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14.みんな覚悟はできていたようです

 僕達はあの後、依頼の達成をギルドに報告し、無事にEランクに昇格する事ができた。

 ただ、依頼を終えた頃には一日もだいぶ過ぎたという事で、今日の所はもうそれぞれ帰る事に。

 そして僕は宿屋に戻る前、本屋に立ち寄って、防具に関する本を読み漁っていた。


 ……うん、こんな防具が良さそうだな。


 本に書かれている防具の一覧の中で、特に僕が気に入った防具はアクアメイルズという名前のついた防具のセットだ。

 全身が青系の素材で統一されていて、見た目にもだいぶクールなデザインとなっている。

 その上、防御力にも優れ、比較的軽いから身動きもとりやすいとの事。

 それを作る為に必要な素材は全てEランクの魔物からとれる素材でできているというのも素晴らしい。


 具体的に必要なものといえば、

・サハギンの鱗×1000

・マーメイドの槍×1

・アクアスライムの粘液×10

・ケットシーのラッパ×1

 だそうだ。


 サハギンの鱗1000枚ってどうかと思ったが、どうやらサハギン一体を倒せば100枚ほどの鱗が手に入るようなので、10体確保すれば良さそうだ。

 アクアスライムの粘液10個って単位が良く分からないが、恐らくアクアスライム10体分の粘液があればいいんだろう、きっと。

 この防具を作る上で問題なのは、そのサハギンやマーメイドの素材をどうやって入手するかなんだが……。


 サハギンとマーメイドは共に水中に生息する魔物である。

 サハギンは時々陸にあがって、人々を襲う事があるから、その時に狩ればいいとして、問題はマーメイドなんだよな。

 マーメイドが陸にあがってくる事はまずないので、マーメイドの素材が欲しければ海を潜るしかない。

 でも今の僕には海に潜る手段がないから、マーメイドとはまず出会う事も困難だし、素材の入手ももちろん困難だったりする。

 ……まあ、作れたら嬉しいというだけで、急ぎではないから、防具集めはあまり意識しない方が良いか。

 一応そういう素材だけあった方が良いという認識を持っていればいいだろう。


 さて、一通り防具について考えたし、今日はもう寝るとしようかな。





 宿屋に戻って、やるべき事を終えた僕。

 そしてそのまま寝ようとしたのだが、そんな僕にヴァルドが声をかけてきた。



「なあ、アーク? 人間達と仲良くやっているようだが、目的は忘れてないだろうな?」

「目的……? あっ、うん、もちろん忘れていないよ? 他の町に行って情報を集める事だよね?」

「そうだ。忘れてないのならいいけどよ……」



 そう不満そうな声をあげるヴァルド。

 確かに色々やってみたい事に気をとられていて、すっかりその事を忘れていたような気がする。

 僕がこうして魔物使いをしていられるのはヴァルドあってのこと。

 僕は魔物使いになれる代わりに、ヴァルドに協力すると約束したんだった。



「明日早速、次の町までの行き方などを調べてみるね。少し時間をもらってもいいかな?」

「ああ、それは構わない。忘れてなければいつだって構わないさ」



 そう言うとヴァルドはどこか遠くに飛び去って行った。

 最近僕が寝ている時、ヴァルドはどこかへ行く事が多いんだよね。

 一体どこに行っているんだろうか?

