第百七話 とても迷惑な出産祝い
シーリアさんの出産から一週間が経過した。
ジョセフと名付けられた男の子は、少し早産だったが出産後の容体も安定していた。
治療施設なので常に治療兵が待機しており、スラちゃんたちも交代で様子を見ていた。
シーリアさんも直ぐに元気になり、この度軍の治療施設から自分の屋敷へと移動することができた。
因みに、初期対応をした調理室のおばちゃんや兵には報奨金が支払われるという。
急患の対応をした、立派な功績だ。
「しかし、最初に話を聞いた時は本当に驚いたわ。ケン君が側にいて、軍の職員がとても手際良かったこそよ」
今日は、ルーカス様の屋敷に王太后様も来ていた。
確かに、あのドタバタ劇を聞けばひ孫のことがとても心配になるはずだ。
王太后様は、軍の施設にも顔を出して初期対応をした人々に感謝を伝えていた。
みんな、普段シーリアさんが頑張って仕事しているから、少し手伝っただけだとにこやかに話していたのだった。
因みに、クリスはスラちゃんたちと共にジョセフちゃんのところに行っていた。
「でも、僕は部屋の外からでしたけどとても貴重な体験をしました。赤ちゃんが産まれるのって、とても大変なんですね」
「ケン君は、大切なことをよく分かっているわ。だからこそ、命はとても尊いものなのよ」
母親は、命がけで赤ちゃんを出産する。
医療体制の整っていないこの世界だからこそ、産まれてくる命はとても貴重なものなのだろう。
メアリーさんとシーリアさんの出産を通じて、改めて感じたのだった。
「軍の関係者からの贈り物も、たくさんありますね。しかも、調理室のおばちゃんの意見を聞いて、真っ当な贈り物をしてたそうです。でも、変な贈り物もありますね。木彫りの熊とか鹿の剥製とか……」
「アーサーの双子に変な贈り物を選んだ貴族は、今回も変な贈り物をしているのよ。幸いにして魔導具が仕込まれていることはないけど、そうなると品性の問題ね」
王太后様も、問題のある貴族よりもおばちゃんたちが選んだ贈り物の方が遥かにマシだと嘆いていた。
僕も、倉庫行きになった贈り物を見れば直ぐに納得するものだった。
「ふふふ、一気にひ孫が三人も出来てしまったわ。後は、ケン君とクリスちゃんの赤ちゃんを抱っこすることね」
王妃様も、僕とクリスとの子どもを楽しみにしていたっけ。
でも、結婚式はまだまだこれからだし、子どもとなると更に先だ。
コンコン、ガチャ。
「はあ、赤ちゃんとっても可愛かったね」
暫く王太后様と話をしていると、シーリアさんのいる部屋からクリスとスラちゃんたちが戻ってきた。
どうやら、今はレモンちゃんがジョセフちゃんの側にいるようだ。
スラちゃんたちも赤ちゃんに興味津々で、お世話もよくしているという。
「クリス、今度赤ちゃんのお世話を体験してもらえば良いんじゃないかな。とっても大変だと思うよ」
「大丈夫だよ。スラちゃんたちに、赤ちゃんのお世話を教えてもらうもん」
ニコニコしているクリスの腕の中で、スラちゃんが任せろと触手をフリフリした。
そんな僕たちのやり取りを見て、王太后様は微笑ましく見ていた。
すると、ここでとんでもないプレゼントの提案をしてきた貴族が現れた。
僕とクリスもいるけど、取り敢えず応接室に通した。
やってきたのは横に大きい頭頂部に髪の毛がない貴族で、商人みたいに揉み手をしながら現れたのだ。
「王太后様、ひ孫の誕生誠におめでとうございます。勇猛果敢なルーカス様に跡継ぎができ、私どもも喜んでおります」
「ええ、わざわざありがとうね」
うん、やはり貴族は商人みたいな喋り方をしていた。
下心丸見えで、王太后様も表面上は笑顔なんだけど完全に塩対応だ。
すると、ここで貴族がとんでもないことを提案してきたのです。
「実は、ジョセフ様に私の娘を是非嫁にと思っていまして。娘は器量もよく、お似合いか……」
ダン!
ビクッ。
産まれて一週間の赤ちゃんに、大分年上の嫁なんて失礼すぎますね。
王太后様も怒りの表情に変わり、テーブルを叩いて無理矢理貴族の話を中断させた。
僕は何となく予想できたので普通にしていたが、クリスとスラちゃんたちは思わずビクッとなってしまった。
「失礼にも程がありますわ。まだ生まれたてのひ孫に、付き合いも何もないあなたの娘を嫁にだなんて……」
「あ、あ、も、申し訳……」
普段はニコニコととても優しい王太后様の般若のような激怒に、貴族は完全に気圧されてしまった。
だが、もう謝ってもどうにもならないレベルまできてしまった。
「スラちゃん、屋敷の外に運んであげてね」
シュイン、バシッ。
ふわーっ。
「へっ? わあっ!?」
スラちゃんたちは、王太后様に綺麗な敬礼をしてから拘束魔法を使ってから念動で貴族を浮かべて運んでいった。
突然の浮遊体験に貴族当主は手足をバタバタとさせるが、スラちゃんたちの魔法から逃れられる訳がない。
こうして、非常識な貴族の来訪は何とか終わりを告げたのだった。
「今のうちにひ孫との縁を結ぼうとしたのだけど、本当にあり得ないわ。もしルーカスだったら、貴族を切り捨てたのかもしれないわ」
王太后様は、お茶を飲んで一息ついていた。
クリスも、ようやく落ち着きを取り戻したようだ。
この場合、貴族は物理的ではなく王家を敵に回して社会的に切られたのかもしれない。
しかし、自業自得なので僕も何も言えなかった。
そして、この貴族当主はルーカス様の屋敷に出禁となったのだった。
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