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第一話前編

プロローグ

はるか昔。

世界は混沌に包まれていた。

そこに現れたのが

神であるイザナギ とイザナミ。

二柱は世界を形作り、

大地を生み、海を分かち、天を整え、

数多の神々を生んだ。

神々は二柱を慕い、

とりわけイザナミは“母神”として敬われた。

そして、神の時代は、絶対であった。


時が流れ、神々は繁栄する。

次第に、精霊が動物が現れ、やがて人間という尊い生き物が生まれた。

人間は賢く、団結力があった。

そして、彼らの文明はますます発展していった。

だが、

そんな人を顧みない神々が現れる。

人間を玩具のように扱い、

信仰を力として吸い上げ、

地上を私物化する者たち。

そんな神にイザナミは違和感を抱く。

「私は、この者たちと同じなのか?」

神々は彼女を慕う。

だがその慕情は、支配者への媚びではないか。

神であることに、嫌悪を抱き始める。

ある時、イザナミは決断する。

「神を辞める」

職務放棄。

上等。

神であることを拒絶し、

地上を去ることを選ぶ。

行き先は冥界。

静かに、誰にも干渉せず、

ただ存在するだけの場所。

しかし――

イザナギはそれを許さなかった。

他の神々の知らぬところで、

二柱は対峙する。

思想の衝突。

イザナギは言う。

「神は世界の理だ」

イザナミは返す。

「理が腐っている」

激突。

それは戦いとなる。

天地が割れ、

星が揺れ、

神々すら近づけぬ大戦。

やがて――

イザナギはイザナミの神器を封印する。

神格を剥奪。

神の権限を奪われたイザナミは、

最後の力で冥界へと逃れる。

イザナギは追わなかった。

討つことはできた。

だが、討たなかった。

その理由は、誰も知らない。


イザナミは地上から姿を消す。

神々は混乱する。

だがイザナギは真相を語らない。

沈黙。

神々はただ一つの事実だけを数え始める。

「イザナミが消えてから、何年経ったか」

それが後に

冥歴

と呼ばれる暦の始まりである。

 

