52.クラーク家
「お父様、お母さま、そろそろアシュトン様のお屋敷に着きますわ」
シェリーは窓の外を見ながら、声を上げた。
「そうか。シリル・クラーク子爵と会うのは久しぶりだ。なあ、グレイス」
「ええ、王宮の行事でお会いした時以来ですわね」
「お父様たちはアシュトン様のご両親とお知り合いなのですか?」
シェリーが驚くと、父のカルロスが笑って答えた。
「ああ。知り合いと言っても、時々顔を見るくらいの関係だがな」
「そうなのですか」
シェリーがカルロスの表情を見て、気持ちを読もうとしていると馬車が止まった。
「着きました」
御者がカルロス達に声をかけた。
「ありがとう」
カルロスが初めに馬車を降り、シェリー、グレイスの順で続いた。
「ふむ、立派な屋敷だな」
「ええ、本当に素敵ですわ」
カルロス達ホワイト家が馬車の脇に立っていると、屋敷から執事がやってきた。
「ホワイト辺境伯、ようこそいらっしゃいました」
「この度は、お招き有難うございます」
カルロスがにっこりと笑って、クラーク子爵の執事に挨拶をする。執事は恐縮しながら言った。
「主人がすぐまいりますので、どうぞこちらへ。お荷物もお運びいたしますので、どうぞそのままいらっしゃってください」
執事の案内に従い、ホワイト家の一行は広間へと案内された。
「少々こちらでお待ちください」
執事はカルロス達を大きなソファに座らせた。
「おや、綺麗な絵がかかっているな」
「お父様、あれは貴石で描かれた絵ですわ。先日、アシュトン様が説明してくださいました」
シェリーが得意げに言うと、カルロスは微笑んだ。
「美しい花の絵だ。貴石で作られているのか。面白い」
カルロスが花の絵をよく見ようと立ち上がった時に、ドアが開き、シリル・クラーク子爵とその妻のシンディー夫人が現れた。
「お待たせしてしまい、申し訳ありません。ようこそいらっしゃいました、カルロス辺境伯」
シリル子爵が挨拶すると、カルロスが手を差し伸べ、二人は握手をした。
「こちらこそ、ご挨拶が遅くなり、申し訳ありません。先日はシェリーがお世話になりました。ありがとうございました」
「いいえ、お引止めしてしまい、申し訳ありませんでした」
グレイスが、シンディー夫人に話しかけた。
「シェリーがアシュトン様によくしていただいているようで……ご迷惑をおかけしております」
「お母さま!」
シェリーは顔を赤くして、グレイスを見た。
「お世話になっているのはうちのアシュトンの方ですわ。シェリー様と知り合ってから、随分活動的になりました」
シンディー夫人は優しく微笑んでいる。
会話が少し途切れたところで、執事がカルロスに尋ねた。
「荷物をお部屋に運ばせていただきます。どのトランクをどちらにお持ちすればよいか教えていただけますか?」
「ありがとうございます。それでは、その大きなトランクはシェリーのところへ……」
カルロスが説明すると、執事はメイドたちに指示を出し、荷物とともに部屋を去った。
「長旅でおつかれでしょう。お部屋でお休みになられますか? それともお茶の用意をいたしましょうか?」
シリル子爵が尋ねると、カルロスがグレイスとシェリーに確認した。
「お前たち、部屋で休ませてもらうかい? それともお茶をいただくかい?」
「私は……すこし休ませていただきたいかしら」
グレイスの返事に、シェリーも頷いた。
「シリル子爵、すこし部屋で休ませていただいてもよろしいですか?」
「わかりました。では、執事たちが戻ってきたら、それぞれのお部屋へ案内させましょう」
「ありがとうございます」
執事たちが戻るまで、カルロスとシリル子爵は世間話をし、シンディー夫人とグレイスはジルの結婚式についての話をしていた。シェリーはその様子を眺めながら、微笑んでいた。




