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30.メイリーンからの手紙

「シェリー様、お手紙が届いています」

「ありがとう」

 シェリーは手紙を届けに来たメイドに礼を言い、手紙を受け取った。

「かわいらしい、桜色の封筒……だれからかしら?」

 宛先が小さなまるっこい文字で書いてある。


 シェリーは封筒を裏返すと、眉をひそめた。

「え? メイリーン様から?」

 シェリーは嫌な予感がしたが、封筒を開けることにした。


『シェリー様、先日は驚きました。ジル様は一時の気の迷いであんなことを言ったのだと思います。ジル様は私の大事な人です。私とシェリー様のどちらがジル様にふさわしいか、勝負をしましょう。ジル様の好物のミートパイを作り、どちらがジル様に選ばれるかで勝敗を決めましょう。 メイリーン』


 シェリーは手紙を読んで、頭が痛くなった。

「まったく、メイリーン様って一方的なんですね。私には勝負を受ける必要はありませんから、断りの手紙を送りましょう……」

 シェリーは机に向かって、メイリーンへ手紙を書いた。


『私はジル様に興味がありません。勝負をする理由もありません。どうかメイリーン様とジル様のお二人で楽しんでください。 シェリー』 


 シェリーは召使にメイリーンへ手紙を届けるよう頼むと、朝食をとるため食堂に行った。

「シェリー、ジル様の様子はいかがだったかい?」

「足を怪我されていましたけれど、それ以外はいたって元気のようでしたわ。もうお話いたしましたけど」

「そうか、そうだったな」

 シェリーはイラつきを隠して、父親との会話を続けた。


「それに、ジル様の大切な人も紹介していただきましたし」

「ああ……」

 シェリーの父親のフォークが動きを止めた。

「シェリー……もしかして……また……」

 母親が不安げな表情でシェリーを見つめている。


「また、というのは何でしょうか?」

 シェリーは笑顔で母親に言った。

「いえ、あの、ジル様と仲良くなっているのかと思っていたので」

 シェリーの母親が言いにくそうにつぶやいた。

「ジル様とは、お友達として仲がよかったですけれども……それ以上のことはありえません」


 シェリーは朝食をさっさと食べ終え、食堂を後にした。

「まったく、お母様もお父様も、あんな顔しなくても良いのに……」

 シェリーは食堂で両親が見せた、がっかりした顔を思い出してため息をついた。

「気分が沈んでしまいましたわ……。なにか、気が変わることでもしようかしら」

 シェリーは図書室に行って、懐かしい童話や神話の本を読んでみた。

 気分が良くなってきたので自分の部屋に戻り、のんびりしているとドアがノックされた。


「はい」

「シェリー様、またお手紙が届いております」

「え?」

 シェリーは召使から手紙を受け取り、差出人を確かめた。

「まあ、またメイリーン様からだわ」

 手紙を開けると、中には『私を馬鹿にするのはやめてくださいませ。きちんと勝負をしてください。それとも、他人の恋人をとるのが趣味だと、社交界で噂になってもよいのでしょうか。明後日の午前中にジル様の家で勝負をしましょう。ミートパイを忘れずに。 メイリーン』


 シェリーはがっくりと肩を落とした。

「メイリーン様って、思い込みが激しいのね……。しかたないわ、変な噂を立てられてもこまるし、言われた通り、明後日はミートパイをもってジル様のところへ行きましょうか……」


 シェリーはメイリーン宛てに、『そこまでいわれるのなら、明後日ジル様の家に伺います シェリー』と手紙を書き、また召使に届けるよう頼んだ。

「ジル様への気持ちはさめてしまったけど、私の名誉のために……ミートパイを作って、勝負をつけましょう」

 シェリーはメイリーンの思い通りにうごくことが癪に障ったが、一度我慢して気持ちをはっきり伝えれば、解放されると思い耐えることにした。


「さあ、ミートパイを作らなくては」

 シェリーは厨房に行き、ミートパイの材料を料理長から分けてもらった。

「パイづくりは嫌いではないわ。私の分も合わせて二つ作りましょう」

 シェリーはそう言ってから、ミートパイづくりを始めた。



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