52.ウルフを無事に助け出しました
「ヴァルド、ちょっとお願いしたい事があるんだけど、いいかな?」
「ん、何だ?」
「ヴァルドにこの白いバッグを置いてきて欲しいんだ。本物の白いバッグと入れ替える形でさ」
相手に気付かれずにうまくバッグを確保する方法。
それは、姿の見えないヴァルドにバッグを持って行ってもらい、こっそりと本物とすり替え、本物を持ってきてもらう。
そういう作戦だ。
ヴァルドにかかっている呪いは周囲に対しても認識阻害の効果を与える。
であれば、ヴァルドが持っているもの、例えばその白いバッグの存在の認識を阻害する事も可能だという訳だ。
もちろんバッグの存在に全く気付かれない訳ではないだろうが、その存在に対して、何らかの認知の阻害が働けば、上手くこの場を切り抜けられると思うのだ。
それにこの作戦なら、万が一失敗しても、僕達の存在が直接バレる心配もない。
何といっても、ヴァルドの姿は誰にも見えないからね。
「……ああ、なるほどな。ラスのバッグには触れるようだし、持つには問題なさそうだ。ただ、このバッグを持ち運ぶとなると、もう少し体を大きくした方が良さそうだな」
「そうだね。そのバッグをヴァルドの体で隠せれば一層良いと思うけど」
「なら、今まで通った道がギリギリ通れる位まで、体を大きくするとしよう」
「うん、そうしてくれると助かるよ」
それからヴァルドは薬に対する抵抗力を少し上げたのか、ちょっと体が元の大きさに近付いた。
そしてその状態でバッグを右腕で抱えて隠すような形をとる。
「一応確認だが、このダミーのバッグと本物をすり替えて持って来れば良いんだよな?」
「うん、頼りにしてるよ、ヴァルド」
「全く、俺様のその性質を使おうとするとはな……まあ頼まれたものは仕方がない。さくっと終わらせてくるさ」
ヴァルドはそう言って、声がする方向へと向かっていった。
そして一分もしないうちにまた戻って来た。
「終わったぞ、アーク」
「えっ……もう終わったの!?」
「ああ。近くに人がいたようだが、あらぬ方向見ていて隙だらけだったし、すり替えるのに全く苦労しなかった」
そ、そうなんだ。
まあトラブルなく終わるに越した事はないんだけど、あまりに呆気なさ過ぎるな……。
とにかく、早いうちにみんなの所に戻ろうか。
僕達はみんながいる場所まで戻り、みんなと合流した。
「アークさん、その白いバッグって……!?」
「うん、この中にはウルフが入っているはずだ。でもここで下手に開けて騒がれてはあまりよろしくない。だからここを脱出して、落ち着いた所で開けようと思う」
「その方がええやろな。早くここからは出た方がええ。もたもたしていたら、時期にここにも人がやってくるで?」
「そうだね。早い所、ここから出るとしよう」
僕達はそれから素早くこの場を後にした。
ホクを先頭に、相手の気配を感じとりながら、再び移動を始める。
そして何とか上の階までたどり着く事はできたのだが、やはり行き止まりになっていて、戻る為にも合言葉が必要になりそうだった。
「……うーん、やっぱり合言葉をもう一回言わないといけなさそうだね」
「ホクさん、覚えていないんですか?」
「……ごめん。アタイ、覚えるのは得意なんだけど、覚え続けるのは苦手なんだ……」
うん、そうだよね。
ホクはきっと短期記憶に優れているだけで、記憶力全般に強い訳ではないんだろう。
さて、どうしたものか……。
「なんニャ、みんな覚えていないのかニャ? あっし、何度も何度も同じ言葉を聞かされたから、すっかり覚えてしまったんだけどニャ」
「えっ、レク、覚えているんですか?」
「当たり前ニャ。正直忘れたくても忘れられないのニャ。とにかく、それをここで言えばいいんだニャ?」
「うん、よろしく頼むよ、レク!」
それからレクは長々とした言葉を言い始める。
するとレクが言葉を言い終えると、壁に道が出現した!
