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大英雄のスキルに目覚めた俺を追放!? 〜無能なのは俺じゃなくて、このスキルなんだが!!〜  作者: 夕暮れタコス
第三章 魔国領連邦

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第34話 弔いの決闘②

 ステージを覆う冷気が、白銀のカーテンとなって世界を遮断する。


 この冷気に乗せているのは、私の魔力だけではない。私を、そして一族を貶めた禁忌のスキルの力を乗せている。あらゆる想いを言語に変換し、意思を疎通させる『バベル』、その力。


「な、なんだこれは!?」


 乗せた想いが目の前の紛い物の内側へと、深く深く染み込んでいく。

 やがて、奴の内側から懐かしい鼓動が呼応した。

 そしてその瞬間、世界が凍りついたように時間が止まった。


 冷気と霜が舞い踊る幻想的な空間。そこには、ただ私と、愛しい妹の魂だけがいる。


「……ごめんね、フェーテル。私のせいで、貴女は」


 氷の結晶が輝く世界で、私は膝をつき謝罪を口にする。身代わりとして処刑台に送られた妹。その運命を代わってあげられなかった私の臆病さと、生き延びたことへの罪悪感が泥のように私を苛んでいた。


 けれど、視線の先に立つ少女の魂は、あの日と変わらない無邪気な笑みを浮かべていた。


『謝らないで、お姉ちゃん。私、最初から許してるよ』


 偽りではない彼女の想いが私の中へと流れ込んでくる。

 地下の暗闇で過ごした日々。彼女にとっての太陽は、私が持って行く本であり、私が教える勉強の時間だった。私が遊びに来る、その刹那の楽しい時間こそが、彼女の人生のすべてだったのだ。


『お姉ちゃんが大好きだから。お姉ちゃんが生きててくれるなら、私、ちっとも苦しくなかったんだよ?』


 純粋すぎるその言葉は、刃となって私の胸を切り刻む。


「そんな……そんなわけがない! 貴女はもっと外の世界を見て、もっといろんな事を知って……!」


 私は顔を覆い、声を殺して泣いた。


『そうできたらいいなって、思ってた。だけどそれが叶わない世界だって、わかってた』


 フェーテルはまるでおねだりをするように、透き通った手を伸ばしてきた。


『だから、お姉ちゃんにお願いがあるの。……私の体を使って悪いことをするあの偽物をやっつけて。そしてもし私が生きていたら、楽しく遊べるような、そんな世界を作って?』


 その言葉が、私の魂に新たな火を灯した。


 ゆっくりと立ち上がり、涙を拭い去る。それと同時に凍てついていた世界が動き始めた。目の前にいたフェーテルの魂は去り、醜い紛い物が立っていた。

 幻のような一瞬、時間に縛られない魂の邂逅。現実感が無く、夢だったようにも思える。だけど確かに私の魂にはフェーテルの言葉が刻み込まれていた。


「……必ず、叶えてあげる」


 影人形が大鎌を振り降ろす。それを躱し、ステージに突き刺さった鎌へと手を触れて、氷を這わせた。瞬く間に本体へと至った氷が影人形を凍てつけにした。


「なっ!! 影の侵食はどうしたのよ!?」


 焦りを顕にする偽物。

 影で作られた鎌に触れた私の手はもちろん、肩の傷を灼いていた痛みも不快感も消え去っている。フェーテルの魂が、影の邪気を抑えてくれている。そんな気配があった。


 私は冷たく視線を向け、【アイシクル・レイン】を放った。


 空気を切り裂く氷の礫。影の侵食による防御を失った偽物は地を這うように逃げ惑う。しかし細かい氷弾はフェーテルの身体を捉えて穿ち、中から泥のような液体を染み出させている。


