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2章 真田可奈(5)


「ごめんなさい遠藤君。私、誰とも付き合う気はないわ」

「奇遇だな、俺も恋愛沙汰には興味ねえんだ」

「やっぱり違うか~。まあ分かってて言ってみたんだけどね~」


 適当に言うな。いや、色々言うのは勝手だが勝手に人を巻き込まないでもらいたい。

 そりゃあ俺のことを奈々城目当てでここにいる男子だと思うのは仕方が無いことかもしれんが、俺の対応を見て有り得ないとは思わないのだろうか。分かってたけど言ってんのか。その神経、俺には理解できん。


「でもさ、恋愛に興味ないって言っても、やっぱりお年頃な高校生じゃん? エンドーくんだってもしも祈みたいな女子から告白されたら、付き合ってみようとか思うよね?」


 真田のその言葉を受けて、俺は考えてみる。もしも奈々城ばりの美貌を持つ女子から、遠藤君好きです付き合って下さいと言われたら。

 逡巡する間もなくお断りだ。くっだらねえ。考えるだけで反吐が出る。


「……どうでもいい」

「へぇ、そんな気すら起こらないんだね、見栄張ってる風でもないし。やっぱり変わってるよ、キミ。もしかして過去に手酷く振られた経験があるとか、そんな感じ?」

「直球すぎよ、可奈。訊くならもう少しオブラートに包みなさいよ」

「俺は構わん。別に知りたきゃ訊くがいい。答えるかどうかは別だ」

「なんか清々しいわね」

「普通の対応だろ。それで、だ。そもそも告白したことなんて無いし、振られたこともない。けどそんな感じだ」

「ふーん……? まあいいや。祈に止められたからこれ以上は訊かないー」

 それがいいだろう。聞いてて面白いものではないし、特に話す気もない。


 真田が俺に興味を失くしたのか、席を立って奈々城の方に向かう。そして横からパソコンを覗き込んだ。

「祈やっぱり絵が上手いねー。何食べたらそんなに上手くなるの?」

「食べ物の問題じゃないわよ……。何て言うか、こう、趣味でちょくちょく描いていたらいつの間にか結構上達していた、って感じかしら」

「ねーねーこのアイコンなにー?」

「それは……って、ちょっと余計なところいじらないでっ」

「いーじゃんいーじゃん。あとでちゃんと戻すからー」

「そう言う問題じゃ、あー、いい加減にしてっ」


 女子二人は視界の端でじゃれ合っている。当然、俺は蚊帳の外だ。

 なんとなく辺りを見回す。と、タイミングよく扉が開いた。

「遠藤、もう一度来てくれないか。奈々城……は、いいや……。一人で足りるか」

 隙間から顔を覗かせ、鈴本先生が俺を呼ぶ。奈々城にも用があったみたいだが絡んでる真田を見つけてどうでもよくなったようだ。関わりたくないのだろうか。分からないでもない。


「分かりました」

 俺は立ち上がり、外に向かう。後ろから「頑張ってね~」と気楽な声が聞こえた。

 仕事しろ、お前も。

 まあこの用件に関しては俺一人で足りるようなので大したことではないのだろう。

 早く終わらせてゆっくり休もう。俺はそう思った。



「それじゃーあたしはそろそろ帰ろうかなっ。暗くなって……はきてないけど飽きたし!」

「そう、じゃあねまた明日」

「祈冷たーい。もっと別れたことによる寂しさの表現とかないのーっ?」

 もう一度休みをもらい、図書準備室に戻るとそんな声が聞こえてきた。


「毎日のように会ってるのに、その都度寂しがってたらキリが無いわよ」

「それもそうだねーっ。頭いい! さすが祈!」

「中途半端に褒められると困るのだけれど」

「褒めてるんだから受け取っておきなよ! 若いうちしか褒められないんだからさ! あれ、エンドーくんいたの? 悪いけどあたし帰るねっ」

「そうか。じゃあな」

「じゃあねー二人とも! また……って、そうだっ」


 真田はいきなり、何かを思いついたように俺を見る。

「エンドーくんさ、ラインやって……なさそうだねなんか。メアドとケー番教えてよー。交換しよー」

 そんな提案をされた。連絡先の交換だと?


「する必要ないだろ。会おうと思えば学校でいつでも会えるんだ」

「でも一応図書委員のお手伝いする気なんでしょ? 連絡事項とかあると思うし、ならやっとくべきだよ」

「それもそうね。私とも交換しましょう」

「祈のメアドは既に持ってるよー?」

「何で可奈が言うの。遠藤君に言ってるのよ」

「だよねー」

 奈々城も会話に混ざり、いつの間にか交換しなければいけない雰囲気になっていた。面倒だが、連絡に必要だというのなら仕方ない。尻ポケットから携帯を取り出す。


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