第18話
そして7限目のLHR、俺たち1年3組では合唱コンクールの話し合いになった。
文化祭実行委員の4人が前に立つ。仕切るのは、もちろん夢乃だった。
「1の3文化祭実行委員代表の雛崎です。この時間は祭の合唱コンクールについて話合うから、よろしくね」
夢乃の明るくてよく通る、正統派美少女ヒロインっぽい声が心地よく教室内に響く。
「じゃあまずは、指揮者と伴奏者を決めようか。できれば、やってくれる人がいるといいんだけど」
夢乃がそう言うと、クラスメイトは途端に周りを見回し始めた。
男子はお互いを指さして「ムリムリ」というジェスチャーを送り合っている。
女子からは「誰がやるんだろ?」「やっぱり空野くんじゃない?」というひそひそ話が聞こえてくる。
それは、「自分はやらないけど誰がやるんだろう、あるいは誰かがやってくれるだろう」とでもいうような、他人任せである意味無責任な行為、なのかも知れない。
でも、仕方のないことだと俺は思った。
中学の頃は俺もそっち側だったと思う。無理に目立ちたくなかったし、責任を取らされる立場にいたくなかった。
でも、今は違う、と言いたい。今は、このクラスでみんなと一緒に言い分火災に為たいし、何よりこのクラスのみんなで勝ちたいんだ。
そして、その中心に立ってみたい。そう思った。
「誰もやらないなら俺が指揮者やるよ」
気がつけば俺は手を上げていた。
前に立っている夢乃が目を見開いて、少し驚いたような表情を見せた。
「慎一が指揮者やるなら私が伴奏する~。い~よね~」
すかさず愛瑠が伴奏者に立候補した。事前の話し合い通りだけど、全く躊躇がなかったな。さすが愛瑠だ。
俺が指揮者に立候補したとき、男子を中心にどよめきが起こった。
「おい慎一、お前指揮者なんてできんのかよ。いくら雛崎が係だからって、張り切りすぎじゃねーのか?」
大治が一見意地悪そうに、だけど内心心配そう言ってくる。
「いや、夢乃は関係ないって。俺が自分でやりたいって決めたんだから」
俺はあえて裏事情を話さず、大したことないといった風を装った。実際は心臓がバクバク言ってるんだけど。
「でもお前、歌下手だろ。カラオケ行ってもいまいちリズム取れてなかったし。大丈夫なのか?」
何だかんだ悪友と言っても大治は中学からの友達だ。言い方は友達特有のちょっときついものだけど、俺のこと心配してくれてるみたいだ。
でも、俺はやるって決めた。決めたなら、自分の力を尽くして最後までやりきるだけだろ。
「心配かけて悪いな。確かに俺は歌は下手だよ。でもさ、俺、頑張るから。それに、指揮者なら歌わなくていいからな」
最後は冗談めかした調子でおどけるように言った。
それを聞いた大治は、別の心配をしだしだ。
「お前が指揮者なら、伴奏者の玉木さんと一緒に練習するってことだよな。マジでうらやましいんだけど。お前もしかして玉木さん狙いかよ」
大治が愛瑠のことを気になっているのは少し前から知っていた。大治のやつ、「自分に合った相手を探す」って言ってたのに、結局かわいい子に行くのかよ。どうなっても知らないからな。
「そういうわけじゃないって。じゃあ、指揮者変わってやろうか?」
俺が楽しそうにわざとそう言うと、大治は両手を挙げて首を全力で横に振った。
「いや、それとこれは話が別だろ。指揮者なんて俺には無理だし、そもそも恥ずかしくてできねぇわ」
「じゃあ、指揮者と伴奏者は決定ね。いい?」
夢乃はクラスの様子を見た上で、そう確認した。誰も他に立候補する人や、反論する人はいなかったからだ。
指揮者と伴奏者が決まれば、次は男子と女子の指導者選びだ。これはすんなり決まった。男子の指導者はもちろん彼方だ。女子は2パートあるから、ソプラノが夢乃、アルトが合唱経験者の西野さんになった。