「クソがァ!」


 紛い物は肉体を捨て去るように霧散し、一際巨大な影の人形となった。

 影は手にした大鎌を大きく一閃させ、氷弾と冷気の帳を力任せに払い除ける。


 穿たれ傷だらけになり、人形のように捨てられたフェーテルの身体へと心の中で謝る。それと同時に彼女の身体をそんな風に扱ったあの偽物への怒りがこみ上げる。


「許さない!!」


「あははは、いい顔ね! ここからが本番よ!」


 影がフェーテルの真似をした耳障りな声で叫ぶ。


「紛い物めっ! もう喋るな!」


「なんでぇ私の事をそんな風に言うのぉ? 私は地獄から蘇った紛れもないデスティニアよぉ?」


 甘ったるく挑発的な声でそう言う偽物。しかし未だに勘違いしている事実を嘲りながら私は声高らかにその正体を明かした。


「いいえ、貴女は禁忌の魔法【亡執の影泥(ネクロマディアン)】によって生み出された魔物、そうでしょ?」


 恐らくネクロードが施した禁忌の魔法。無念を抱えた魂を寄せ集め、泥のような集合体の魔物を生成、そしてそれを死体に流し込む。まさに死者への冒涜。


 私の発言に会場がざわめき立つ。そんな事はお構いなしに紛い物は鎌を振りながらまだ私のフリを続ける。


「いいえ、私は新しい生を手に入れた!! 死に際の絶望こそが、私の力であり生きる糧なのよ!!」


「いいえ、違うわ」


 私は静かに仮面に手をかけ、それを力強く剥ぎ取った。


「貴女の中にあるのは、ネクロードが継ぎ接ぎで作った安っぽい嘘よ。自分を『デスティニア』だと思い込んでいる時点で、貴女の中にフェーテルの記憶も想いも、欠片も残っていない!」


 露わになった私の顔。会場が、一気にざわめき立つ。


「あれは……アンチェインズの娘……!」

「処刑されたのは別人だったてのか?!」「まさか姉妹がいたのか!?」


 様々な憶測の声。だけどそれらは概ね真実を捉えていた。

 だけど闘いを止める声は一つもない。


「う、嘘……。だって私はアンチェインズの娘で、処刑されたデスティニアで……、この記憶は……」

「アナタが操っていたのは私の妹、フェーテルの遺体よ」


「ふ、ふは……フハハハ!! そう、そうなのね! さっきから私の中で抗っている魂、それがフェーテルなのね!! 死者の魂とも言葉を交わせる、それが『バベル』の力ってわけ!?」


 観衆たちは顕になった残酷な姉妹の運命により一層瞳を輝かせている。

 彼らにとって他人の人生も、葛藤も、生き死さえも、ただの極上の娯楽でしかない。


 そんな連中を、私は心底蔑みながら妹に誓う。

 妹の最期の願いは必ず叶える。そのためにはまず――。


「フェーテルと約束したの。アナタを、終わらせる」


「そう……ですかって、大人しくやられるとでもッ!?」


 空気を裂く大鎌の連携。当たれば真っ二つではすまないだろう。だけど記憶の綻びを指摘された動揺か、あるいはフェーテルの抗いのおかげか、いまひとつ精細さを欠いた攻撃だ。見切るのも容易く、むしろ反撃のチャンスとなっていた。


 一際雑で大振りな一振りを躱し、私の猛攻が始まる。

 マァルさん直伝の魔力操作で一見平坦な魔力の出力。だけどその実は無駄なく燃焼させた魔力による最大馬力を発揮。

 それを感知できない相手には、私が急激に加速したように見えるだろう。一足で懐に飛び込み、氷を纏った連撃を打ち込む。


「ぐっ……あぁ……体の自由が……」


 連撃を受けた箇所から凍結が始まり、影は苦しそうに呻き声を上げた。私は残った最後のクナイの一本に、想いを乗せてその核へと狙いを定めて投擲した。


「……【アイシクル・フィナーレ】」


 突き刺さったクナイを起点に、極低温の魔力が奔る。

 それは瞬く間に広がり、巨大な影を内側から食い破るようにして凍りつかせていく。

 断末魔の叫びさえも白銀の結晶の中に封じ込められ、影は巨大な氷の彫刻と化した。


「哀れな魔物よ、どうか安らかに」

 パリン


 美しくも儚い音を立てて、妹を弄んだ呪いは粉々に砕け散った。

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