 ちょっと気になったりする。

 まあ僕が出かける時までには戻ってくるから心配はしていないんだけど。


 さて、明日はテイニーを迎えに行く前に本屋に立ち寄るとしますか。

 そろそろ行動を起こさないとね。

 僕はそう決意をしてから、深い眠りについた。



 そして翌朝、僕は出かける準備を素早く済ませて、早速本屋に向かう事にした。

 本屋に入った僕は、この町の周囲の地図や、生息する魔物に関する本に目を通す。


 ……ふむふむ。

 ここの町から向かうとしたら、西はパミランの町、東はベルサの町、北は首都デコラーダが近いみたいだ。


 パミランの町まで行くには、あのコボルトが生息する荒野をずっと抜ける必要がある。

 ただこの荒野には途中、Cランク魔物であるガルーダの巣があり、その近くを通っていかないといけないから、僕にはちょっと早いかもしれないな。

 他を探そう。


 ベルサの町まで行くには、薬草を採取した森を抜けた後で、草原を通っていく必要がある。

 その森にはDランク魔物のアルラウネやエルフ、トレントが生息する位でCランク以上の魔物はいない。

 だが、森を抜けた後の草原にはCランク魔物のグレートウルフが生息しているため、少し厳しいかもしれない。


 さて、そうなると残るは首都デコラーダなのだが、これもなかなか厄介だ。

 通り道にはさほど強力な魔物はいない。

 強いて言うならば、Dランク魔物のランドリザード位だろうか。


 だが、問題なのは通るルートなのだ。

 デコラーダまでは大きな山脈がある関係上、町まで行くには洞窟を通っていく必要がある。

 そして洞窟を通るという事は、ヴァルドは入れないという訳だ。

 ヴァルドを置いて洞窟に入るという事もできなくはないが、そうなるとヴァルドとの再合流は少し怪しくなるし、できればその状況は避けたい。



 次の町までの状況は以上の通りだ。

 という事で、なかなか一筋縄ではいかなそうだね。

 うーん、どうしたものか。


 やっぱり、これはああするしかないだろうな。

 僕はやるべき事を決めた。

 そして一応後でも読み返せるように必要な本だけを買って、本屋を後にする。

 その時には朝10時近くになったので、僕はテイニーを迎えに行く事にした。



「テイニー、迎えに来たよー!」

「あっ、はい、今行きまーす!」



 僕がそう言ってから数分後、テイニーとレクが身なりを整えた状態で出てきた。

 どうやら今回はしっかりと起きていたらしい。



「ちょっと今日はギルドに行くんじゃなくて、まずメルに会いに行こうと思うんだけど、いいかな?」

「メルさんの所にですか? 別に構わないですけど……」

「まあ確かにその方が良さそうだニャ。納品系の依頼をこなすつもりなら、あらかじめメルを連れて行った方が効率が良いニャ」



 うん、レクの言う通りだ。

 納品系の依頼を一つ持っていって確認するより、メルにあらかじめ同行してもらって、すぐに依頼を達成できそうなものを見極めてもらった方が早い。

 それに僕にはテイニー、レク、メルに話さないといけない事があるからね。


 僕はメルの店まで立ち寄ってみる。

 するといつものように声を張り上げて店の宣伝をしているメルを見かけた。

 メルに声をかけて、メルと合流した僕達は、みんなでギルドへと向かう。

 その途中で、僕は話を切り出した。



「テイニー、レク、メル。ちょっとみんなに話したい事があるんだけど、いいかな?」

「どうしたん? そんなにあらたまって? 何か大事な話でもあるんかいな?」

「うん。僕は近々、このレクレスの町を出ようと思ってる。そして首都デコラーダに行こうと思うんだ」



 僕のその話を聞いて、きょとんとするみんな。

 いや、いきなりそんな事を言ったらこういう反応にもなるよね。

 少しの間を空けると、メルが話し始める。



「なるほどな。で、いつここを出発するんや?」

「できるだけ早く……かな。今日中に依頼をこなすついでにゴンの強化を終えて、エルフの髪を入手する。後は大きさを変える道具が入手でき次第出発できたらと思っているんだ」

「つまりあれや。明日には出発したいという事でええんか? 大きさを変える道具自体は一時間もあれば用意できるしな。あと夜に出発するのは避けた方が無難やろうし」

「うん。だからさ、今までありがとうと思って……」



 僕はレクレスの町を出る。

 だけど町を出るのは危険な事だ。

 そんな危険な状況にテイニーを連れて行く訳にはいかないだろうし、メルは商売の都合上、レクレスの町を出る事はできないだろう。

 だからもうすぐお別れになるし、感謝の意を伝えるべきだと思ったんだ。



「その言い方だと、まるでウチとここでお別れみたいな言い方やな?」

「……へっ? そうじゃないの?」

「当たり前や! ウチはアークはんが世界一の魔物使いになれるまで常についていると言うたやろ!? 魔物使いは町の移動なんて当たり前。ウチは町を移動する位の覚悟はとっくにできとるわ!」

「わ、わたしもですっ! わたしはアークさんの力になりたい。その為には町はいつか出ないといけない事は分かっていました。明日出るというのは予想外でしたけど……でも大丈夫です!」

「うんニャ。そういうことニャ。もちろんあっしだけ仲間外れなんて酷い事はしないニャ?」



 どうやら、みんなは元々、町を移動してでも僕についてくるつもりだったらしい。

 僕はてっきりこの町にいる間だけサポートしてくれるものだと思っていたんだけど。

 それだけの覚悟でみんなはついてくると言ってくれていたんだ。

 何か僕だけ誤解していたようで恥ずかしいな……。



「えっと……何か誤解していたようでごめん」

「ええんよええんよ! 過ぎた事は気にするだけ損や! それより、今日中にゴンはんの強化をして、エルフの髪までも手に入れるんやろ? だったらもたもたしていられないで!」

「ええ、そうです! 急ぎましょう!」

「ま、待つニャ! テイニーが先に行ったら迷って逆に時間がかかるニャ!?」

「あっ、そうでした……すいません、わたし、焦ってしまって」

「ええんよ、その気持ちが大事や。それじゃアークはん、ちょっとギルドまでひとっ走りといこか?」

「あっ、うん、分かった!」



 こうして僕達は急ぐ為にギルドに走って向かった。

 まあそれによって短縮できる時間なんてたかが知れてるけど、でも何となくそうしたい気持ちがみんなにあったみたいだね。

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