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9話 い、いやその……弓をっ! 弓を見てました

「おお、メノトじゃねえか! こんなところで会うとはな」


 こんな山の中で遭遇したことに驚きながらも、オレは盟友であるアイスボール男こと、メノト・ケイン・モチダに挨拶をした。


「レージ! お前ハンターになれたんだな。説明会にいなかったからもう辞めちゃったのかと」

「ばか言え。そんなすぐに辞めるかっての。あれは酒に酔いつぶれて寝過ごしたんだ」

「そんなこったろうと思ったよ。レージは覚えてないだろうけど『オレはビッグになるんだ~!』とか言って急に酒場を飛び出してどっか行ったんだから」

「……そんなことしてたのかオレ。……すまん」


 ……そういえばオレ、酒弱いんだった。

 過去の過ちを反省していると、オレたちの様子を見ていたメノトのパーティメンバーであろう人たちが近づいてきた。


「メノトくんの知り合いかしら?」


 話しかけてきたのは恰好からして魔法職らしき女性だ。長い黒髪を後ろで一つにまとめ、こちらを見透かすかのような鋭い目つきでこちらを見ている。

 ……身長も相まってなんだかヒナヨみたいな雰囲気だな。


「初めまして。レージ・オアコベトです。メノトとはハンター免許試験の時に会ったんだ」

「ふうん、じゃああんたも新人なのね。私はメイ・ヨンク。魔法使いよ」

「初めましてレージさん! 私はルコア・ネイカです。サポーターです!」


 サポーターとは攻撃魔法、治癒魔法、補助魔法をバランスよく使う職業のことだ。

 ルコアと元気よく名乗ったサポーターの女性はビシッと右手を頭の横にかざして、丸っとした目でこちらを見ている。

 肩のあたりで切り揃えられ、ふんわり丸みを帯びた青色の髪がさらさらとなびいている。

 ……なんか元気の良い子犬みたいだ。

 そしてメノトパーティのもう一人のメンバーである女性を見てオレはドキッとした。


「あら、緊張しちゃって……うふふ。かわいいわねぇレージちゃん。私はシエネ・センサークよ。シエネお姉さん、って呼んでほしいわ」

「お、お姉さん呼びは、ちょ、ちょっと……シエネさんで」


 オレは声が裏返りそうになるのを何とか抑えながらお姉さん呼びをお断りした。

 ……何という妖艶なお姉さんなのだろうか。

 薄いピンクを帯びた紫の髪の隙間から、とろんとした目でこちらを見ている。目元のほくろがその艶やかさを引き立てている。

 大人の色気を纏った美しさの中にどこか可愛らしさを感じる。

 すらりと伸びたその髪が見るもの全てを引き付けるかのようにウェーブを描いている。

 しかし……何て大きいのだろうか。

 オレは気付かれないようにちらちらとシエネのその完璧な体を見た。すると、その様子を見ていたメノトが口を開いた。


「シエネさんは新人ではなく一般ハンターなんだ。それと、あまりうちのパーティメンバーをそういう目で見ないでくれるか?」


 ……なにっ⁉ ばれていたのか。後ろにいるヒナヨたちの視線が突き刺さるように痛い。というか、実際に二本の杖がオレの後頭部に刺さっている。


「い、いやその……弓をっ! 弓を見てました」


 そう! シエネの背中に携えてある弓を見ていたんだオレは。決して他の所は見ていない。


「あら、いいのよ遠慮しなくて。うふふ」


 シエネはオレの視線を嫌がることなく微笑んでいる。

 ……それにしても聖人ぶったことをぬかしているメノトだが、一晩ともに呑み明かしたオレは知っている。

 メノトはオレと同類だ。今も二つの鼻の穴を膨らませながらシエネのそれを横目で見ていることを隠したつもりなのだろう。

 しかし紳士なオレはそれを言わずにメノトを立てることにした。


「何てゲスい男なのかしら。メノトくんはこんなやつと違って爽やかだし優しいもんねー」


 魔法使いのメイがオレに冷酷な視線を送った後、すぐに可愛らしい笑顔をメノトに向けていた。

 先程までスケベ丸出しだったメノトの表情は、気付かぬ間に爽やかイケメンモードへと変化していた。

 ……こいつっ!

 メノトのパーティメンバーであるメイ、ルコア、シエネの三人を改めて見たオレはメノトの肩をぐいっと引き寄せて小声で耳打ちした。


「お前随分かわいい子たちとパーティ組んでるじゃねえか! イケメンだからか? チクショー」

「レージだって同じようなもんじゃないか」

「うちは事故物件みたいなものなんだよ!」

「聞こえてるっスよー」


 小声で話したつもりだったが少々声が大きかったのかもしれない。遠くでサポーターのルコアが「か、かわいいだなんて……」ともじもじしているのが見えた。

 その仕草にちょっとドキッとしたのも束の間、ミミコの激しい回し蹴りがオレの左足に直撃した。


「誰が事故物件だ」

「ぎゃあああごめんなさいっ!」

 

