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4章 伊沼義彦(8)

 話を聞くところ。


 どうやらそのライブ会場でタダで貰えるグッズが二種類あるらしく、一人だとどちらかしか選べない。俺にそのもう片方を持ってきて欲しい……という話のようだ。よくもまあほぼ初対面のやつにそういうことを頼む気になったものだ。まあ、ナルシストという時点で恥じらいなんて境界の彼方に置いてきたんだろう。別に伊沼がどういう趣味を持ってようとも俺は俺の仕事をやるだけだしな。

 ちなみに、何故俺以外のやつに頼まないのか聞いたところ。


「友達、いなくてね。ボクの美貌に嫉妬でもしてるのかな?」

 という返事が帰って来た。ポジティブな奴だ。


 そんなわけで、俺はそのデパートの一階を伊沼の後ろについて歩いていた。七階まではエスカレーターで一直線、そこから屋上に行くためには階段を上る必要があるらしい。どうせなら屋上にもエスカレーター付けろよと思う今日このごろである。


「それで彼女らは苦節四年、インディーズアイドルから晴れてメジャーデビューしてね……」

「そうか」

「セカンドシングル発売記念として地元である佐倉坂でイベントを行うことになったんだよ」

「そうなのか」

「この曲もまたよくてねー……インディーズ時代を彷彿とさせるというか……」


 伊沼はさっきからこの調子でそのアイドルとやらを解説しているばかりだ。三人組の女子高生ユニットというところだけ聞いたあとは適当な返答しかしていないのだが、気にしていないのか気付いていないのか、一向にやめる気配がない。さっぱり興味は無いんだがな……。


 そしてエスカレーターを登りきり、次の階段まで移動しようとしたところで。


「あら、遠藤じゃありませんの。奇遇ですわね」

「……!?」


 呼ばれた方を見ると、見覚えのある金髪。買い物でもしてたようだ。まさか学校以外で会うことがあるとは思わなかった。この前セレスティア家の台所にお邪魔したばかりであるが。


「うん? 遠藤氏、知り合……いっ!?」

 振り向いた伊沼がセレナを見て固まる。その仕草でセレナは伊沼に気付く。


「そちらの方は……もしかして伊沼さん?」

「……セレスティアさん相手に隠す意味もないか。どうも、伊沼義彦です。父がお世話になっております」

「セレナ・橘・セレスティアですわ。社交辞令なんていらないですわよ。貴方のお父様と取引しているのはわたくしではなく、わたくしのお父様なのですから。あと呼び方は名前でお願いしますわ」


 人通りの多いデパートの真ん中で恭しい挨拶を交わす二人。どうやら知り合いらしい。内容で関係性は大体察したが……道行く人々から注目されてるぞ。いいのか。


「……セレスティアのお嬢様と知り合いだなんて、遠藤氏もなかなかやるね」

 伊沼に小声で囁かれる。家のデカさから親がそれなりの金持ちであることは窺えたが……。


「そんな有名なのか」

「当然さ、セレスティアグループといえばボクの実家なんか比較にならないほどの……」

「小声でこそこそと、どうしましたの?」

「いえ、なんでも」

 伊沼はビシッと表情を決め、セレナに対応する。隠す会話でも無いと思うが、興味ないしいいか。


「遠藤は伊沼さんと知り合いでしたのね。意外ですわ」

「そんなんじゃないが、屋上に用事がな」

「ちょ、遠藤氏それは」

「屋上? 何がありましたっけ……」

 パンフレットを広げ、目的のものを探し当てたセレナは、嫌なものを見る目で俺を見た。


「……そういうのが趣味でしたの?」

「断ッじて違う」

 俺のじゃねえ、コイツのだ。つーか何だ、その幻滅されたような目線は。俺の性格なんて今更幻滅するもんでもないだろう。慣れてるから構わんが。


「それでは伊沼さんの?」

「あー、うん。まあね、ハハッ。嗜み程度にさ」

 嘘つけ。グッズを集めるために人を駆ることまでする趣味は嗜みとは言わん。


「でも遠藤も行くんですわね?」

「まあ、ちょっとな」

 俺の返答を受け、セレナは頬に手を当て、もう一度パンフレットを見る。


「……へえ、誰でも入れますのね」

 ぼそぼそ呟いたかと思えば、セレナはこう言った。


「それならわたくしも行きますわ。偶にはこういうのもいいでしょう」

「え、セレスティ……じゃなかった、セレナさんが!?」

「あら、何か不都合がありまして?」

「い、いえ! 何も!」

 伊沼は驚いているが、来ようが来まいが、俺の知ったことではない。


「来る分には勝手にしろ」

「それでは行きましょう。れっつごー、ですわ」

 先陣を切って階段に向かうセレナ。その後ろを俺と伊沼は付いていく。


「くっ……! セレナさんめ、来てしまうのか……」

 伊沼は隣で悔しそうな声を漏らす。何がそんな嫌なんだろう、別にどうでもいいだろうに。

 興味を失い欠伸を決める俺の横で、伊沼の呟きは続く。


「来てしまったら……来てしまったら……! 美しい観客ナンバーワンというボクの称号が、脅かされてしまうじゃないか!」

 ねえよそんな称号。気持ち悪い理由だな、おい。

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