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理由-2

「ふうん。そんな理由があったとはね……」


 まるで信じられない、そんな風に言いたげな口調でプニちゃんは呟いた。グリモワールに至ってはビー玉のような目を更に丸くしている。普段は表情に出すことは少ない分、かなり驚いている様子だ。それだけルディウスの言葉が思いがけないものであったのだろう。

 

『殊勝な心掛けではありますが、かなりの命知らず……とも言えます』

「命知らずって……」


 ルディウスには幼い頃に両親を失い孤児となった過去があった。この世界の孤児には目を塞ぎたくなるような現実が待ち構えていることが多いらしい。奴隷にされてしまうという未来も少なくなく、ルディウスもその例に漏れなかったという。


「なんで保護施設を建てることが命知らずなの? むしろ賞賛されるべき行動だって思うよ」


 無力な孤児達を保護し明るい未来へと導く——確かにお金がかかりそうなことではある。俗的なことを軽口で語っていたルディウスが本当に考えていたことは、そんな素晴らしいものだった。


 それなのに命を狙われるなんて……もしもそれが本当ならば理不尽にも程がある。わたしはここでは少しズレているのかもしれない。だけどそれがこの世界の常識ならば、そんなものはまっぴらごめんである。


「奴隷商人を敵に回す行為だもん。そりゃあ賞賛も得るかもしれないけど、深く根付いた悪しき文化を利用している奴等からは絶対に目の敵にされるから」 

「そんなの身勝手な奴らの傲慢な考えじゃんか。そもそも奴隷は禁止されてるんでしょ」

『澪様。力がある者は力がある者と繋がっているものなのです』

「……?」

『さてと、ルディウス。何故ドゥライヤに雇われていたのですか?』


 確かにグリモワールがそう疑問に思うのも無理はない。ルディウスはドゥライヤが奴隷商人だという事実を知らないわけがない。だとするならばルディウスの言動はかけ離れているものになるからだ。


「確かに保護施設を作るのは俺の目的だ。だがそれだけじゃだめだ。そもそもの根源を断たなければ解決しない。俺がドゥライヤの懐に入り込んだのは——」

『なかなか過激な思考をお持ちのようですね。しかし、となるとこちらにも問題が発生します。それはルディウス、貴方にも想像がついたのでは?』

「ああ、分かってる。話はまだ終わってない」


 聖女の威光を利用する——これがルディウスの狙いだった。ドゥライヤに狙われる立場になったルディウスは、利

用できるものは利用しようという魂胆だったのだろう。


「そもそも金なんてはなから期待してねえよ」

「そ、そうだったの?」

「どっからどう見ても羽振りがいいようには見えないからな」

「だったら最初から言ってくれれば良かったのに」


 どうであれルディウスにそんな考えがあるならば、わたしは協力したいと思ったに違いない。利用すると言えば聞こえは悪いかもしれないが、それが悪行でないのならばなんの問題もないはずだ。むしろ威光なぞあったとしても、この通り持て余しているのだから、上手く使ってくれとさえ思う。

 

『傭兵業を生業にしている者ならば出会ったばかりの人間をまるっきり信頼するなんてしません。それにしては腹の内を明かすのが早い気もしますが』

「人を見る目は自信があるからな。素直に話して同賞誘った方が後々いい方向に行きそうだと感じただけだ」


 理由がどうであれドゥライヤの元へと向かうのは変わらない。それよりもわたしはルディウスが本音を話してくれた方が嬉しかった。


 奴隷制度を悪とする考えを持った人間と共に行動をすることは、わたしにとっては安心出来ることであった。異なる常識や受け入れられない制度があったとしても、同じ価値観を持っている人がいることは単純に嬉しかったのだ。


