98.ホクに乗って飛んでみました
港町ペロネーに向かって北に進んでいくと、再び海が見えてきた。
時折吹き付ける海風はしっとりとしていて涼しさを感じさせてくれる。
「うーん、気持ち良い風ですね!」
「そうだね。空を飛んでいるホクもとても気持ち良さそうだ」
ホクは今、ゴンの頭の上という定位置にはおらず、今は空を自由に飛び回っている。
ついでに時々鳥の魔物を見つけたら、気絶させた状態で僕の所に持ってきて、合成を頼んでくる。
うん、本当にちゃっかりしているよ、ホクは。
さて、まだ時間もあるし、町まで少し距離もあるし、ちょっと移動がてら、そろそろあの練習を始めるとしようかな?
ホクが持ってきた魔物を合成し終えた段階で、僕はホクに話しかける。
「ねえ、ホク、ちょっとお願いがあるんだけど、良いかな?」
「ん、どうしたの、アーク? 何でも言って!」
「僕、ホクに乗って空を飛んでみたいな。ほら、ここってとても気持ち良く飛べそうだしさ」
「なるほどね。確かに今のアタイならアークを乗せて食べるかも……」
ホクはそう言って自分の体を見る。
今のホクはホークの時の面影はなく、ほとんどガルーダと言ってもいいような体をしている。
顔だけはホークの時の面影を残しているのか、ちょっとキリッとした感じをしているけど。
体はホークの時の何倍も大きくなっているし、体の大きさ的には僕を乗せて飛ぶのに何ら問題なさそうだが。
「ただ、全くそうやって飛んだ事ないから、もし失敗しちゃったら嫌なんだよね、アタイ」
「確かにそれはそうだね。鳥の魔物に乗って転落死した事例も結構あるからなぁ……」
鳥の魔物使いならば、誰もが憧れるであろう、魔物の背に乗って空を飛ぶという事。
やはりそれを試そうとする人も数多く、そして成功した人がたくさんいる一方で、失敗して命を落とした人も数多くいる。
成功したらとても素晴らしい事ではあるんだけど、同時に相当高いリスクのある事なのだ。
「それならぼくもいっしょについていくよー。まんがいちのときもぼくがくっしょんになればあんしんだよー?」
「なるほど、その手があったね。それじゃよろしく頼むよ、ラス!」
「うん、まかせておいてー!」
ラスはとても軽いので、一緒に乗せてもホクの負担はほぼないものと思ってもいい。
その上、ラスの短時間での増殖能力、加えて弾力性のある体は、空から落下した時にはとてつもなく頼もしく思える。
大量のスライムで空から落下しても無事で済んだという話は聞いた事がないけど、まあ、スライムをそんな活用できる人はいなかっただろうから無理もないか。
さて、僕とラスが乗るという事が決まった所で、早速ホクに乗ってみよう。
「乗り心地はどうだい、アーク?」
「うん、とても気持ち良いよ。それよりも僕を乗せて重くない? 大丈夫?」
「大丈夫だよ! アーク、前々からアタイに乗りたがっていたもんね! アタイ、この日が来るのをずっと楽しみにしていたんだ! だから今、とっても嬉しいんだよ!」
「うん、そうだね。僕も嬉しいよ、ホク。こうやって実現出来そうな時が来るというのは何だか感慨深いね」
「ふふっ、そう言ってくれると、アタイも頑張り甲斐があるってものだね。空はとても気持ち良いよ! さあ、早速アークをその旅に連れていってあげるからね!」
それからホクの背中に乗った僕はホクの体の感触を確かめる。
ホクの背中はフワフワとしていて気持ち良い。
ただ、やっぱり父さんのヴェルと比べると、大きくはないから少し頼りないかも。
ラスは僕の肩に乗って、ぴょんぴょん跳ねている。
どうやらこれから行う空の旅を楽しみにしているみたいだね。
僕も楽しみだよ。
ホクは僕とラスが背中に乗った事を確認した後、大きな翼を広げた。
そして助走をつけて、地面を強く蹴ると、体が地面から浮く!
「う、うわっ!? すごい風……!? あ、ありがとう、ラス!」
「きをぬかないでー。まだまだあぶないよー」
「しっかり掴まっていて! あと少ししたら安定するから!」
空から飛ぶと、僕には強烈な風が吹き付けてきた。
ラスはその事を予期していたのか、僕の風よけのような役割を果たしてくれている。
ホクに何度か乗った事があるからラスはこの事を知っていたんだろう。
実に頼りになるね。
父さんのヴェルに乗った時は全然風が来なくて快適だったのだが、恐らくそれはヴェルが何かしらの技を使って風を感じさせないようにしていたんだろう。
ヴェルには何回か乗せてもらった事があるけど、いつでも快適な空の旅を楽しむことが出来たしさ。
ラスのおかげで吹き付ける風はマシになったが、ホクの体がだいぶ揺れる。
しかし、少しの間耐えていると、その揺れも収まってきた。
「……待たせたね、アーク。もう大丈夫なはずだよ」
「ふう、辛かった……。わあ、すごい高さだね!?」
僕は下に広がる光景に思わず息を飲んだ。
何と言っても、先程まで近くにいたテイニー達が豆粒のように小さく見える。
そして遠くには地上からでは見えなかった港町ペロネーが見えたり、反対側に振り向けばパミランの町も目に入る。
ホクはいつもこんな景色を見ていたのか……。
父さんのヴェルに乗った事があるから想像はある程度できたとはいえ、実際に見てみるとやはり全然違うな……。
「どう、アーク? 空の旅は?」
「うん。とても最高だ。やっぱり自分の従魔で飛ぶのって良いね。父さんのヴェルに乗るのとまた違った面白さがある」
「ふーん、違った面白さか。どう違うんだい?」
「そうだね……。父さんのヴェルは実に頼もしいというか、何と言うか。とにかく安心感があるんだよね。ヴェルに任せておけば大丈夫という安心感が!」
「ねえ、それってアタイにはその安定感がないって、アーク遠回しに言ってるよね?」
あっ、気付かれちゃったか。
まあ、事実なんだし、仕方ないんだけど。
でも種族としての問題なんだし、別にホクが頑張ってないとかそういう訳ではないんだけどさ。
「ホクはまだガルーダなんだから仕方ないよ。きっとフレーズヴェルグになれれば、その安定感も手に入るさ。ごめんね、ホク」
「い、いや、アークが謝る事じゃないって! そうだね……アタイ、もうちょっとアークが安心してアタイに乗れるようにちょっと考えてみる。ヴェルとアタイ、どっちに乗りたいか聞かれて、アークがアタイを選びたくなるように!」
そう言って張り切るホク。
ホクって本当に向上心があるよなぁ。
強くなりたいというのもそうだし。
いや、単なる負けず嫌いなだけか。
強さではゴンに対抗心を一方的に燃やしているし、飛ぶ事に関してはヴェルに対抗心を燃やしている。
だけど、その気持ちがホクを成長させているんだろうし、僕はただ黙って見守ろうか。




