91.ラスは無事に任務を遂行したようです
一連の出来事が終わり、眠りについた僕達。
そしてその翌朝、部屋の外から母親の声が聞こえてきた。
「アーク、お客様がいらっしゃったみたいよー?」
「うん、少ししたら行くー!」
うーんと、お客様って……誰だっけ?
ああ、うん、何となく分かった気がする。
僕は着替えを簡単に済ませ、玄関まで急ぐ。
そして玄関の扉を開けると、そこには黒いローブを着た二人組の男がいた。
一人は先程真夜中にラスが洗脳したジョーであり、もう一人は見知らぬ男だった。
ジョーよりも質の良さそうなローブを着ている事から、この男は彼の上官、ベクベアと考えた方が良さそうか。
何というか、とても威圧感のある人物だ。
「……アーク。私だ、ベクベアだ。中に入っても構わんか?」
「あっ、えっと……」
僕はジョーの方を見る。
するとジョーのローブの中からひょっこりとラスがこちらをのぞいている様子が見えた。
恐らく、洗脳には成功したと考えて良さそうだな。
「はい、構わないですよ。こちらにどうぞ」
僕はそう言って、二人を自分の部屋にまで案内をした。
そして自分の部屋の扉を僕が閉めると……。
「……主様、申し訳なかった。公衆の面前、主様を呼び捨てにするなど、無礼な言葉をかけざるを得ず」
そう言ってこうべをたれるベクベア。
やはり、ベクベアの高圧的な態度は演技だったみたいだね。
その感じがあったから、本当にラス達の作戦が成功していたのか疑わしかったんだけど。
「いや、気にしなくて良いんですよ。それより、ジョー、この感じからして、作戦は成功したと言って良さそうなんだよね?」
「……はい、もちろんでございます、主様。拙者の読み通り、ベクベアにはラス様達の偉大さをお伝えして、そして間もなく我々の同志となりました」
「このベクベア、主様の心意気に感服した。そして、今までの事は申し訳なかった。主様がお望みとあれば、ここで私の命を差し出すつもりではあるが……」
やっぱりこの流れになるんだね。
ラスに洗脳されるとこうも自害したくなるのは何とかならないものなんだろうか?
「いや、今までやってしまった事は仕方ないですよ。それに事情はそこのジョーから聞いていますし。ベクベアさんは本部に命令され、魔物達に酷い事をしていた。そういう事ですよね?」
「主様の仰る通りだ。しかしそれはただの言い訳に過ぎぬ。私に落ち度があった事は明白。酷い事をしていた事には変わりはない」
「その認識があれば十分です。それより重要なのはこれからどうするかですよ。ベクベアさん、ジョーから聞いているかもしれませんけど、表向き今まで通り過ごしつつ、魔物のイメージを悪くさせないような工作をする事は可能でしょうか?」
「……正直それを実行し続ける事は厳しい。だが、それが主様のお望みとあらば、私は全身全霊をもって、それを実現してみせよう」
そう言って再びこうべをたれ、返事をするベクベア。
やはりなかなか工作をするというのは厳しいものがあるんだろうか。
「上官、拙者も主様の為であれば何でも致します。上官だけが一人で抱え込む必要はないのです!」
「そうか、それは頼もしいものだな、ジョーは。……それより、その話し方はどうした? 普段と全く性格が違うようだが?」
「……ははは、こっちが本来の拙者なんですよ。あっちの拙者はいわば演じているだけ。結構頑張っているでしょ?」
ふふんと得意気な表情を見せるジョー。
そんなジョーを見て、興味深そうな様子のベクベアだった。
「という訳で、拙者も上官のサポートを致しますので、主様はこちらの事は気にされなくて大丈夫です!」
「ありがとう、ジョー。それにベクベアさん。とても頼りにしています。あと、僕はこの町から出ますが、フィラミルをよろしくお願い致します」
「承知した。となれば、まずはこの体制の健全化が急務だな。まずは地下に捕らえてしまった魔物のケアを行い、人間への信頼を回復させる。それが終わったら、持ち主に返さなくては。後は共に町を警備する魔物使いとの関係修復、それに他二人の魔法使いの教育が必要だろう。なかなかやるべき事は山積みだな」
「上官、拙者は何をお手伝いすればよろしいでしょうか?」
「なら、お前には部下の教育を任せる。お前ならばそいつらと同僚にあたる訳だし、自然と接する機会は多いだろう。ただラス様の助けが得られない以上、慎重に行わなくてはならない。いかに主様が素晴らしいのか、その教えを確実に分からせるのだ」
……あれっ?
何かおかしな話になっているような気がするんだけど、気のせいかな?
まるで他の魔法使いも洗脳しようとしているような気がするんだけど……
うん、聞かなかった事にしよう。
僕は何も知らなかった、それでいい。
「そういえば主様、これをお持ちになって頂いても構わないだろうか?」
そう言ってベクベアが渡してきたのは連絡石だ。
どうやらこれを使って僕と定期的に話がしたいらしい。
「なるほど、これで連絡をとりあうという事ですね」
「仰る通りだ。常に近くにおらずとも、心は常に主様のそばに私やジョーはいる。そしてもし主様の窮地となればすぐに駆けつける所存」
「ありがとうございます、ベクベアさん。助かります」
「礼には及ばぬ。それと、えっとだな……」
ベクベアはこちらをチラチラ見て何かを言いたげな様子をしている。
見た目からして僕の父親とさほど変わらない年齢であろう人がそんな仕草をしているのって何だか不気味なんだけど……。
「えっと、主様。どうか上官にも、もう少し親しみを持って話しては頂けないでしょうか? きっとその事を上官は望んでいるのだと思います」
「……なんだ、そんな事か。まあそれを望むなら、そうする事をするよ。これからもよろしく、ベクベア」
僕がそう言うと少し笑みを浮かべたベクベア。
さて、これで一件落着といった所か。
それから二人は僕の家から出て行って、どこかへと向かっていった。
もちろんラスはジョーのローブの中から出て、僕の家の中に残ったけど。
「ラス、よく頑張ったね」
「うん、とってもひやひやしたよー。それにべくべあはやみがふかかったから、ちょっとむずかしかったんだよー」
ふーん。
闇が深い、か。
あれ位の年齢ともなると人生経験も豊富だろうし、何かしらの思いみたいなものもあるんだろうな。
ジョーはまだ僕よりちょっと年上位だったから、そうではなかったんだろうけど。
とにかく、これでベクベア達が、魔物の暴走などの問題については何とかしてくれるはず。
いつかは本部を何とかしないといけないんだろうけど、それは後で考えよう。
さて、問題も一段落した事だし、そろそろ町から出発しようかな。




