第17話(改稿後)
今日は水曜日。7限目はLHRで、今日は文化祭の合唱コンクールについて話会う予定だ。
1限目の国語の授業が終わった後の休み時間、俺はの方を向いた。
「なあ彼方、7限文化祭の話し合いだったよな。1年は合唱だったっけ。合唱かぁ」
確か2年生は展示で、3年生は舞台で劇だったはずだ。俺はどちらかというと、合唱より展示や劇に興味がある。
だって俺、歌下手だしな。
「ああ。いい感じにまとまるといいね」
「お前がクラスをまとめれば、そんなのすぐだろ」
彼方は長い腕を短く横に広げた。
「いや、今回は文化祭実行委員が主役だから、夢乃の仕切りだよ。夢乃なら心配ないよ、なぁ慎一」
彼方は含んだ言い方をする。
「何で、俺に言うんだよ。まあ、確かに夢乃だったら大丈夫だろうけど」
「2人で何話してるの?」
えっ!
気がつくと俺の後ろに夢乃が来ていた。
「びっくりしたぁ。え、こっそり話聞いてたの? ちょっと趣味悪くないか、夢乃」
俺のちょっとした嫌味にも、夢乃は「いつものこと」といった風の余裕の表情だ。
「そう言う慎一も、彼方とこっそり私の話してたでしょ? なんか怪しい~」
「怪しい」という夢乃の言葉に、周りの男女が俺の顔を見る。
「ちょっと待てって。普通に、文化祭の合唱コンクールで夢乃が活躍しそう、って話してただけなんだけど。そういうのやめてくれよ」
俺がそう言うと、夢乃は何を思ったのか後ろから俺の両肩に手を置いて、俺の顔の左側から顔を出してきた。
「そうなんだ。合唱コンクールの話か~。うんうん、やる気があってよろしい」
いやほんとちょっと何なの夢乃さん。みんながめっちゃ見てるって。
てかめちゃくちゃいい匂いするって。いろいろ無理だって。
「えっと、その、ちょっと、近くないか。いくら友達でも、ちょっとな」
俺はこういうときにしどろもどろになってしまう。
その時、横から甘ったるいアニメ声が聞こえてくる。
「夢乃~。しんいち困ってるってぇ~。しんいちったらかわいい~」
「あ、これで固まっちゃったのか。ゴメンゴメン」
夢乃は何てことなかったように俺の肩からぱっと手を離し、愛瑠の方に向いた。
「愛瑠、伴奏者やってくれない? 私でもいいんだけど、愛瑠の方がうまいでしょ」
そういえば、夢乃は中学校の文化祭じゃだいたい伴奏者やってた気がする。
「愛瑠ってピアノうまいのか?」
俺がそう言うと、愛瑠は俺の顔を見てちょっと得意げに笑った。
「へへ~ん。あたし~、元吹奏楽部だし~。ピアノは子供のころからやってたよ~」
「へぇ、そうなんだ。夢乃よりうまいわけ?」
夢乃が体の前で小さく手を横に振る。その仕草、かわいい。
「私なんか全然だよ。愛瑠は、子供のころからコンクールで入賞してたんだって」
「それすごいな」
「でしょ~。あたしに任せといて~」
愛瑠は両肘を机につけ、両こぶしの内側に頬を乗せてえっへんという顔を見せる。正直めちゃくちゃかわいい。
しかし、夢乃からドキドキの不意打ちを食らっても、愛瑠からかわいい爆撃を受けても、俺はあくまで冷静だった。
そう。俺は、並の友人Aではないからだ。
中学時代から夢乃に、そして入学してこの方、ハナコー1年美少女トップ3にからまれ続けた結果、俺は「かわいい子にドキドキはするが、そのドキドキを恋愛感情の結びつけない」という技を自然と習得していたのだ。
では、なぜ美少女達がそんなドキドキさせるようなことを俺なんかにわざわざやってくるのか?
