第六話 魔道具令嬢ジーン 前編
少し遅くなりましたが、ジーンside前編を投稿しました。
ここはチャイルズ公爵家の庭園。
私とソニアはガゼボで並んで座り、お茶会を楽しんでいた。
二人は幼馴染で親友。
一般的な公爵家と伯爵家の付き合いの中ではあまりないものかも知れないが、いつも相手の事に心を砕き、それでいてそれを苦痛にも感じず恰も当然のように過ごす。二人はそういう仲だった。
「で、ジーンはいい?」
「いいよー。私もお揃いがいいな」
「じゃあ決まりね!ジーンはこの魔石に魔力を込めるのよ。私はこれ。……で魔力を込めたらこれをペンダントにするのよ。私は時間がかかるから先に込めるわね」
そして今もお互いがお互いの目の色の魔石を持って魔力を込めていく事をなんら疑問にも思わず、仲の良い者同士二人で微笑みながらいつも通り過ごしている。
「うふふ。恋人同士みたいね。『魔導具令嬢』のジーン様?」
途中ソニアがそんな事を言うもんだから
「あら、私はそれでも良くってよ?『詠う魔術師』のソニア様?」
ジーンもノリノリで返す。
ちなみに『魔導具令嬢』はジーンの二つ名である。魔導具好きが講じて魔導具を自作するようになり、その頃からこう呼ばれるようになったのである。
最近作った魔導具『爆風玉』――風属性の魔術『爆風』を封じ込めた球状の魔石――は防犯意識の高いか弱い婦女に大人気で、『女性や子どもの独り歩きに』とこれを持ち、独り歩きをする人が増加中なのである。
これにより独り歩きをする人が増えたにも関わらず、破落戸が減ったという奇妙な現象を城下に巻き起こして話題になっていた。
とまぁ、『魔導具令嬢』と『詠う魔術師』のそんないつも通りのお茶会である。
ソニアはその最後に浄化の詩をいつも詠ってくれる。
浄化の詩はソニアが魔術書を見ないで詠唱できる五つの魔術のうちの一つだ。
ソニアは『詠う魔術師』と呼ばれている詠唱だけしか出来ない魔術師。
ソニアは精霊を呼ぶと言われる楽器『ムビラ』を奏で詠う。
浄化の詩により、庭園の草花が浄化され虫が付きにくくなり、栄養の吸収も良くなるのだ。
ジーンはいつもこれを聴くと、体調が良くなる気がしていた。
(気の所為ではないんだよね。たぶん)
子どもながらに彼女の魔術の才能を理解し、受け入れていた。
それは二人が十二歳の平和な午後だった。
***
ソニアがラウルと出会う約一年前。
ソニアはクトール国のリジド魔術学校に最高学年の三年生として在学していた。
ソニアは留学生である。
そのクトール国の北西に位置する国、エルアリア。
嘗て女王が統べた国。
ソニアはその国で生まれ、十三歳までそこで育った。
この国は魔力量により全ての序列が決まる。
そもそもの爵位自体も爵位を持つ者の魔力量によって決められるし、年一行なわれる魔力量測定では微量な魔力の差で爵位が入れ替わる事もたまにある。
その魔力量測定により、同じ爵位持ちであっても魔力量により、その発言権などの全ての権利がその序列で決まってしまう。
だから、一応王位継承は血統により受け継がれるが、魔力量により継承順位は容易に入れ替わるのだ。
そうなると、公爵家の立場はより不安定なものになる。
公爵家はその家にもよるが、王家の血筋を臣籍降下により受け継いでいる事がよくある。
高貴な血筋を持ち、魔力量も多いとなればその利用価値は跳ね上がる。この時期のエルアリア王国は奸計や策動の温床であった。
*
エルアリア王国の中でも高位貴族であるウォルフォード公爵家は魔力量は去ることながら、その技術力も他の追随を許さない。
そんな彼らは他家からの妬みや嫉みを一身に受けている。
そのウォルフォード公爵家。
夜も更けて誰もが寝静まっているはずのウォルフォード公爵邸は火の海に包まれていた。
この部屋にも炎の渦がどんどん近付いている。
(もうここも直に落ちるだろう)
ウォルフォード公爵はそう感じていた。
(早く皆を非難させねば)
「あなた……」
公爵夫人は不安そうに彼を見つめる。彼女の手には息子である令息九歳の小さな手が握られている。
扉のすぐ向こうには既に火の手が迫っていた。
「公爵様!」
駆けつけたのは、家令のアルヴィンとその妻で家令補佐のカミラ。
「早くお逃げください。さあ」
とアルヴィンは手を差し伸べ、カミラも令息の手を取り、夫人の肩に手を添える。
ウォルフォード公爵は静かに首を振った。
「君たちは先に逃げるんだ。この子を連れて」
「公爵様!何を」
「いいから早く」
公爵に促され、家令夫妻の二人は令息を連れてゆっくりとバルコニーの方へ歩み寄る。
「いいか。隣国へ渡れ。こちらには暫く戻らないように。そして……この子が十歳になったら……」
バーーーーーーーン!!