ここまでLHR始まってから10分しかたってない。ほんと、1ー3ってまとまりのあるいいクラスだな。
「じゃあ、次は一番大事な曲選びだね。知ってるいい曲があったらどんどん言ってね」
前に立つ夢乃の言葉で曲選びが始まった。
みんな積極的で、グループになって一斉に調べ始めた。
俺もタブレットPCでヨーチョーブを開き、『合唱コンクール おすすめの曲』なんて見てみる。でも、正直俺にはどれがいいのかなんてよく分からない。
そのうち、中学で合唱部をやっていたり、中学の合唱コンクールで経験があるクラスメイトが、次々に曲を提案してきた。はやりのJポップもあれば、本格的な合唱曲もあった。
色々聞いていると、合唱を全く知らない俺にも少しだけ気になる曲があった。
「なあ、この『春に』って曲、結構いいよな。なんかさ、高校に入学した頃のことを思い出すって言うか・・・」
まだ入学して2ヶ月なのに、ほんと色々あったよな。かわいい子やイケメンと同じグループになるし、クラスや部活に恵まれてるし。ほんと、理想的すぎるぐらいいいスタートだよ。高校デビューって言っても、おかしくないかもしれない。
でも、俺はモブで結局モテてない。高校生になったからって、あまり変わってないんだよな。
そんなことを考えていると、横にいる彼方がうんと頷き返す。
「確かにそうだね。俺たち高校1年生にぴったりな気がするよ。何て言うか、毎日充実してて楽しいんだけど、まだ何だかふわふわしている、みたいな」
「彼方、うまいこと言うよな。俺もそう思ってたんだよ」
俺の言葉を聞いた彼方はニコッと笑うと、俺から視線を離し前を向いてすっと手を上げた。
「ちょっといいかな。俺と慎一は、この『春に』って曲がいいって思ったんだけど、みんなはどう?」
彼方の言葉に女子達がすぐさま反応する。
「え~彼方君の気になる曲、私も聞きたい~」「うん、聞こう聞こう~」
うーん、女子ってやっぱわかりやすい。彼方に同調したくなる女子の気持ち、俺でもわかるもんな。
「じゃあ、その曲流してみるね」
前に立っていた夢乃がタブレットを操作し、「春に」を流す。すると、みんなしん、となって聞き入った。
演奏が終わる頃、俺は心に決めた。やっぱりいい曲だよ。みんなも、聞きながらうんうん、と頷いている。
これだ。
俺は立ち上がってクラスメイトを見た。
「なあみんな、俺はこの曲で指揮がしたい。この曲をみんなと作りたいんだ。どうかな?」
クラスメイトの前で緊張したけど、俺は気持ちを抑えられなかった。
みんなが驚いてこっちを見てる。何だか主人公みたいでむずがゆい。いや俺普通の高校生なんだけど。
「いいと思う。みんなは、どう?」
口火を切ってくれたのはやっぱり夢乃だった。夢乃はみんなの方を見ながらも、俺に目をやって嬉しそうにしている。
みんなの前で夢乃に見つめられると、何もないって分かっててもやっぱり恥ずかしい。
「いいじゃ~ん。かっこいーよしんいち~。私もこの曲伴奏したいかも~」
愛瑠がストレートに俺と曲を褒めてくれた。てか愛瑠もやめてくれよ。みんなこっち見てるだろ。
「いいよな~慎一は。まあでも、こうなったらみんなで慎一をもり立てるか!」
ムードメーカーの大治がそう言うと、男子達もおう、と声を上げた。
「慎一、一緒に頑張ろうね」
「ああ、俺たちならできるさ」
「あたしに任せて~。引っぱったげる~」
夢乃、彼方、愛瑠が俺の所に来ててそう言ってくれた。
いよいよだ。これから、みんなで最高の文化祭にするために、俺は全力で頑張ると心に誓った。




