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辺境伯令嬢の私に、君のためなら死ねると言った魔法騎士様は婚約破棄をしたいそうです  作者: 茜カナコ


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48/80

48.夜の中庭

 食事を終えるとアシュトンの父シリルが、シェリーに話しかけた。

「シェリー様、今日はもう遅いですから、どうぞ我が家にお泊りください」

「あら、でもご迷惑では?」

 戸惑うシェリーにアシュトンも声をかけた。

「シェリー様、私からもお願いいたします。今からでは、家に帰るまでに夜が明けてしまいます」

 シェリーは少し考えた後、頷いて言った。

「それではお言葉に甘えます」


 アシュトンとシリルは目を合わせてから、微笑んだ。

「シェリー様、それではこちらへ」

 アシュトンがシェリーの手を取り、ゲストルームへ案内した。

「棚にあるガウンはどれも洗ったばかりです。どうぞお使いください」

「ありがとうございます」


シェリーは部屋に入ると、しばらくベッドに腰かけてぼんやりとしていた。

「少し食べすぎたかしら? おなかがいっぱいだわ」

 立ち上がり部屋の中を歩きながら、飾られたタペストリーや、壁に掛けられた貴石で作られたモザイク画を眺めた。

 それにも飽きたシェリーは、美しい刺繡の施されたカーテンを開き窓に目をやった。曇りガラスの窓を開けると中庭が見えた。


 中庭に人影があることにシェリーは気づいた。シェリーが目を凝らしていると、中庭にいた黒い影は手を振って屋敷の中に消えた。

 シェリーが中庭をじっと見つめていると、ドアがノックされた。

「はい?」

「シェリー様、アシュトンです。……眠れませんか? もしよろしければ、少し外を散歩するのはいかがですか? 今日の月は、とても美しいですよ」


 シェリーは微笑んで答えた。

「是非」


 アシュトンと手をつなぎ、シェリーは中庭に向かった。

「暗いですから、足元にお気を付け下さい」

「ええ」

 アシュトンはシェリーの腕を優しく支えた。

「本当にきれいな月夜ですね」

 シェリーはアシュトンと腕を組み、ゆっくりと中庭を歩いた。


 二人の影は、夜の芝生の上をすべるように動いた。

「……美しい……」

「え?」

「シェリー様の肌が、瞳が、輝石のように透明感をもって美しく輝いていて……」

 シェリーの腕に当たったアシュトンの胸から、心臓が脈打つ振動が伝わってくるようだ。


「アシュトン様、それは……」

「あ、あの、ええと……」

 戸惑うアシュトンの耳元で、シェリーは笑いをこらえて囁いた。

「……最高の誉め言葉、ですわね」

「……そのつもりです」


 アシュトンはシェリーの頬に口づけをした。

「今日はこんな時間まで一緒に居られて……とてもうれしいです。ほんとうは……離れるのが寂しかったのです」

 アシュトンの手が、シェリーの肩をゆっくりと抱きしめた。

「……恥ずかしいですわ、そんなことを言われるのは初めてです」


 二人は見つめあった後、ゆっくりと月を見上げた。

「本当に、なんて美しい月なのでしょう」

「ええ」

 アシュトンとシェリーは抱きしめあったまま、月明りに照らされたお互いの姿を見て、優しく微笑んだ。

「シェリー様、明日はいつまで一緒にいられますか?」

「……家族が心配していると思いますので、できるだけ早く帰らなくては」


 アシュトンは寂しそうに微笑んで言った。

「そうですね。……はやく、ずっと一緒にいられるようになりたいです」

 シェリーはアシュトンの言葉を聞いて、にっこりと笑った。


「そう遠いことではありませんわ」



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