32.ヴァルドに触る事ができるのは僕だけのようです
「僕以外の生きている奴が触れない……。もし触ろうとしたらどうなるの?」
「すり抜ける。つまりアークから見たら、俺様の体の中にそいつがめり込んでいるように見えるだろうな。ちなみにそいつが身につけている服とか装飾品も同じくすり抜ける。正直そうなった時は俺様も気色悪かった」
「だよね……。そういえばヴァルドが他の相手の近くで爪に炎をまとわせると、どういう反応をされるんだろう?」
「それは熱いという事で反応されるな。実際にそれを配下の魔物にやった事があるからその事は分かっている。だが、熱い理由については気にならないようで、とりあえずその場から逃げ出す奴しかいなかったな」
なるほどね。
技の効果だけは周りに影響を与える事ができるが、体そのものによっては影響を与えられないと。
だけど生きている者は触れないだけで、死んでいる者、もしくは生物ではない物は触れるから、死んだグリフォンを触る事ができたりもするし、建物の中にも大きい姿のまま入る事はできないのだろう。
あれっ?
それじゃ森の中に入る事はできるんじゃ……?
「ヴァルド、森の中には入れるんじゃない? だって木って生物だし、生きているでしょ? それなら森に入っても木をすり抜けるんじゃ?」
「いや俺様は、植物全般を持つ事はできるのさ。だから大きさを変えずに森の中に入る事はできない。つまり厳密に言えば、動物を触る事ができないんだろうな、俺様は」
「ふーん、そうなんだ。まあそうじゃないと、森の中までヴァルドがついて来ない理由がないもんね」
動物がダメ、か。
それじゃ植物は触れるという事だよね。
……というか、僕がその動物に該当しないという事は、僕はこの世界的に植物扱いだったり、もう既に死んでいたリする扱いだったりするんだろうか!?
「僕って植物だったりするの?」
「はっ? そんな訳ないだろ。アークはどこからどう見ても人間だ。それは間違いない。もちろん死んでもいない。ちゃんと生きている」
「うん、そうだよね……ちょっと安心したよ。でも、それならどうして僕だけがヴァルドの事が見えるんだろう? 別に僕、何かの能力があるとかそういう事はないよ? むしろカリスマ力が全くなかったから、人よりも能力がなかった位だし」
「どうしてなんだろうな? 理由はよく分からねえが、こうしてアークは俺様の事を見る事ができているし、認識をする事もできている。なら、今はそれで十分じゃねえか」
「まあ、確かにそれはそうなんだけど」
どうして僕だけがヴァルドの事を見たり触ったりできるのかは分からない。
だけど、そのおかげで僕は魔物使いになる事ができたし、テイニーやメルなど仲間にも恵まれた。
今はその事実だけをありがたく受け止めておけばいいんだ、きっと。
分からない事をいつまで悩んでいても仕方がないのだから。
「……どうやら吹っ切れたようだな」
「うん。悩んでも分からないものは分からないからね。もし何か新しい事が分かったら、その時に悩めばいいかなって」
「そうだな。それでいいんじゃないか? あれこれ想像しても、本当の事が分かる訳でもないしな」
「うん、そうだね。でもさっきの話でヴァルドの事を色々と知れて良かった。正直、僕、ヴァルドの事を全然知らなかったからね」
「確かにあまり話していなかったな。それなら聞いていくか? 俺様の数々の武勇伝を!? 数えきれない程あるぞ!」
「いや、遠慮しておくよ。長くなりそうだし……」
「いやいや、そう言わずに……って、待てよっ! せめて一つ位聞いてくれてもいいじゃねえかよぉ!?」
僕は容赦なくその場を立ち去り、慌てて僕を追いかけてくるヴァルド。
ヴァルドには悪いけど、僕は早く休みたいからね。
ずっと本を読んでいて、さすがに疲れちゃったよ、僕。
夢中で本を読んでいるうちに随分と時間が経ってしまったようだ。
日は傾いてきており、もう少しで日没といった所か。
そんなタイミングで僕は宿屋へと着く。
「あっ、アークさん、戻ってきたんですね?」
「テイニー? そんな所でみんな集まってどうしたの?」
宿屋の受付近くにある待合スペースで何かの本を読んでいるテイニー、レク、リザ。
どうやら先程の地図の本を購入したようで、座りながらじっと見ているようだ。
「えっと、地図を見ているんです。部屋で見た方が良いんでしょうけど、部屋には机がなくて不便で……」
「そうなんだニャ。それにこの宿屋、あまり大きな声では言えニャいけど、人がそんなに来ないニャ。だから待合スペースを使っても問題ないんだニャ」
なるほど。
確かにテイニー達以外に待合スペースを使っているような人は見当たらない。
なら、別に問題ないか。
もし邪魔だったら受付の人が注意しにくるはずだけど、そんな事もないようだし。
「しばらくここにいても良さそうだけど、気が済んだら自分の部屋に戻って休むんだよ? 明日も朝早いんだからね?」
「はい、分かっています。ちゃんと寝坊しないように頑張って起きますよ、わたし!」
「……テイニーのその言葉、信用ならないニャ。きっとまた集合五分前位にならないと起きないニャ」
「そ、そんな事ないですよっ! なら今すぐ寝て――」
「まだ早すぎるニャ。今から寝ようとしたら寝付けなくて、逆にいつもの時間に起きれなくなるニャ」
「うっ……確かにそうですよね。なら、もうちょっとここにいます。わたし、何とかして地図を読めるように頑張りますから! レク、もし私がこれを読み終わったら、レクの本を貸して下さいね?」
「はいはい、分かってるニャ。まあ今日どころか、いつになったらそうなるか想像もつかないけどニャ」
「そ、そんな事ないですからっ! 見ていて下さい! わたし、絶対に今日中に全部読んでみせるんですから!」
そんな感じでギャーギャー喧嘩を始める二人。
うん、本当に二人って仲が良いよね。
喧嘩するほど仲が良いとはよくいうものだ。
そんな二人をリザは若干困ったような様子で黙って見つめている。
まあここはリザにとってはそうしているのが正解だろう。
迂闊に話す事もできないし、無理に止めようものなら、余計な反感を買いそうだからね。
だいぶ苦労する立場におかれているな、リザって。
まあ、せいぜい頑張ってほしいものだ。
僕がいつものように黙ってこの場を去ろうとすると、何か一瞬ヒヤリとした嫌な感覚に襲われる。
何というか、やけにレクの事が心配になったというか……。
でも、きっと気のせいだよね。
レクはこんなに元気そうだし、テイニーともいつも一緒にうまくやってる。
何の問題もないはずだ。




