第百三十八話 国境へ急げ
翌朝、魔導船は順調に軍事基地を離陸した。
予定では、お昼前にはガルフォース辺境伯領に到着予定だ。
僕も宮廷魔導師の服に、クリスも騎士服に着替えており、いつ着陸しても良いようにしていた。
カキカキカキカキ。
ナッシュさんはというと、誰に言われなくても勉強をしていた。
きっと、色々と後ろめたいものがあるのでしょう。
一緒に勉強しているクリスも、兄の態度を見て特に何も言わなかった。
このまま真面目にしていれば、僕もケーラさんとコリーナさんに昨日のマヤ様の件は言わないでおこう。
こうして色々ありながらも魔導船は順調に進み、予定通りお昼前にガルフォース辺境伯領の軍の施設に着陸した。
「ルーカス様、ちょっとお耳に入れて頂きたいことが……」
「なに? 念のために、部隊を国境に送るように。空振りでもいい」
「直ぐに対応します」
魔導船が着くなり出迎えの兵が僕達に寄ってきて、その中にいた幹部がかなり真面目な表情でルーカス様に耳打ちした。
ルーカス様の指示内容を聞くに、どうやら国境で何かがあったみたいだ。
そして、ルーカス様は僕たちにも指示を出した。
「ガルフォース辺境伯家に行くのは中止だ。これから急いで国境に向かう。昼食も、馬車内で食べるぞ」
「「「はい!」」」
かなり至急の事らしく、僕達も用意された馬車に乗ってサンドイッチを食べることになった。
水は水魔法で生み出せるので、僕とスラちゃんたちで対応する。
少し大きくなったランディちゃんに会えるかなと思ったけど、暫くお預けとなりそうだ。
そして、馬車内でルーカス様が何が起きているかを教えてくれた。
「王国の監視員から、帝国が国境の施設前に兵を整列させていたという」
「えっ、それって!」
「ケン君は経験があるから分かるだろう。帝国軍は、何かをしでかすつもりだ」
前回上級官僚試験合格者と一緒に国境に来た時も、帝国はわざわざ施設の前に兵を並べて陽動作戦を仕掛けてきた。
今回は、その時の三倍以上の兵を集めているという。
何事もなければと思っていたのだが、僕たちの願いは届かなかった。
「あっ、国境から砂煙が大量に上がっています!」
「ちっ、戦闘が始まったか。直ぐに動けるように準備をしておけ」
ルーカス様も、少し気持ちが焦っていた。
砂煙は、帝国側からではなく王国側から起きていたからだ。
そして、馬車の窓から砂煙を確認してから十分後、僕たちを乗せた馬車は遂に国境の施設に到着した。
「ぐっ、魔法兵はいないのか……おお、ルーカス様、ケン君!」
司令官のジーグルト様は、施設の前まで出てきて兵に指示を出していた。
そして、僕たちを見て助かったという表情をした。
「ルーカス様、帝国側から大量の魔法と矢が打ち込まれております。奇襲部隊は何とか撃退したのですが、飽和攻撃に切り替えたようです」
流石ジーグルト様だ。
この状況でも、陽動作戦には引っかからなかったんだ。
となれば、僕たちも攻撃を防ぎきれるはずだ。
「防壁を破壊して、一気に制圧するつもりだな。ケン君、魔法を撃ち落としてくれ!」
「いつでもいけます!」
シュイン、ズドドドドーン!
