Sakura my love
朝の約束通り、一緒に公園へ向かう。
「桜樹くん、みんなからサインお願いされてたね」
「まあ、一言書いてって言われるよりは楽でよかった。」
「たしかに」
「さすがに誰もいないね…」
「寒いからな… 前野は大丈夫?」
「大丈夫! 防寒グッズ持ってるから」
「それで荷物多いのか。でも体冷えるといけないから、早めに切り上げよう……
―本当はずっと一緒にいたいけど…」
風月がボソッと呟いた最後の一言は、泉水の耳にしっかり届いていた。
「その…この前の返事なんだけど…」
「え?」
朝の泉水の反応から、あれが返事なのかと思っていたが、そういえば明確なことは言われていない…
(もしかして、歌手だから付き合えないとか? 友人としてがいいとか?)
「…私も桜樹くんが好きです。お付き合いお願いします」
「……ホントに?俺でいいの?」
風月の驚いた顔に、泉水はクスッといたずらっ子のように笑った。
「私はCloverの描く優しい絵が好きです。Haruにあたたかいコメントをくれる優しいところが好きです。
そして、桜樹くんの穏やかな声が好きです。楽しそうに絵を描く姿が好きです。それから…」
「ストップ。 ありがとう… もういいから…」
朝と立場が逆転して、二人で顔を見合わせ笑う。
「そうだ。Cloverから伝言預かってるんだった」
「? それってどういう…」
「いつもコメントありがとうございます。”Spring”さん」
「!!」
―
卒業式の日、泉水は自分がHaruであることを、友だちに告げた。
どんな反応をするのか正直怖かったが、二人は驚きながらも、すごく喜んで、抱きしめてくれた。
「泉水すごい!夢叶えたんだね」「ずっと応援してるから!」
二人の言葉に胸が熱くなり、涙が溢れた。
「ありがとう」
秘密にしていた後ろめたさがふわっと溶かされ、二人の優しさに心が満たされる。
事務所の人と相談して、短大を卒業してアーティストを続けるつもりなら、顔出ししようということになった。
なので、それまではこのことを秘密にしてほしいと二人にお願いした。
「もちろん!逆に私達に言って大丈夫だった?」
「信頼してる人にしか、こんな秘密言えないよ。だから…」
チラッと泉水が風月を見ると、それに気付いた風月はニコッと笑った。
泉水と風月の様子を見て、二人はニヤリと笑い
「「なるほど~」」と声を揃える。
―『Sakura my love』
風月のことを想って書いたこの曲は、同じ電車に乗るクラスメイトの男の子に恋をした歌。
桜が舞う季節に彼のことを好きになり、いつも遠くから見ていた。
姿を見て嬉しくなったり、目が合うと熱くなって緊張したり、遠くから声が聞こえると耳が反応した。
顔を見るたび、声を聞くたび、心がときめいた。
そんな彼と、ふとしたきっかけで公園で会って話すようになる。
穏やかな彼の声を聞きながら二人で話す時間、二人でゆっくり空を眺める静かな時間。
私の話を微笑んで聞いてくれる彼の顔、空を見上げる彼の横顔。
いつも遠くから見ていたのに、隣に座っている奇跡。
一緒にいて色んな彼の顔を見ると、胸がきゅんとしたり、聞こえるんじゃないかと思うほど心臓がドキドキしたり…
でも、一緒にいる時間が増えると、どう思われているか考えて胸が苦しくなったり、この時間がいつか終わると思うとズキッと痛んだり…
同じ気持ちだったらいいのにな。と隣に座る彼の普段通りの横顔を見ながら何度も思った。
クラスメイトも友だちも知らない、公園で二人並んで話す大切な時間。
刻一刻と迫る彼との別れの時間まで、溢れ出しそうな思いに蓋をして、大好きな笑顔と声を胸に刻み込むように、大切に過ごした。
そして、卒業式の日。
女の子は誰にも気持ちを話すことなく、彼と一緒に見た空の写真を一人公園で眺めて、片想いのまま、気持ちに鍵をかけて心にそっとしまい、この恋は思い出になった―
そう。秘めたまま終わると思っていた片想い…
曲を書いている時は、まさかこんな幸せが待っているだなんて思ってもみなかったー
―
二年後…
泉水は短大を卒業し、Haruとしてアーティストを続ける決心をし、顔出しした。
知り合いからたくさんの連絡があったが、どれも応援メッセージでホッとし、胸がいっぱいに。
Haruの顔出し後、初リリースとなった『Promise of That Day』
ジャケットイラストには、四つ葉のクローバーをお互いに差し出す少年少女。
その後ろには、二重虹が架かっている。
イラストは、Haruがずっとファンの“Clover”が手がけてくれた。
あの時の少年少女の夢は、時を経て最高の形で叶ったー