どうやらレクは本当にホクが言っていた言葉を覚えてしまっていたらしい。
レクは長期記憶に優れているのかもしれないね。
こうしてレクの活躍のおかげで、次々と仲間達が通路の先へと脱出していくのだが……。
「……アーク、まずいよ。下の方から足音が聞こえてくる」
そう言って冷や汗を流すホク。
まずいな。
まだこちらは五人以上向こうに渡り切っていない。
全員が同時に通れるほど、通るスペースと時間に余裕はないし、だからといって、このまま続ければ、間違いなく見つかってしまう。
……ここは、またあの作戦を使うしか。
「ヴァルド、悪いけど、上に向かう階段を体で塞いでもらってもいい?」
「……あっ、そういう事か。でもさすがにそこまで認識阻害の効果は発揮されないんじゃねえか? 上に行く用事があるのに上に行かないなんて事ねえだろ?」
「でもやってみる価値はあると思うんだ。お願い、ヴァルド」
「……分かったよ。やればいいんだろ、やればさ」
ヴァルドは若干面倒そうにしながらも、僕の言う通り、通路を塞いでくれた。
すると――
「あっ、足音が遠ざかっていく音が聞こえるよ、アーク!」
「どうやら成功したみたいだね。……本当、ヴァルドの呪いってとんでもない力を持つものだね」
「……正直俺様も驚いたぞ。というか、俺様ってそこまで避けられるものなのか? ちょっと傷つくんだが……」
「まあまあ。とにかくそのおかげで助かったんだから、良しとしようよ。それより、気を取り直してここからさっさと脱出するよ?」
「そうだな。正直こんな窮屈な場所にいるのはもうこりごりだ」
ヴァルドは通れるギリギリの大きさになってもらっているから、この場所が窮屈に感じるのも無理はないだろう。
でもそのヴァルドのおかげで助かった。
やっぱりヴァルドは色々と頼りになるなぁ。
僕達は全員何とか無事に通路の先まで行く事ができた。
そしてそのまま遺跡を脱出。
ある程度歩いた所で、休めそうな場所を見つけ、そこで一旦小休止をとる事に。
「ぷふぁー! めっちゃ疲れたで! ホンマ、こんなにハラハラしたのは久しぶりやわぁ!」
「……本当にそうだね。とても心臓に悪かったよ」
「でも何とかなったみたいで良かったです。アークさん、本当にありがとうございました」
「それよりもテイニー、肝心の助けた魔物は確認しなくて良いのかニャ?」
「そ、そうですね……。アークさん、確認してもらっても良いですか?」
「うん、分かったよ」
僕は手に持っている白いバッグを地面に置く。
えっと、それから聖法による封印を解かないといけない訳だけど、どうやるんだっけか。
本で確認しながらやった方が良いよね、これ。
僕はリュックから聖法に関する本を取り出し、そして本を参考にしながら封印を解く事にした。
「……おっ、妙な感じが消えたようだな。恐らく封印が解けたんじゃないか?」
封印の解除を告げるヴァルドの声。
さて、これで封印が解け、この白いバッグは普通に開ける事ができる。
果たして、中はどうなっているんだろうか?
いきなり噛みつかれたりしないよな……。
僕は恐る恐る、白いバッグを開けてみた。
すると中には――ぐっすりと眠っている小さなウルフの姿があった。
「か、かわいい、です……」
思わずその姿を見て、にっこりと微笑むテイニー。
僕もテイニーと同じく、つい微笑んでしまった。
まさかこんな呑気に寝ているとは。
てっきり暴れたり、襲い掛かってくるのだとばかり思っていたから、ちょっと拍子抜けしちゃったよ。
まあ、でもこのウルフは野生の魔物。
きっと目が覚めたら僕達に敵意を向けてくるだろう。
でもこの辺りに同じ種族のウルフはいないはず。
どうするか今の内に決めておかないと……。
しかし、ウルフが起きるのは予想以上に早かった。
僕が色々と考え事をしているうちに、いつの間に目が覚めていたようで、思わず僕はそのウルフと目線が合ってしまう。
……うっ、まずい!
まさかこんなに早く起きるなんて!?
そしてそのウルフは僕の顔面に向かって勢いよく襲い掛かってくる――!?
ま、まずい、こんな至近距離じゃ!?
僕は死を覚悟して、反射的に目をつぶった。
Dランク魔物であるウルフからの至近距離からの攻撃。
そんなものをもろに食らったら、命が助かる事はまずないからだ。
しかし予想に反して、しばらく経ってもまだ僕の意識はあるようだ。
えっ?
一体何が起こっているんだ?
それに顔が妙にくすぐったいんだけど?
僕は恐る恐る目を開けてみる。
すると、近くにはウルフの顔があって、そのウルフが舌を出して、僕の顔をペロペロなめまわしていた!?
……どうやら、ウルフは僕の顔に噛みつこうとしたんではなく、なめようとしていただけだったらしい。
その事実を知って、ほっと僕が胸を撫で下ろした頃には、僕の顔はウルフになめまわされてベトベトになっていたのだが、もうそんな事はどうでも良くなっていた。