僕は、溜めた魔力を一気に放った。
帝国側の魔力を感じて、正確に撃ち落とすことに専念した。
攻撃タイプのリーフちゃんとアクアちゃんも防壁の上に上がり、僕と共に帝国側から放たれている魔法を撃ち落としていた。
魔力弾やカノン系魔法、カッター系魔法など、ありとあらゆる魔法が帝国側から撃ち込まれていた。
魔法の形状に合わせて、僕たちは冷静に対処した。
「「「ぐっ……」」」
「怪我人はこっちで治療します」
「私も手伝う。しっかりしろ!」
スラちゃん、シロちゃん、レモンちゃんがいるので、負傷兵への治療はバッチリだ。
クリスとナッシュさんも治療を手伝ってくれ、次々と負傷兵が運ばれていった。
ジーグルト様とルーカス様が兵に的確に指示を出し、戦線は一気に立て直された。
夕方まで戦闘は続いたが、暗くなってきたタイミングで帝国側からの飽和攻撃は止まったのだった。
「ルーカス様、ジーグルト様、もう暗くなってきたので、帝国側の正確な位置が分かりません」
「ケン君、無理をする必要はない。あれだけの攻撃を防ぎきっただけでも、今日は大きな収穫と言えよう」
数時間に渡って帝国側からの攻撃を撃退したので、僕の魔力もかなり減っていた。
でも、万が一に備えて僕とスラちゃんで国境の基地の防壁の仮修復を行うことにした。
シュイン、ズゴゴゴゴ。
「これで、何とかなったと思います。でも、流石に魔力も底を尽きそうです」
「ケンは良くやったぞ。前にケンが防壁を強固にしてくれたお陰で、あれだけの攻撃を耐えたって訳だな」
「そうそう。それに、ケンが魔法攻撃を撃退してくれたお陰で、俺たちも大丈夫だと思ったぞ」
ヘロヘロになった僕とスラちゃんを、顔見知りの兵が上機嫌に肩を叩いてきた。
あれだけの攻撃なので残念ながら死者は出たが、それでも損害はかなり少ないという。
寧ろ、帝国側の方が死者は多いという。
「ルーカス様、防壁の仮修復が終わりました。ただ、残り魔力の関係で強化まではできませんでした」
「この状況で、防壁の仮修復ができただけでも上出来だ。再度の強化などは、帝国側の出方を見て行うとしよう」
ルーカス様も、取り敢えずの対応が終わってホッとしていた。
そして、麓の軍の施設から応援の兵も来ていた。
人数もある程度いるし、これなら大丈夫だと思った、その時だった。
ズカズカズカ。
「ケン、貴様が仕事をしないせいで、俺が国境に呼ばれたじゃないか! 死んで俺に詫びろ!」
突然僕に罵声を浴びせた兵がいたかと思ったら、何と僕の兄だった。
兄は、何だかよく分からないことを喚き散らしていた。
そういえば、兄は問題行動を起こし過ぎて国境に送られたんだっけ。
僕と一緒に施設に戻ってきた兵や周囲にいた兵も、兄の態度に超激怒モードだった。
まさに一触即発状態だったが、この人が予想外の行動に出た。
ザッザッザッ。
「うん?」
ブオン、バキッ!
「うがあ!」
ズサッ。
なんと、ルーカス様が兄に無言で近づいたかと思うと、思いっきり顔面を殴りつけたのだ。
兄も予想外だったのか、ルーカス様に殴られて思いっきり吹き飛んでいた。
兄は鼻血を出していたが、それ以上に尻もちをついてワナワナとしていたのだ。
「雑兵は持ち場に戻れ」
「なっ、なな……」
ルーカス様は、兄にそういうと何事もなかったかのように僕たちのところに戻ってきた。
尻もちをついていた兄は、他の兵によって無理矢理起こされて宿舎に連れて行かれた。
そして、ルーカス様は兄のことを「雑兵」と言い切った。
一般兵でもなく雑兵というのが、兄が軍の中で置かれているポジションなのだろう。
「ルーカス様、兄が大変な無礼をしました。本当に申し訳ありません」
「何というか、あの兄はケン君を見ると興奮しないといけない性格なのだろう。正しく父親の血を引いている。しかし、これでケン君の兄の処分が確定した」
ルーカス様は、言葉を選んで僕に話していた。
僕も、兄はどんなことをしても無理だと思った。
何だか、疲れがどっと出た気がした。
「ケン、こんな時はメシを食って寝てしまうのが一番だ。寝ると、気持ちもかなり楽になるぞ」
「そうだな。せっかく婚約者と来ているんだ。仲良くお喋りでもしていな」
僕の周りにいた兵も、かなり気を使ってくれた。
こういう時に、寄り添ってくれる人がたくさんいて本当に良かったと思った。
兄との騒ぎは結構大きな問題となり、食堂で合流したクリスやナッシュさんも僕のことをかなり気にしてくれたのだった。
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