5章 遊園地(15)
釘山遊園地のお化け屋敷は、名前がシンプルでありながら中身もシンプルである。いたる所に日本の妖怪やオリジナルと思われるバケモノが配置してあって妖しく照らされており、そこを通り抜けるだけ。そんな怖くもないし驚きもしない。
確かにそうだったはずだ。俺の記憶の中では。
しかし、こうゆっくり歩いてみると床板がギィギィ鳴ったり、生ぬるい風が吹いてきたり、地の底からナニカが這い上がってくるような音が流れてきたり、ガキの頃には気付けなかった様々なことに気付いたりするもので、記憶に存在するお化け屋敷屋敷とは違ってどこか新鮮な気持ちになる。
そういえば小学生の俺はこんなゆっくり歩くことなく、真田のようにペタペタ走り回っていたような気がしないでもない。もしかして匠やスタッフが苦心して作り上げたギミックに気付かず、通り過ぎてただけだろうか。だとしたら記憶と違うのも納得がいく。
だからといって怖いかと言われると、全然である。よく出来てるなぁとは思う。シンプルという評価は撤回させて貰おう。
一方、俺をこんなゆっくり歩かせている原因の少女は。
「…………」
なにも言わず、へっぴり腰になりながら恐る恐る歩いていた。俺の腕は未だに離されてない。多少怖がるのは分からないでもないが、やはり過剰反応じゃなかろうか。
というか、歩く度に振動が伝わって感触がだな。ほぼダイレクトに……ああ、柔らかい。
「遠藤君……」
「なっなんだ?」
ぼーっとしてたところに名前を呼ばれ、少し声が上ずってしまった。なにしてんだ、しっかりしろ、俺。
「遠藤君って、意外とがっしりしてるのね」
ぺたぺたと腕や背中を触りながら奈々城が言ってきた。
「まあ、一応自分を守れるくらいには鍛えてるからな」
「へぇ……それにしても、あったかい……」
「……それはよかったな」
俺は良くないがな! ずっとこうしてたらなんか変な衝動に襲われそうで、早く抜けて手を離したいという気持ちが凄く強い。というか、俺の腕に掴まってるだけだとそんなあったかくないだろう。むしろ俺の腕のほうが包まれて熱を帯びている。そういうことじゃなくて気持ちの問題だろうか? よくわからない。
歩いてる途中、通路の横に井戸を発見する。俺はそこでなんとなく立ち止まった。こういうところでは大抵、皿を数える幽霊か、もしくは貞子みたいなのが出てくるものだ。期待してというわけではないが、観察する。奈々城はビクビクしながら、顔だけ向けた。
瞬間。
「恨めしやぁああああああ」
「ぎゃあぁあああああああ!!」
「きゃぁああああああああ!!」
上から降ってきやがった! 井戸の意味どこだ! あるのか! あるな! 目眩ましか!
奈々城と一緒に数歩後ずさる。と、フッと腕から重さが消えるのがわかった。反射的に手を出し、奈々城を支える。ちょっとした衝撃がきたが、思ったより軽いもんだな。
「だ、大丈夫か。立てるか?」
「え、ええ……。なんとか……」
息は荒いが、彼女が問題なく立ち上がったのを見て俺も立つ。
それにしてもビビった。数年ぶりにあんな声出した。多分寿命縮まった。あんな仕掛けあっただろうか? 記憶にはない。子供の頃の俺、周囲に注意を向けなさすぎである。
少し息をついて、胸の鼓動を抑える。横を見ると、奈々城ももう大丈夫そうだ。お化け屋敷に対する恐怖が無くなったわけではないようだが。
「よし、行くか」
奈々城がこっちを見たのと同時に、俺は手を差し出した。
「……いいの?」
「あー……アレだ、アレ」
言いたいことがまとまらず、要領を得ない言葉しか出てこない。アホか、俺。
「腕はさすがにアレだから、その……手、だけな」
ここが妥協点だろう。奈々城も恐怖が紛れ、俺も無駄に気負うことはない。
どうせ嫌って言ってもやってくるのだ。だったらこれでいい。
「それなら遠慮無く……」
奈々城は優しく、そっと掴んだ。俺の手ではなく、腕を。
話聞けよ!




