてはならない。今回、本当に痛感した」


 僕の呟きに、レーベンス大将が溜息混じりに返事をした。

 そして、改めて自己紹介を行った。


「そうか、ケン君も婚約したのか。いやはや、子どもの成長はとても早い。私も年を取るわけだ」


 クリスの自己紹介を聞き、レーベンス大将だけでなく他の帝国軍の幹部もニコニコしながら僕をみていた。

 何だか、親戚のおじさんに婚約者を紹介した気分だ。

 自己紹介の後で、レーベンス大将は帝国側で何があったかを教えてくれた。


「知っての通り、帝国には国力を高める政策をする者と豊かな王国を攻めて資源を奪おうとする者がいる。ところが、ここ数年は帝国は開戦派が暴走した上に連戦連敗だ。次第に、開戦派は勢いを削がれていった」


 そういえば、昨年の衝突も確か帝国軍の一部が暴走したんだっけ。

 実は、その昨年の衝突も今回の戦闘に絡んでいるという。


「そして、開戦派だった皇帝が亡くなり、現実主義の皇子が皇帝になった。過剰に膨れ上がった軍費を正常なものにし、国力増強を宣言した。これにより、開戦派が焦ったのだろうな。皇帝を監禁した上で我々を襲撃し、一気に王国を攻め落とそうとした」


 つまり、開戦派の暴走が今回の戦闘の要因だったんだ。

 そして、レーベンス大将たちは開戦派から襲撃を受けて大怪我を負ったんだ。


「主だった開戦派は、クーデター後に殆ど国境に向かった。それもあり、直ぐに帝都の軍のコントロールを奪い返した。そして、開戦派が指揮した帝国軍はケン君の活躍もあって完敗という訳だ」

「あっ、捕縛した帝国兵に幹部っぽい人が多いなと思ったんですけど、そういう理由だったんですね。やけに好戦的だなと思いました」

「正に、ケン君の言う通りだ。血気盛んなくらいならまだ良いが、周りの状況も分からないのではどうしょうもない」


 何だか、色々な事が分かって納得できた。

 そして、この辺りの情報はヘルナンデス様も持っており、整合性が取れるという。


「捕虜の交換については、今回は帝国軍は王国軍の捕虜を取っていない。全て帝国軍が王国側の捕虜になっている」

「王国側も相違ない。帝国軍で亡くなった兵の遺品も整理してある」

「非常に助かる。ただ、まだ受け入れ準備ができていないので、明日朝からお願いする」


 王国側としても、捕虜は速やかに返還したい思惑があった。

 帝国側も、クーデターを起こした張本人なので早く受け取りたかった。

 捕虜返還後に帝国側の陣地を返還するという、六歳の時の停戦交渉とほぼ同じ流れだった。

 その後の細かい交渉は、担当が行うという。

 これで、全体の話は終わったのだけど、僕は気になることがあった。


「あの、レーベンス大将、他にも怪我をしている人がいるのではないですか?」

「ケン君は、そういうところまで気にしてくれるのか。その他の者は大丈夫だ、心配してくれてありがとう」


 どうやら、スラちゃんの勘でも本当に問題ないみたいだ。

 開戦派は、それだけレーベンス大将を目の敵にしていたんだ。

 もしかしたら、父親や兄みたいな性格なのかもと思ってしまった。

 こうして下交渉は無事に終わり、応接室から帝国軍幹部が退席した。


「「き、緊張した……」」


 そして、ずーっと無言で真面目な表情をしていたナッシュさんとクリスが、思わず脱力していた。

 確かに、僕も初めて停戦交渉の席に着いた時はかなり緊張したよね。


「ケン君は、流石の対応と言えよう。二人とも、今後とも精進するように」

「「はい」」


 ヘルナンデス様に指摘され、ナッシュさんとクリスは立ち上がって返事をした。

 二人とも全く同じ仕草で、改めて兄妹なのだなと思ってしまったのだった。

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