やりやすい相手だから、だろう。平均的モブで話を聞くことだけが得意な俺なんか、格好の標的になるわけだ。
ほら、漫画とかである「オタクに優しいギャル」とかも、俺みたいな男子に絡んでるだろ。それと同じだよ。いや、3人はギャルじゃないけどさ。
そんなことを考えていたら、ドキドキは収まっていた。ほらね。
ふと、彼方のことが気になった。さっきから、彼方が会話に参加していなかったからだ。
えっと、何の話だったっけ。そうだ、愛瑠がピアノがうまいって話だった。
「彼方も、愛瑠がピアノうまいって知ってたのか?」
「ああ。中学の合唱コンクールで伴奏者をしていたからね。ピアノのことはよく分からないけど、うまいんじゃないかな」
彼方は、少しだけ遠くを見ているというか、上の空な感じだった。珍しいな。
「へぇ~、彼方って~、あたしのピアノ覚えてたんだ~。興味ないと思ってたんだけど~」
愛瑠は少し意地悪そうに、覗き込むようにして小悪魔感全開で彼方にそう言う。
彼方はそれを聞いても、少しも動揺した様子を見せなかった。
「興味はともかく、印象に残っていたからね。今回も楽しみだよ」
さらっとそう答える。いつも通りの彼方だ。
もしかして彼方って、女子の不意打ちでドキドキなんてしないんじゃないか? マジですごいな。ここまでくるとうらやましいとか思わないけど。
「伴奏者と指導者が決まったら、後は指揮者だね。彼方、指揮者とかどう? 愛瑠となら、うまくいくと思うんだけど」
彼方が指揮者か。うちのクラスならそれが一番しっくりくるよな。
愛瑠と彼方ならうまくいく? どうなんだろ、これまであんまり絡みなかったっぽいけどな。まあでも彼方なら、愛瑠の小悪魔攻撃もうまくいなせそうだし。
そう思って彼方の方を見ると、少しだけ表情が硬い。どうしたんだ?
「……いや、俺はいいよ。俺は、男子のリーダーをやるから」
俺ははじめ、彼方の言葉が信じられなかった。彼方が、頼まれた仕事を断ったのが今までで初めてだったからだ。
委員長にも皆に推されてなり、リーダーを何度も今まで担ってきた彼方が、明確に「やりたくない」と言った。
何か、理由があるんじゃないか。そう思うのは無理もない。
俺と夢乃が顔を合わせ、「どうしよう」という雰囲気になった時だ。
「あ~あ、振られちゃった。残念~」
愛瑠が少しも残念そうじゃない口調でそういったことで、正直俺はほっとした。夢乃もそういう表情だ。
「じゃあ~、指揮者は伴奏者が決めてもいいよね~」
そう明るく言うと、愛瑠はくるりと俺の方を向いた。
「しんいちでけって~い。よろしくね、しんいち」
はい?
俺が指揮って言った?
「いや、ご指名は嬉しいんだけど、無理だよ俺。歌も下手だしリズムも取れないし、絶対に迷惑かけると思う」
「いいってそんなの~。あたしが教えてあげるから~。あたしの家で練習しよ~」
えっと、教えてもらえるのは嬉しいんですが、最後の言葉聞き捨てならないんですけど。
「私も、慎一がいいと思う。彼方がやらないなら慎一に、って思ってたから。それに、慎一ってこう見えて努力家なんだよ。やろうと思えばきっとやってくれるよ、ね」
こんなこと女子に言わせて、断ったらかっこ悪いよな。
「……分かった。やるよ。夢乃、愛瑠、いろいろ教えてくれよな。彼方も、一緒に頑張ろう。やるからには絶対に優勝するぞ!」
「おう!」「おー!」「お~!」
こうして、俺は合唱コンクールの指揮者になった。颯人と対決ってわけだ。普通クラスの意地、見せてやろうじゃないの。