第一話「開花の刻」

――冥歴2500年――

現代では、生まれた瞬間に個々へ“力”が与えられる。


炎を操る者。

水を支配する者。

獣へと姿を変える者。


それは特別なことではない。

誰もが当たり前のように持つ、“もう一つの個性”。


だからこそ――


“何も持たない”ということは、異質だった。




石段が続いている。

どこまで続いているのか分からないほど長く、

まるで空へと繋がっているかのような階段。

その上を、一人の少年が駆け上がっていた。

軽やかな足取り。

迷いのない動き。

振り返りながら、大きく手を振る。

「おーい!!早くしろよ、レイ!!」

その声の先。

少し遅れて、もう一人の少年が階段を上ってくる。

「はぁ……はぁ……ま、待ってよ……にいちゃん……!」

息を切らし、足取りも重い。

だが、それでも止まらない。

前を行く兄を見失わないように、必死に食らいついている。

「遅ぇんだよ!!」

ショコラは笑う。

からかうような言い方だが、その声にはどこか楽しさが混じっていた。

「にいちゃんが速すぎるんだよ……!」

「それを言い訳って言うんだ」

「違うって……!」

二人のやり取りは、いつものことだった。

やがて、長い石段の終わりが見えてくる。

最後の数段を駆け上がると、視界が開けた。


そこにあるのは、小さな寺。

古びた木造の建物。

風に揺れる軒先。

人の気配は薄いが、不思議と寂しさは感じない場所。

「やっほー!!じいちゃん!!」

ショコラが元気よく声を上げる。

縁側に座っていた老人が、ゆっくりと顔を上げた。

「おお……来たか」

穏やかな声。

その姿はただの老人に見える。

だが、その目にはどこか底知れないものが宿っていた。

「ショコラ、レイ。今日もよう来たの」

「へへ、当たり前だろ!」

レイもようやく追いつき、肩で息をしながら頭を下げる。

「はぁ、はぁ……こ、こんにちは……」

「相変わらず元気じゃのぉ」

老人は二人を見比べ、柔らかく笑った。


「聞いてよおじいちゃん!」

息を整えながら、レイが口を開く。

「にいちゃん、また僕を置いていったんだよ!?」

「レイが遅いんだろー?」

「だから違うって……!」

二人の軽口に、老人はくつくつと喉を鳴らす。


「今日もやるのかのぉ、修行」

その一言に、二人の表情が変わる。

「やるー!!」

声が揃う。

だが、その意味は同じではない。


レイはすでに能力を持っている。


氷を操る力。

まだ完璧ではないが、それでも確かに“形”になっている。


対して、ショコラは――

何も持っていない。


「にいちゃん、今日こそ出るといいね。能力」

レイが、少しだけ遠慮がちに言う。

ショコラは一瞬だけ言葉に詰まり、すぐに笑った。

「ぐぬぬ……なんで出ねぇんだろうな、俺の能力」

冗談めかした口調。

だが、その奥にあるものは隠しきれていない。


老人が、ショコラを見つめ、静かに口を開く。

「焦ることはない」

「人にはそれぞれ、タイミングというものがある」

「同じ日、同じ時に同じ花の種を蒔いたとて、花が咲く日は違う。それは人とて変わりゃせん。」

ゆっくりとした言葉。

急かすことも、否定することもない。

ただ、そこに在るだけの重み。

「自分の歩幅で進めばよい」

「結果は、後からついてくるものじゃ」

ショコラは少しだけ目を伏せる。

「……じいちゃん」

「ま、神様のわしが言うんじゃ。間違いはないわい」

軽く笑う。

その一言で、空気が少しだけ軽くなる。

「ほんと信じられないよな」

ショコラが肩をすくめる。

「こんな近くに神様いるなんてさ」

「七福神の……なんだっけ?」

レイが首をかしげる。

「福禄寿だろ?」

「そうそう!」


この二人の祖父は、かつて“神”であった。

七福神の一柱――福禄寿。

戦いの神ではない。数多の逸話を残し、その役目を終えた存在。

今はただ、一人の老人として、この地で、静かに暮らしている。


福禄寿は、どこか楽しそうに二人を見ていた。

「さて」

ゆっくりと立ち上がる。

「始めるとするかの」

その一言で、空気が引き締まる。


ショコラは拳を握る。


レイは手のひらに意識を集中させる。


同じ“修行”でも。

進む道は、違う。

ここから先が、それぞれの戦いだった。




「思う存分、やってみなさい。」

福禄寿の一言で、空気が変わる。

レイは静かに一歩前へ出た。

手のひらを開き、意識を集中させる。

周囲の空気が、一瞬だけ冷え込む。

その刹那、目に見えない水分が凍りつき、指先に細く鋭い氷柱が形を成した。

「……いくよ」

軽く腕を振る。

次の瞬間、氷柱は一直線に飛び、遠くの木へと突き刺さった。

鈍い衝撃とともに、幹の奥まで深く食い込む。

「おお……」

福禄寿が目を細める。

「だいぶ形になってきたの」

レイは少し照れくさそうに笑った。

「最初は全然うまくいかなかったけど……今は、こんな感じで撃てるようになったよ」

「うむ。よい成長じゃ」

そのやり取りを、少し離れた場所からショコラは見ていた。拳を握る。

(すげぇな……)

素直な感想だった。

悔しさよりも、まずは純粋な羨望が先に立つ。だが――

(……俺は)

ゆっくりと視線を落とす。

何もない。

手を開いても、閉じても。

何も起きない。

「にいちゃん……」

レイの声にショコラは一瞬だけ間を置いて笑った。

「安心しろよ。今日こそ、目覚めさせてみせる。」

軽口だった。

だが、その声にはわずかな力みが混じっている。

「……そうか」

福禄寿が静かに頷く。

「では、お前さんも始めるとよい」

ショコラは前へ出る。

そして地面を強く蹴った。

踏み込んだ足元が沈み込み、遅れて土が弾ける。

空気を押し裂くように踏み込み、拳を振るった。

 

もう一度。


さらにもう一度。


殴る。


踏み込む。


体を捻る。


ただひたすらに。

(出ろ……)

(出ろよ……!!)

呼吸が荒くなる。

額から汗が流れる。

腕が重い。

それでも止めない。

何かが足りない。

それは分かっている。

だが、それが何かは分からない。

「……っ!」

ショコラは動きを止めた。

荒い息を整えながら、自分の拳を見つめる。

(イメージはできてる)

だが、それだけじゃない。

もっと奥にある“何か”。

言葉にできない。

だが確かに存在している感覚。

(あと少しなんだよ……)

その“あと少し”が、遠い。

遠すぎる。

手を伸ばしても、届かない。

時間だけが、無情に過ぎていく。

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