5章 遊園地(17)
「こんなトコで二人きりって、いいご身分だなぁ? あん?」
突如目の前に現れた男がなんか言ってくる。誰かと思えば見覚えがある。こいつは……。
「この前言ったのに何も理解してないわけ?」
「学習能力ねーなぁ、猿かよ」
小田原と取り巻き2人だ。……小田原と言う名前だった、気がする。記憶に自信がない。何故こいつらはここにいるんだ? 一体何のために。
というか猿みたいな顔のやつに猿とは言われたくねえぞ。どうでもいいが。
「ちょっと、何なのよ貴方達」
「俺達はちょっと遠藤に話があるだけだから、ちょっと静かにしていてくれるとありがたいな」
取り巻き共が奈々城に対し、ニヤニヤと笑いながら返す。
「で、遠藤よぉ。なにこんなことしちゃってんの?」
「なにとはなんだ」
「とぼけんなよ、奈々城さんと二人きりの遊園地デートとかチョーシ乗りすぎだろ、お前」
「……は?」
そうか、真田もセレナもいない今、傍からはそう見えんのか。……うわあ、下らねえ。
「そんなんじゃない。大体、何故俺に構うんだ。そんな嫌いなら放っときゃいいだろ」
「立場もわきまえずにチョーシ乗ってるからムカつくんだよ」
だから俺のどこが……って言っても、通じねえんだろうな。はあ。
「それよりさあ、お前みたいなのが奈々城さんと釣り合うとでも思ってんの?」
「いや別に。それがどうした」
俺が普通に返答すると、小田原は顔を真っ赤にして睨んでくる。今さら何を言っているんだ、俺と奈々城を天秤に乗せたら俺が彼方まで吹き飛ぶであろうことは誰でも分かるだろうに。
「黙って聞いてればなんなのよ? さっきから貴方達、何様のつもり?」
「そんな固いこと言わずにさー。そうだ、折角だし俺らと一緒に遊ばね?」
「それいーな! ほら奈々城さん立って立って!」
「ちょ……離しなさい!」
取り巻きのうち、猿顔じゃないほうが奈々城の腕を掴み、無理矢理立たせる。そいつは立たせたあとも手を離さずに、いいじゃんいいじゃんと言いながら馴れ馴れしく迫っていた。
「おい、勝手なことするな」
「あ? だから身の程をわきまえろよ。奈々城さんがお前みたいなのと喜んで一緒にいたわけないだろ? 同情されて付き合ってただけに決まってっから」
「そんなこと……」
ない、と俺は言い切れるか? 無理だ。奈々城の内心なんて分からない。
「だーいじょーぶだって、ウチらといたほうが楽しいって、絶対さぁ」
「そーそー。意地張らなくたっていいからさ~」
「一回奈々城さんと遊んでみたかったんだー!」
「そういう問題じゃ……!」
いつの間にか見知らぬ女子3人が奈々城の周りに集まり、自分らのもとに来るよう説得していた。誰かは知らんが、小田原たちのツレか。男3人で来るはずないしな、こんなトコ。
「私は今、遠藤君と」
「その遠藤もさー、あまり奈々城さんと一緒に居たくないようだしー?」
「そんなことないわよ、そうよね、遠藤く……」
何も言わない俺を見て、奈々城は口をつぐむ。そう、俺は一緒にいたいとは言ってない。いようがいまいが、別にどうでもいいのだ。ああ、俺はそういうやつだ。それが俺だ。これが俺ならば、こういう思考をするのが当たり前じゃないか。
「遠藤君! なんか言ってよ! 遠藤君!」
「黙ってるだけじゃん。そんなのよりウチらと遊ぼうって、ほらぁ」
「……遠藤君……」
奈々城は俺を見つめている。小田原の言葉に詰まったが、逆の可能性もある。もしかしたら奈々城は本当に俺といたいのかもしれない。
しかし、それがどうしたというのだろう。奈々城が俺といたかったとして、だからなんなんだ? それが俺に、一体何の関係がある?
「小田原ー、いつまでもそんな奴に構ってないで行こーぜ」
「ああ、分かった。……ペッ」
唾を俺の足元に吐き、小田原は俺から離れる。性格は悪そうなやつだが、それは俺も同じ。男友達2人と女友達3人を持ってる分、俺より社交性はいいだろう。だったら奈々城も俺なんかより彼らといたほうがいいのだろう。そうに違いない。
彼らに押され、奈々城が俺から遠ざかる。戻ってこようとしてるようだが、女子に抑えられて強く出れないようだ。
『本を読むのは好きかしら?』
それでいい。セレナや真田も彼らが回収してくれれば9人の大グループになる。人は多いほうが楽しい思いができるだろうし、俺は面倒な思いをせずここで帰ることができる。
『遠藤君を迎えに来たのよ。見て分からないかしら』
誰がどう思おうが俺には関係なく、俺は俺で好きに過ごせばいい。思えば何故遊園地なんかに来てたんだろう。優待券だけ渡し、最初から強く断ればよかっただけの話じゃないか。
『やったわ! 私の勝ちね』
色んな事があったが、あっただけ。他に特に意味は無い。
『貴方も結構、似合ってるわよ? 及第点、といったところかしら』
誰も損しない、万々歳だ。さあ、帰ってゲームでも――
『遠藤君。……私と、友達になりましょう?』
――アホか、俺は。




