49.朝焼け
「おはようございます、シェリー様。朝食の準備が整いました」
「ありがとうございます、今行きます」
シェリーは身支度を整えて、メイドの案内に従い食堂に向かった。
「おはようございます、シェリー様」
「おはようございます、アシュトン様」
まだ暗い早朝、食堂はろうそくの明かりで照らされていた。
「帰宅を早めたいと、わがままを言ってしまって申し訳ありません、アシュトン様」
「いいえ、シェリー様。こちらこそ、お引止めして申し訳ありませんでした」
二人は焼き立てのパンとスープ、果物を食べ、紅茶を飲んだ。
まだ夜の冷たさの残る部屋の中で、二人は何も言わず食事を終えた。
食堂を出ると、廊下には外からの光が届き始めている。
「空が赤いですわ」
「本当ですね」
シェリーとアシュトンは廊下の窓から、朝日に染められた外の様子を見て息をのんだ。
「もうすぐ馬車の準備が出来ます。シェリー様、来てくださってありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ、長居をしてしまって……申し訳ありません」
馬車の準備が整ったので、シェリーは荷物の入ったカバンを持とうとした。しかし、シェリーよりも早く、アシュトンが荷物を持ち上げ、馬車の方へ歩き出した。
「アシュトン様、それくらい自分で持てますわ」
「私に持たせてください。こう見えても、シェリー様より力はあると思いますよ」
二人は馬車に乗り、アシュトンの屋敷を後にした。
外はもう明るく、さわやかな風が流れている。
「ジルとメイリーン嬢の結婚式、晴れるといいですね」
「そうですね、アシュトン様」
「私たちの結婚式も……遠くないでしょうか」
馬車が砂利道を通ったので、アシュトンの声がシェリーには聞き取れなかった。
「え? なにかおっしゃいましたか?」
「なんでもありません、シェリー様」
アシュトンは笑って言った。その顔はほんの少し赤くみえたが、シェリーも何も言わず、微笑んでいた。
*****
馬車がシェリーの家の前に着いた。
「お疲れさまでした、シェリー様」
「アシュトン様、送ってくださってありがとうございました。それに、素敵な食事とお部屋でした。皆様にも、よろしくお伝えくださいください」
「ええ」
玄関でアシュトンとシェリーが話していると、シェリーの父のカルロスが二人を出迎えた。
「アシュトン様、シェリーがお世話になりました。シェリー、ご迷惑をおかけしなかったか?」
「大丈夫ですわ、お父様」
「カルロス様、シェリー様を引き留めてしまい申し訳ありませんでした」
「いや、アシュトン様、ここまで送ってくださり有難うございます」
アシュトンはカルロスに挨拶をすると、馬車に戻っていった。
「では、またお会いしましょう、シェリー様」
「ええ、アシュトン様」
シェリーはアシュトンの乗った馬車が見えなくなると屋敷の中に入っていった。
「……夢のような時間だったわ」
シェリーは部屋に戻ると、ベッドに腰かけ、アシュトンの家で出会った彼の家族を思い出した。
「みんな優しそうだったわ。仲の良い家族なのね」
シェリーは一人微笑むと、窓から外を見た。
空にはひつじ雲がうかんでいて、秋らしい一日になりそうだとシェリーは思った。




