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5章 遊園地(22)

 大観覧車。人気アトラクションにして釘山遊園地の最奥に位置する、巨大観覧車。小観覧車というのも見てみたいが、それは別にどうだっていい。

 いざ着いてみると、さすがに並ぶ人は多かったが、回転率は割と早い。待つこと十二分くらい。思ったよりは早く乗れた。


「おー、昔は広いと思ってたけど狭いもんだねぇ」

「こら可奈、そういうこと言わないの」

 ……同じことを思ったとは言わないでおこう。


「これが観覧車……揺れないものですわね」

「日本の建築業者が優秀な証拠だな。……よっと」


 少し隙間を空けてセレナの隣に座る。対面には奈々城と真田。うまく二人ずつ別れられた。

 ゴンドラはゆっくりと上昇し、見渡せる範囲が広がっていく。顔を外に向け、景色を見渡す。


「上がるねー……麓の辺りもよく見える……あ、あれ佐倉坂高校じゃない?」

「そうね。あっちが駅で……さすがに私の家は見えないわね」

「あ、入園ゲート前でシオリがこちらに向かって手を振ってますわね」


 え、なにその視力超人。冗談だろ? ……冗談だと断定し、顔を中に戻す。

 窓から下を覗き、3人の女子が姦しく騒ぐ。どうやら高所恐怖症のやつはいないようだ。東を向いたと思えば西側の窓を見て、あの大学がどうだの、前に行ったことがあるだの喋りだす。


 ……楽しいなぁ。こいつらといると、楽しい。

 うん、そうだな。今わかった。もう迷わない、確信を持って言える。


 俺は、こいつらと一緒にいたい。


「なあ。ちょっといいか?」

「? なになに、どしたの?」

 まず真田が反応して、俺に聞いてくる。他の2人も俺に目を向けた。


「そのさ、お前ら。俺も昔はフレンドリーで、屈託なく笑うようなやつだった……って言ったら信じるか?」

「まあ信じ

「え、そうだったんですの?」

 ……る、けれど……」


 隣から本当に驚いた、というような声が聞こえた。……まあいいや、そこは重要じゃない。


「そうだったんだよこれでも。まあ、今は違うが。……ちょっとしたことで友達から友達じゃないって言われてさ。別にそいつが悪かったとか、そういうんじゃないんだが……」

「……」


 俺の言葉を神妙に聞き入る3人。そこまで真面目に聞かれても……とりあえず続ける。


「まあそれ以降も少しはいたさ。このストラップも当時のヤツから貰ったもんだし」


 ケータイを出し、ストラップを手に取る。思い出す、古き良き、懐かしき日々。

 つらく苦しい時でも、支えてくれたやつはいた。隣で遊んでくれたやつはいた。


「けどそいつは引っ越していなくなっちまってな、当時はケータイなんぞ持ってなかったから連絡も取れず……それで、友達が一人も、いなくなって……」


 何故だろう、喉の奥から声を絞り出すのが苦しい。胸がキュウっと締め付けられているような感じがして、とても気持ち悪い。心臓が高鳴る。変に呼吸がしにくい。

 でもこれを言わなきゃ、俺の気が済まない。


「最後の友人だったから、結構ショックでな……そこから、他人なんか信じられなくなって、それで、それ、で……」


「……遠藤君、いいの。もういいのよ」

 奈々城が近づいて、ハンカチで顔を拭かれる。なにすんだと言いたかったがそんな声も出ない。そのハンカチに付いた2つのシミを認識したとき、俺は泣いていたのだと自覚した。


「俺、泣いて……」

「無理しないでくださいませ、遠藤。分かりましたわ。分かりましたから……」


 ぽん、とセレナに背中に手を置かれ、ゆっくりさすられる。いや、ダメだ。それじゃあダメなんだ。過去のことを言うだけじゃあ、今一番伝えたいことを言えてない。

 ゴンドラは頂点に達し、あとは下降するだけだ。その前に全部、言いたい。


「エンドーくん、もういいから、ね? 景色見よう? 夕焼けが綺麗だよ? ほら!」

「……もうちょっとだけ言わせてくれ」


 そう言うと、彼女らが動きを止める。しかし、手は離さない。


「……だからさ、今思うと、俺はお前らに対してひどい対応だったな。口を開けば知るかとか、勝手にしろとか、そんな投げやりな言葉だった」

「まったく、その通りね。そんな遠藤君が嫌いじゃなかったけれど」


 奈々城がそう言って、セレナと真田がクスリと笑う。……ありがとう。


「そう言ってくれて助かる。俺も、そんなお前らが嫌いじゃない。正直言って、一緒にいた時間は楽しかった。教室とは違って、あの部屋でお前らと一緒にいた時間が心地よかった。もちろん、今日の遊園地もだ」


「それなら一緒に来た甲斐がありますわね」

「イェーイ、あたしの言った通り!」


 そういやつまらないなんて言わせないとかなんとか……本当だったな。


「それで、だ。今まで済まなかった。ひどい対応だった。謝らせてほしい」

「いいわよ、それくらい。ね?」

「そんな遠藤だからいいんじゃありませんの」

「もちろんそうじゃないエンドーくんでもいいけれど!」

「ありがとう。これからは図書委員の仲間と、しっかり言わせてほしい。これからは……」


 目に溜まった水滴を拭って、俺は一人ずつ、彼女らの顔を見る。そしてはっきりと口を開く。


「これからは、俺の友達になってほしい!」


「全然オッケー! 問題ないね!」

「こちらこそよろしくお願い致しますわ」

「……やっと、了承してくれたわね」


 それぞれの言葉で頷いたあと、3人とも俺の前に手を持ってきて、その手を重ねる。俺もその上に、絆創膏だらけの右手をそっと乗っけた。


「これからも頑張っていきましょう」

「でも、他のボランティアの勧誘も致しませんとね」

「それもやるけど、皆で頑張れば問題ないね! えい、えい!」


 おー! と4人揃って、腕を突き上げる。こんな風に他人と……いや、友達と触れ合ったのは何年ぶりだろうか。

 ほんと……いつぶりだろう。


「ほら降りるわよ! 遅れないで!」

「あー、待ってー、待ってよぉ!」

「ちょっと、揺らさないでくださいませ! 遠藤はなにボーッとしてるんですの」

「待ってくれ、すぐに行く」


 この数年間、俺はずっと独りだった。

 当然だ、自分から他者を遠ざけていたのだから。

 こいつらは、そんな俺でも受け入れてくれた。忘れかけていた、友達と一緒にいる楽しさってのを思い出させてくれた。


 この数年間が無駄だったとは言わない。その間に得たものもある。しゃべくりながらより黙々と作業してたほうが効率的だということが分かった。案外一人でもなんとかなると学んだ。

 だが友人と過ごした時間はゼロだ。体育祭とか文化祭とか、家で遊んだりとか外に出歩いたりとか、「誰かと一緒に」というのは全く無かった。


 でもこれからは、こいつらとやればいい。楽しいことも、悲しいことも、こいつらと共有していけばいい。どんなに楽しくなるだろう。どんな日常になるだろう。


 俺は明日からの日々に夢を描きつつ、奈々城たちのあとを追い、ゴンドラから降りた。


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