扉が壊れ、その隙間から大きな炎が吹き込んで来る。
「公爵様!」
「行け!」
「公爵様!夫人!!」
家令夫妻はウォルフォード公爵令息を連れ、バルコニーから飛び降りたのだった。
***
その日、ジーンがウォルフォード公爵家で起きた火災を知ったのは発覚一時間後、家令夫妻がバルコニーから飛び降りてから二時間が経とうとする頃だった。
「何ですって!ウォルフォード公爵家が火事?それで?」
彼女が報告を受けたのはウォルフォード公爵家で火災が起き、公爵と夫人と思われる遺体が見つかった事、家令夫妻と公爵令息が行方不明になっているという内容だった。
ジーンは思わず狼狽えた。
ウォルフォード公爵は王弟だった。臣籍降下し、公爵となったのだ。
そして、その家令と家令補佐はグレンフェル伯爵家の元伯爵と元伯爵夫人である。現在のグレンフェル伯爵はその息子が既に後を継いでいて、現在無事である事が確認されている。
ジーンが狼狽えた理由、それは行方不明になっているグレンフェル元伯爵夫妻はソニアの両親だったからである。
ソニア・グレンフェル伯爵令嬢。
それが『詠う魔術師』ソニアの本名であった。
(ソニアはこの事をもう知っているのかしら。いえそんな事ないはず。彼女は隣国の魔術学校の寄宿舎に入っているはずだから、きっと伯爵がこれから知らせるに違いない)
そう思ったジーンは、グレンフェル伯爵邸へ行く為に急いで支度をする。
グレンフェル伯爵家に事実確認をしたかったのは勿論だが、何かソニアの助けになる事がしたかったのだ。
その時ふと、ジーンはソニアと二人でお揃いにした魔石のペンダントを思い出した。
何となしにそれを首に掛けると、ジーンは魔導具の『スタンブルー』を取り出した。
魔導具『スタンブルー』。
ジーンが自作した魔導具で、要は立ち乗り箒。よく見る魔女の箒にハンドルと足置きが付いた乗り物だ。魔力があれば誰でも乗れる。
ジーンは『スタンブルー』に埋め込まれている魔石に魔力を込めて祈った。
(飛べ!グレンフェル伯爵邸へ)
『スタンブルー』はフワリと宙に浮かぶ。
一応言っておくと、この『スタンブルー』。
試作品である。
「あぁぁぁぁ〜」
次の瞬間、ジーンはもの凄い速さでグレンフェル伯爵邸へ飛んで行く。
(これは立ち乗りと言うより、足がついてないから腕で掴まってる掴まり乗りになるんじゃあ……か、改良の余地ありね……)
半分失神しそうになりながらも振り落とされないように何とか掴まっているジーンであった。
後編投稿後は、しばらく次の章の執筆の為少なくとも二、三週間空く予定です。
よろしくお願いします。




