第9話:契約
.....え?
...お義父さん?
あまりに急で一瞬の出来事で、脳が理解に追いつかない。
その刻一刻と流れる時間の合間にも、血が床を綺麗な鮮紅色に染め上げている。
「ちっ。あいつどこ行きやがったんだ?もう逃げた可能性もあるな...。クソっ、めんどくせぇ。」
盗賊の声が次第に遠のいていく。
しかし、僕はそれどころではなく、ただ呆然としていた。
僕のせいでお義父さんが殺された。
あの悲鳴からするに、お義母さんもきっと...
考えただけで吐き気がする。
僕は、恐る恐るドアを開けて、ヴィタリーの頭を抱えた。
膝から崩れ落ちて、泣き喚いた。
「あなたのせいじゃない。アイツらの狙いは私。私が悪いの。私が召喚されなければこんなことにはならなかった。」
そう言って、獣人が背中をさすってくれるが、無意味に等しい。
僕は、僕のことで頭がいっぱいだった。
頭を置いて、階段を降りる。
リビングには、グラフィアが1目見ただけで致死量と分かる程の血を流して倒れていた。
現実を信じられなくて、信じたくなくて、息が荒くなる。
その時、ある言葉が脳裏をかすめた。
そうだ...
ーー復讐しなきゃ。
じゃあ、どうやって?
僕には、復讐できるほどの力がない...
ならば、借りればいい。力を付ければいい。
ーー神の力を借りればいい
僕は震える声で獣人に話しかけた。
「なぁ...ぼ、僕に、手を貸してくれないか?」
死ぬのが怖くなくなったわけじゃない。
けど、自分の命を守った結果、大切な人を失った。
こんなに後悔してまで、自分の命を惜しんでまで、長生きしたくはない。
こんな人生、望んでなかった。きっと、スライムを召喚する人生だったらこんなことにはならなかっただろう。
だけど、もう変えられない。
ーーなら、抗ってやる。
僕を裏切ったあの神の思い通りになんてならない。
この紋章で生き抜いてやる。
「ほんとにいいの?」
「うん。.....お前の名前はユキ。さぁユキ、僕に力を貸してくれないか。」
獣人に名前を与えた瞬間、ユキの手の甲に神紋が刻まれ、脳に
ーー契約完了
という音が響いた。
「改めて、これからよろしくお願いします。シンハ」
窓の外はもう暗く、月明かりが一段と輝いて見えた。
それから、僕たちは外に出て盗賊達の後を追った。