第百六話 軍に行く新しいスライムと軍での緊急出産対応
軍に連れて行く予定のスライムは、少し紫色っぽいスライムだった。
何と水魔法に加えて無属性の空間魔法が使え、頑張ればアイテムボックスも覚えるという。
重力魔法も使えるので、かなり貴重なスライムだった。
ブドウちゃんと名付けられた小さなスライムは、スラちゃんたちによって日々鍛えられてた。
王家の双子ちゃんへの贈り物攻勢もようやく落ち着いたので、スラちゃんたちはたまに軍の巡回についていくバイトをしていた。
やはり、スラちゃんたちの獲物の血抜きはとても良いという。
「えっと、ブドウちゃんは基本的に軍の施設にある検問所にいることになったんですね」
「検問所なら、常に人がいるわ。それに、鑑定魔法も覚えたのが大きいわね」
今日は、軍での訓練を兼ねてブドウちゃんの様子を見に来た。
クリスちゃんは、残念ながら実家で勉強中で不在だった。
ブドウちゃんは兵にとても可愛がられており、しかも既に鑑定魔法で不審者を捕まえたという。
そして、僕と話をしていたのは随分とお腹の大きくなったシーリアさんだった。
シーリアさんはもう臨月に入っていて、明日から産休に入るという。
「ほらほら、シーリアはもう無理に動くんじゃないのよ。今は暑い季節だけど、冬だったら大変だよ」
「はーい、分かりました」
軍の施設内にある治療施設に入ると、調理室のおばちゃんがシーリアさんに声をかけていた。
おばちゃんたちはみんな子持ちだから、きっとシーリアさんのことを心配しているんですね。
シーリアさんには治療施設の受付にいてもらい、念のためにシーリアさんの側にリーフちゃんとアクアちゃんにいてもらった。
これなら大丈夫だと思い、僕はスラちゃん、シロちゃん、レモンちゃんと共に治療施設に入院している人たちへの治療を始めたのだった。
「ふう、これで大部屋と個室に入院している人は全員治療を終えました」
「ケン君は、以前よりも格段に回復魔法がパワーアップしているわね……」
治療の間、セレナさんが僕の案内役としてついてきてくれた。
僕は宮廷魔導師なので、軍もそれなりの対応をしないと駄目だという。
もう何回も軍の治療施設で治療をしているから、スラちゃんたちだけでも大丈夫だと思っていた。
こうして二階から一階に戻った時に、ある事件が起きていた。
「うぅ……」
「おい、担架を持ってこい!」
「二階の個室に運ぶぞ!」
何と、受付の中でシーリアさんが横たわっていて、多くの兵が駆けつけてきていたのだ。
シーリアさんは苦しそうな表情をしていて、前髪は汗で額に張り付いていた。
シュイン、ふわーっ。
ここで、シーリアさんの側にいたリーフちゃんとアクアちゃんが、念動でシーリアさんを浮かべて担架に静かに乗せた。
そして、空いている個室病室へと運ばれたのだ。
スラちゃんたちも、担架の上に乗ってシーリアさんに回復魔法をかけていた。
「どうやら、ちょっと早いけど産気づいたみたいだよ。あの子、体を鍛えているから陣痛の初期を少し痛いな程度で済ませていたんだよ」
「それで、陣痛の間隔が短くなって耐えられなくなったみたいね。破水もしているし、ちょっと急がないといけないわ」
調理室のおばちゃんたちも、愚痴をこぼしながら担架の後に続いた。
念のためにと、僕はおばちゃんたちを生活魔法で綺麗にした。
「ほらほら、ここからはあたしたちの出番だよ」
「男は、さっさと部屋から出ていきな」
こうして、おばちゃんたちによって緊急の出産対応が始まったのだ。
スラちゃんたちも部屋の中に入っており、シーリアさんへの治療を続けていた。
更に軍の女性治療兵も個室の中に入っていき、まさに臨戦態勢だった。
「はあはあ。し、シーリアの様子は!?」
ここで、今日は軍の事務棟で仕事をしていたルーカス様が急いで個室の前にやってきた。
とはいえ、ルーカス様といえども出産中の個室の中には入れない。
僕がある程度説明をすると、ルーカス様はあることに気がついた。
「そういえば、今朝シーリアは少し腰を痛がっていた。もしかしたら、それが陣痛の始まりだったのかもしれない」
シーリアさんは、お腹が大きくなったから腰が痛いのかな程度に思っていたという。
普段体を鍛えていて、怪我の痛みにも慣れているのが今回の件に繋がったのかもしれない。
そして、いつの間にか個室の前には沢山の人が集まっていた。
みんな、シーリアさんとお腹の中にいる赤ちゃんは大丈夫なのかと心配そうな表情だった。
「おぎゃー、おぎゃー!」
「「「「「産まれた!」」」」」
シーリアさんが個室に運ばれてから数時間後、遂に個室から元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえてきたのだ。
心配そうにしていたルーカス様や多くの兵も、一気にニンマリとしていたのです。
そして、三十分後に入室の許可が降りた。
念のために、全員生活魔法で綺麗にしてから入室した。
「えっ、こんなにも多くの人が来たの!?」
「あうあう……」
個室のベッドには、きょとんとしているシーリアさんと産着に包まれた赤ちゃんの姿があった。
そして、おばちゃんたちもやりきったという表情だった。
「やっぱり、普段から鍛えているから体力が違うね。初産にしては、安産と言えたよ」
「スラちゃんたちも、上手い具合にサポートしてくれたね」
元々治療施設だから色々なものが揃っていて、更に治療の手も多かった。
スラちゃんたちが、メアリーさんの出産のサポートをした経験があったのも大きかった。
「ほら、父親似の男の子だよ。きっとイケメンになるだろうね」
「「「「「おおー!」」」」」
何というか、ルーカス様よりも一緒に入ってきた兵の方が盛り上がっていた。
ルーカス様は、思わず苦笑いしてから改めて話し始めた。
「おばちゃんたちや、初期対応してくれたものには本当に感謝する。私たちが、夫婦として未熟だと改めて感じた」
「私からも、皆さんにお礼を言います。本当にありがとうございます」
新米の父親と母親は、集まった人たちに深く頭を下げていた。
ここにいる多くの人たちのお陰で、こうして新たな命が誕生した。
僕も、本当に貴重な体験をしたのだった。
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