5章 遊園地(5)
下から見上げると、やっぱデカイなーと思う。隣接している子供用のジェットコースターとは高さが段違いだ。詳しいスペックは知らないが、日本の遊園地の中でも結構大きいジェットコースターだったと記憶している。いや、数年経ったからもうそれほどでもないのかもしれない。別に調べる気も起きないしどうでもいいな。
「二人並んで乗るやつだねー。どのペアで別れようか?」
「ペアねえ、適当でいい気もするけれど」
そうか、二人ずつになる必要があるんだな。2、1、1という配分は……スタッフ側の都合もあるだろうし、無理か。
「そ、それなら! 遠藤がわたくしの隣でいいですわね?」
「? まあ構わんが」
セレナに腕を取られ、了承する。奈々城たちも特にこだわらずに頷いた。
スタッフの誘導を受けながら列に並ぶ。奈々城の目論見通り、そんなに人はいなかった。この調子なら順番が回ってくるまで時間は掛からなそうだ。
「キャアアアアアアアアア!」
上から悲鳴が降ってくる、と同時にグッと腕を引かれた。隣を見ると、セレナは焦点が合ってない目で俯き、片手で俺の腕を抱いている。さっきからなんか変だな……。
「とりあえず腕離せ、こら」
「…………」
黙りこくって返事をしない。それどころかより力を強めてきやがった。話し聞けっての。
まったく、一体どうしたというのか。顔は青いし挙動は変だし、おまけに腕を離さない。考えられることとしては……。
「……怖いのか?」
「そ、そんなことありませんわ」
「じゃあ俺の手を離せ」
「……嫌ですわ」
やっぱり怖いんじゃねえか。それ以外に俺の手を離さない理由に説明がつかん。もっとも、俺ごときで安心できてるわけはないだろうが。
「さっき嫌なアトラクション挙げろって言われただろ。何で言わなかったんだ」
「……」
また黙る。が、視線はチラッと前に動いていた。……ああ、またそれか。奈々城や真田に知られたくなかったんだな。俺なら別にどうでもいい、と。だから俺を隣にしたかったのか。
「そこまで怖いんなら無理するな。あっちのベンチで待ってろ」
「……大丈夫ですわ。大丈夫ですから……あの……」
それまで俯いていたセレナが、顔を上げ、潤んだ瞳で俺を見る。
「もう少し、このままでいさせて、もらえませんか……?」
「……好きにしろ」
「ありがとうございますわ」
本当に俺でいいのか疑問が残るが、奈々城と真田を頼れない以上は仕方ないのか。もっと他に頼れる奴がいればよかったろうに、セレナも残念なやつだ。
それにしても、コイツの腕あったかいな。少し動かしただけでも柔らかさが伝わってくるし、まるで奈々城に手を握られた時みたいな……何考えてんだ、俺は。
無駄な思考が終わると、レッドハリケーンが滑りこんでくるのが見えた。そのままゆっくりと停車し、落下防止バーを外しながら乗客がぞろぞろと降りてくる。楽しかったーとはしゃいでいる者、少しばかり泣いている者、口から魂が抜けている者など反応は様々だった。そんなに怖いアトラクションじゃ無いはずだが……。
スタッフが軽く車両のチェックをし、お待たせしました、次のお客様は……と誘導を始める。その誘導の手は俺達にまで回ってきた。スタッフに手首のフリーパスを見せ、入場する。
真田と、眼鏡をケースに仕舞っていた奈々城が前の方に座り、続いて俺達も――
「ってもう離せよ。時間だ」
無理矢理にでも腕を振りほどくと、小さくあっ……と残念そうな声が聞こえた。我慢しろ、俺だってざんね――いや違う。残念じゃない。やましい気持ちは全くない。
とりあえず先に乗り込み、体勢を整えてシートベルトを着用し、落下防止バーをしっかり音が聞こえるところまで下げる。続いてセレナも恐る恐る乗り込みながら、恐る恐るシートベルトを着用し、恐る恐る落下防止バーを……もっとスピーディーにできないもんかね。
やがて定員数乗り込んだようで、スタッフが見回りを終えると、けたたましいベルの音とともに「レッドハリケーン、発進!」というスタッフの声とともに車両が動き始める。前では真田がはっしぃーん! と叫んでいた。だから小学生かお前は。
隣を見ると、注視しないと分からないくらいに震えているセレナ。地面に平行な部分を通過し、コースターの角度が急になるとより震えが激しくなっているように見えた。
「声を抑える必要はないからな。叫んで恐怖を紛らわすのも売りのアトラクションだ」
「そ、そのくらい分かってますわ」
アドバイスも必要なかったか。……? あれ、俺は何でコイツにアドバイスを? 例えセレナが恐怖で漏らそうとも知ったこっちゃないというのに。
そんなことを考えているうちにもう最高到達点付近であることに気付く。グッと手でバーを押さえ、あの衝撃から身を守るため、体に力を入れ――