『またそんな風に……澪様の優しさにつけ込んでいるとも考えられますよ』

「でもわたしはそんな風習は無くなればいいと思うし、利用する奴等もいなくなればいいのにって思うよ」


 今も意識を失っている希少種達を眺めるたびにそう感じる。どんな理由があったとしても、他人の自由を縛り付けるなんて許せない。


「いいんじゃない? ミオの様子を見てると、今後の指針にもなっていくかもしれないし」

『……まあ、一理ありますね』

「そもそもの話だ。お前らが邪魔に入らなければ、もっと単純に済んでたかもしれないんだぜ」

「邪魔なんてしてないじゃんか」

「俺はこいつらにこれ以上危害を加えるつもりはなかったぜ。想像以上に腕が立つんで手荒にはなっちまったがな。そのまま治療して説得するつもりだったし、隙をついて捕えられた奴隷を逃す算段もあった」


 ……そう言われると邪魔をしたと思われても仕方がないのか? 


「それでその後はドゥライヤと刺し違えると」

「……お前は変な見た目とは裏腹に核心を突くな」

『貴方の実力ではそれが上手くいったとは到底思えません。無惨に散るのが関の山。むしろ貴女が澪様を巻き込んだだけというのが正しいのでは?』

「どっちでもかまわねえよ。俺からすりゃあ終わり良ければ全て良しだ」


 恐らくグリモワールのいった新たな問題とは『聖女が奴隷制度に一石を投じる』ことなのだろう。身分を明かさずにドゥライヤの件を片付けるのと、自ら名乗り出て片付けるのでは後々問題が出てくるのかもしれない。それがどう後を引くのかはわたしには想像も出来ないが、グリモワールはその点を危惧しているように感じた。


「どっち道そんなことしたらダメでしょ。ルディウスがいなくなったら誰が保護施設を作るのさ」

「あのな、こんな計画一人で出来るわけねえだろ。サポートしてくれる仲間もいる。本丸を叩けるなら俺の命なんて安いもんさ」

『……ま、いいでしょう。澪様も乗り気のようですし』


 乗り気は少し違う気もするが、協力することに関してはやぶさかではない。むしろ解決の糸口となるのならば喜んで協力したいと思う。


「なんにせよミオがその気ならそれでいいんだ。僕達はそれに付き従うだけだし」

『では本格的に作戦会議といきましょうか』

「ああ。まずは奴の行き先からだな」


 ドゥライヤの向かった先はティーリアと呼ばれる魔導都市だった。名前の通り魔術の研究が盛んな場所でルディウスの口からは、魔女だとか魔導士だとか、聞いてるだけで少し心踊らされる言葉が次々と飛び出てきた。


 目的が違えば観光で楽しめそうな場所だなと呑気に考えていたが、しかしどうやらグリモワールとプニちゃんにとってはそうもいかないようだった。


『よりにもよってティーリアですか……』

「まぁ隠れてれば何とかなるよ。僕も隠れるし」

「隠れちゃうって……なんでまた」

「ティーリアの研究者にとって魔物はていのいい実験体(モルモット)だし『魔導書(グリモワール)』なんて格好の研究対象だもん」

『思い出しただけでも吐き気がしますね』

「俺もあそこの人間はあまり好かんな。なんというか、人間味がないというか……」

「……」


 どうやらティーリアはわたしの想像する絵本の中の世界とはかけ離れているようで、話を聞くと箒に乗った魔法使いもいなければ、大釜で薬を作る魔女もいないという。


 その上食事は不味く、立ち寄る旅人達には何処か冷たい対応が通例らしい。理由は分からないが相当な変人でも無い限り好き好んで立ち寄る場所ではない、それがティーリアという都市だった。


「僕達が最初の行き先を真反対の方向のトットにしたのは、実はティーリアに行きたくないという本音も隠されていたのさ」

『けれど仕方がありません。私も澪様に収納してもらうとしましょう。プニ公達と陰ながら応援させて頂きます』

「二人の協力は期待できそうもないか。……ミオ、お前は何か得意な事はあるのか?」

「えっと[左右を間違えないスキル]と[沼に頭から突っ込まないスキル]あとは……」

「あとは[へっぴり腰にならないスキル]だね!」

「……そうか」


 ルディウスが少し遠い目をしたのは……うん。見なかったことにしよう。

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