49.ホクは記憶力が良いようです
ただ調べるとは言っても、どこを調べればいいのか見当がつかない。
一通り遺跡は見て回ったけど、どこにも地下へ続く道なんてなかったし。
どこか抜け道でもあるんだろうか?
「なあ、アーク。道がないなら作ればいいんじゃねえか? 下から音が聞こえるなら、その方向にある床をぶっこわしちまえば地下にたどり着くだろ?」
「いや、それはダメでしょ!? そんな事をしたら下にいる生物が下敷きになって命がなくなってしまうかもしれないし、そもそもそんな事をしたら遺跡全体にダメージが入って、遺跡が崩壊する可能性が高まっちゃうよ!?」
「……ちぇっ、ダメか。せっかく名案だと思ったのによ」
そう言うと不満気な表情をするヴァルド。
力で解決しようとするのは何というか、ヴァルドらしいな。
それで問題ないならまだ良いけど、残念ながら後々の事を考えると止めておくべきだろうね。
そもそもこの貴重な遺跡に傷をつける事自体がナンセンスだと思うし。
「…………誰か来る」
「ん? どうしたの、ゴン? あっ、確かに何か足音がするね。一旦あそこに隠れよう」
僕達は物陰に隠れて、じっと身を潜める。
すると遠目に人の姿が見えたのだった。
その人は全身を覆う白い服を着ていて、大きな白いバッグを手に持っている。
その姿から考えると、その人は教会の牧師なのだろう。
だけど、どうして牧師が一人でこんな所に?
護衛の姿も見当たらないし。
「アーク、あのバッグの中に魔物が入ってるようだ」
「えっ? 魔物が入ってるだって? とてもそうは思えないんだけど……」
「何か変な術式がかけられているように感じるな。あのバッグには妙な違和感がある」
術式……か。
もしかすると牧師の間で伝わる聖法が使われているのかもしれないな。
僕には聖法に関する知識が少しあるんだが、聖法には確かそういう類の術があった気がする。
でもどうしてその術を魔物をバッグにしまう事に使うんだ?
従魔を連れ歩くのなら、そんな面倒な事をする必要はないだろうに。
何か気になるな。
しばらく牧師の様子を見ていると、牧師はある所でピタリと歩みを止めた。
牧師がそれから壁に向かって何やらブツブツと唱えると、牧師の前の壁に穴が開いて道が現れる!
そして牧師がその道を通って行くと、その道はすぐに塞がっていくのだった。
「……なるほど。秘密の合言葉があるっちゅーこっちゃな? こりゃ怪しい気配がぷんぷんしよるで」
「うん、確かにね。でも困ったな……。合言葉が分からないとなれば、僕達は中に入れない事になるよね?」
「そうですね……。それにあの閉まるスピードから考えますと、牧師さんが穴を開けてからこっそり後をつけるというのも厳しそうです」
「んニャ。アークが持っている道具を使えば、牧師に気付かれない位に小さくなれるかもしれないニャ。でも、そうなると今度は壁が塞がる前までに道を通り抜ける事が出来なくなりそうだニャ」
確かにレクの言う通りだ。
牧師の後をつける場合、それだけ体を小さくする必要がある。
でもあまりに体を小さくしてしまうと、僕達が通り抜けないといけない閉まる道の長さが自分の体に対して相対的に長くなってしまう。
そうすると通り抜けが非常に困難になってしまうという事だよなぁ。
うーん、上手くいかないものだ。
「あーあ、そもそも合言葉が言えればこんな頭を悩ませなくて良いんだけどなぁ」
「そうですね。でもそうなると、合言葉を知っている人と接触する必要があります。それに接触したとしても、果たしてちゃんと話してくれるでしょうか?」
「せやな。恐らくあの奥には何らかの秘密が隠されておるやろう。となれば、容易には合言葉を喋るとは考えにくいやろな」
うん、そうだよね。
大事な何かを管理している重要な合言葉なら、どんな目にあっても決して口外しないという可能性もあるだろう。
本当、何するにしても厄介そうだ。
「アーク、さっきの人が話していたのが合言葉なんだよね?」
「うん、そうだろうけど。でも長かったし、よく聞き取れないから盗み聞き作戦はさすがに……」
「アタイ、多分さっきの人が言った事、そっくりそのまま言えるよ? アタイ、結構記憶力が良いからさ」
……へっ?
今、ホクは何て言った?
さっきの牧師の言葉をそっくりそのまま言えるだって?
そんな事があり得るのか……?
「ほう、面白そうや。正直ウチは言葉を聞き取る事すら上手く出来へんかったけどな。でもホクはんがそう言ってはるんや。やってみる価値はあるんとちゃうか、アークはん?」
「……うん、そうだね。ホク、試しにさっきの牧師がいた所に移動してみて。それから覚えた言葉をそのまま言ってみて欲しい。できるかい?」
「うん、アタイに任せておいて!」
そう言うと張り切って移動するホク。
僕達もホクと一緒に移動する事にした。
そして特定の位置に移動し終わったホクは、言葉を発し始める。
「――――大地よ。英雄よ。我らにその叡智を今示さん!」
ホクが長々とした言葉を言い終わった瞬間、目の前の壁に穴が開き、突然道が現れた!
……ホク、本当に牧師の言葉をそっくりそのまま覚えていたのか。
どんな記憶力をしているっていうんだ、この鳥の魔物は。
規格外過ぎるでしょ……。
とにかく、ホクのおかげで、僕達は難なく秘密の通路を通り抜ける事が出来た。
道が現れる時間が短かったから、ホクには何度も合言葉を言ってもらう事にはなったけど、それで何とかなった。
ちなみにホクは最後に自分が通り抜けた時に、すっかり合言葉の言葉は忘れてしまったらしい。
必要がなくなったらスッパリと忘れるなんて、それもある意味凄すぎるよ……。
まあ帰りにも、もしかしたら合言葉が必要になって、今の僕達はだいぶ困った事になっているような気もするが、それは考えない事にする。
どちらにしろ、もう後戻りは出来ないのだから……。
「……あっ、皆さん見て下さい。あそこに階段がありますよ」
テイニーが言う通り、僕達が進んだ先には下へと続く階段があった。
そしてその先から話し声みたいなものが聞こえてくる。
もしかすると地下には人が何人かいるのだろうか?
そうすると、あの人達は一体こんな所で何をしているんだろうか?
「ここから先はたくさんの人がいるかもしれない。気付かれないように、より細心の注意を払って進もう」
僕の言葉にこくんとうなづくみんな。
そして誰かに気付かれないよう、僕達はこっそりと遺跡の地下へと向かうのだった。




