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5章 遊園地(9)

「そっ、そんなことよりご飯にしよう! ほら、ちょうど太陽が真上だよ!」

 あ、ホントだ。もうそんな時間か。腹も減ったしちょうどいいか。


「そうね。じゃ、あっちに行きましょう」


 そう言って奈々城たちは進んでいく。あっちは確か、入口に近いフードショップがあったっけな。反対側のレストハウスのが近いんだが……誰も気にしてないようだからいいか。

 じきにそのフードショップが見えてくる。すると、


「それじゃあ遠藤君とセレナさんは待ってて頂戴」

「席に着いてたほういいかもねー」

 そう言って、いきなり二人が別の方向に向かって走り始めた。なんだ、どうしたんだ?


「心配いりませんわ。ちょっと用事を済ませに行っただけですから」

 ああ、トイレか。なら気にしない方がいいか。


 先に席を取っておきましょう、というセリフに頷き、一緒にパラソルがついたテーブル周りの椅子に座る。疲れた体に吹き抜ける風は心地よく、ちょうど日陰であるため割りと涼しい。フードショップも近いし、いい位置だな、この席。

 そのまま涼んでいると、セレナが言った。


「さっきはありがとうございました」

「そのストラップならいらねーからやっただけだ」

「いえ、それだけではなく」


 じゃあ何のことだと思いながらセレナを見ると、彼女は俺の顔ではなく、別のところを見ていた。俺の……腕? そういやジェットコースターでは……柔らか……いやなんでもない。


「わたくし、遊園地に来るのは初めてでしたの」

「ああ、さっき真田が聞いてたな」

「いえ、そうではなく……遊園地そのものに、来るのが初めてなのですわ」

「……へえ」


 そいつは本当に珍しいな。小さい頃には誰でも親に連れてってもらえるもんだと思ってたが。


「わたくしの家では遊びなんかより勉強や、習い事を頑張れって言われてまして。中学生になってからは緩くはなりましたが、遊園地には一回も行かなかったですわね」

「ふうん」


 小さい頃にはお金持ちの人は東京のナントカランドとか行き放題なんだろうなーいいなー、と思ってたが、そうでもないらしい。金持ちは金持ちでまた事情が違うんだな。


「ですから、ジェットコースターというのは……コマーシャルとかだと悲鳴を上げてる人しか目に入らないので、怖いイメージしかなくて……。結果、むしろ楽しいものだと分かりましたが、遠藤がいてくれて助かりましたわ」

「いただけだけどな」

「それで十分でしたわ。祈や可奈に、怖いなんて言えないですもの」

「ああ、俺にはなんて思われてもどうでもいいんだろ」

「……それは違いますわ」


 ドン、と机が揺れる。急な振動に驚き、セレナを見ると、真剣な眼差しで俺を見つめていた。前に同じようなことを言ったときとは明らかに態度が違う。……? 変だな。俺なりに理解してたつもりなんだが。


「それは違うって、じゃあどういうわけだ?」

「それは……っ、どうでもよくはないってことですわよ。それだけですわ」


 そう言うなり腕を組み、顔を背けてしまう。何を言いたいのかさっぱり分からない。分かるのは、彼女がそれを真面目に言ってるということくらいだ。

 ということは、セレナの中で俺への評価が変わったのか? 心当たりなんて全くない。

 ないってことは違うんだろう。思い過ごしか。そんなことより飯だ、飯。

 そう思ったところで、向こうから奈々城とセレナが歩いてくるのが見えた。手に何かを持っている。すっきりした帰りだからか、にこにこと笑顔だ。


「祈ー、可奈ー、こっちですわよー」

「お、そっちにいたんだねー。日陰だし涼しそーっ!」

 真田が気付き、二人してこっちに戻ってくる。彼女らが持っていたのは、ハンカチかなんかに包まれているいくつかの箱だった。


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