 凄まじい衝撃を左足に受けたオレはその場に蹲る。通常とは反対方向に左膝の関節が曲がっていた。


「あちらのパーティさんは賑やかで楽しそうですね!」


 その場に倒れたオレを見ていたルコアがシエネに無邪気に話しかけている。

 ……これのどこが楽しそうなんだ。

 いつもならそろそろヒナヨが治癒魔法をかけてくれると思うのだが、今回は何故かかけてくれない。

 ちらりとヒナヨの様子を窺うも「ざまぁないわね」とでも言いたげな顔をしていた。


「ごめんなさい。助けて下さい」


 必死に頼み込んで何とか足を回復することに成功したオレは、この場を何もなかったかのように仕切り直した。


「それでメノトたちは何でこんなとこにいるんだ?」

「これよ、これ」


 メイがヒラヒラと一枚の紙を見せている。そこには『スライムマンの討伐』という文字とともに、人型のスライムのような魔物のイラストが描いてあった。


「スライムマンって人型の二足歩行で動くスライムよね? 結構手ごわい依頼を受けてるのね」 


 ヒナヨの言う通り、スライムマンは普通のスライムとは異なり少し知性を持っているため一筋縄ではいかない魔物だ。そういった面ではビッグスライムの方が倒しやすいのかもしれない。


「シエネさんがいるから多少難度の高い依頼でも大丈夫なのかもな」


 新人ハンターだけとなると厳しいかもしれないが、一般ハンターのシエネがいるなら問題はないのだろう。

 オレはちらっとシエネの方に目線を向けると、それに気づいたのかシエネは艶っぽい笑みを浮かべた。


「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない?」


 シエネと同じパーティのメノトを羨ましく思う反面、オレのノミサイズの心臓ではいくつあっても足りないとも思った。


「皆さんは何の依頼を受けているんですか?」


 ルコアがつぶらな瞳をこちらに向けて質問した。


「ああ、オレたちはナオリソウの採取だ」


 そう言ってオレは依頼の内容が書かれた紙を取り出した。


「あら、あんたたちまだそんなおつかいクエスト受けてるのかしら? 遠足気分でここに来たのかしらね」


 憎たらしい笑みを浮かべながらメイが言った。

 ……何て酷い言い草なんだ。ナオリソウは回復薬の材料になるから大事なんだぞ。

 そう思った瞬間、何かがぷつんっと切れたような音が後ろから聞こえた。


「ちょっと、何なのよその言い方! 採取も十分立派な依頼なんですけど!」


 ヒナヨが興奮しながらずかずかとメイに詰め寄っていく。


「確かに? 立派なあんたにはお似合いな依頼かしらね」

「はぁ? 何が立派なのよこんなの、ふざけんじゃないわよ!」

「立派なものに立派って言って何が悪いわけ?」

「あんたこそ立派なんじゃないの!」


 ……言ってることめちゃくちゃだぞ、お前ら。大丈夫か。


「きゃー怖いわ! メノトくん!」


 メイが大袈裟に悲鳴をあげながらメノトに抱き着いた。

 ……おい、何を二へーっと鼻の下伸ばしてんだこの男は。

 やれやれ、仕方がないな。

 オレはヒナヨがメイみたく抱き着けるように少し手を伸ばして待った。

 しかし、ヒナヨはオレを無視してこの場から離れるようにスタスタと歩いていく。


「ふん! スライムマンくらい私たちで倒せるわ! あんたはそこで大人しくしてなさい」


 先程から興味なさげに座っていたミミコの首元を引っ張り、「はははー」と楽しそうにしていたサリアの腕を引っ張り、ヒナヨはそのままぶつくさ言いながら遠くへ消えた。

 シエネは興味深そうに笑っていて、ルコアは今もなおオロオロしていた。


「あーっとまあなんだ。じゃあそういうことで」


 オレはシーンと静まり返ったこの場を巻き返す方法が分からないので、適当にごまかした。


「お互い頑張ろうな」

「ああ」


 メノトが気遣うように言葉を返し、オレは消えたヒナヨを追いかけるように小走りでこの場を去った。



 オレたちはヒナヨに連れられて、スライムマンを探すべく山の中を歩いていた。


「まったく、何なのよあの子は。ちょっと難しい依頼を受けているからっていい気になっちゃって。ビッグスライムだって倒したんだしスライムマンなんて私たちだけで余裕よ」

「ヒナヨは……」


 ヒナヨは何もしてなかっただろ、と言いかけたが正確にはヒナヨとオレが何もしてなかったのでオレは言うのをやめた。

 

「ごほんっオレたちは別にスライムマンを倒す必要なんてないんだぞ」

「レージは喧嘩を売られたままでいいってわけ?」

「喧嘩売られたって程のことじゃないだろう」

「あたしはヒナヨに賛成だ。あいつらに見せつけてやろうぜ」


 ミミコは頭のフードを深く被り直してやる気を見せている。

 意外と負けず嫌いなところがあるのかもしれない。


「サリアはどうなのよ?」

「んー私はどっちでもいいっスねー」

「じゃあ三対一ね。スライムマンを倒しに行くわよ」

「一人無効票だろうが。計算し直せ」



 ヒナヨの強引な投票によりメノトパーティよりも先にスライムマンを倒すことが決定した。


 オレたちが本格的にスライムマンの捜索を開始してから十数分の時が経った。


「……ふう、ちょっと疲れたわ。どこにいるのよスライムマンなんて」


 ヒナヨが少しむっとした口調でスライムマンにイライラをぶつけている。


「ヒナヨが言い出したんだろうが。本来ならさっさとナオリソウを集めて帰ってるところだぞ」

「うるさいわね、疲れたんだかっ……」


 すると突然、後ろでぼやいていたヒナヨの声がぷつんと途絶えた。



 







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