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虹の瞳を継ぐ娘  作者: 冬野月子
エピローグ

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1

「色々ありましたけれど…あっという間の三年間でしたわね」

「ええ」

卒業式まであと一週間。

放課後の教室でため息をつくフランソワーズに同意するようにイリスは頷いた。


「イリス様はいつから向こうに行かれますの」

「まだ分からないですけれど…フランソワーズ様の結婚式まではこちらにいます」

「まあ、それは良かったですわ」

嬉しそうにフランソワーズは頬を緩めた。

「なかなかお会いできなくなってしまうでしょうから、沢山お茶会いたしましょうね」

「ええ」

「それと、行ってみたいサロン・ド・テがありますの。ショコラという珍しいお菓子があるのですって。それから…」

甘いものが好きなフランソワーズが次々とお菓子の名前を挙げていく。


「…そんなに食べたら半年後の結婚式のドレスが入らなくなるんじゃないのか」

呆れたような声が上から聞こえた。



「アルセーヌ様」

「もう採寸を済ませて仕立て始めているんだろう。ここが合わなくなったらどうするんだ」

「まあ、ひどいですわ」

脇腹を摘んでみせたアルセーヌに、フランソワーズは頬を膨らませた。

「私もイリス様も学ぶ事が多くて大変ですの。息抜きに甘いものを食べるくらい、いいではないですか」

フランソワーズは未来の王妃として、そしてイリスは公爵夫人として。

既に始まっている教育は、卒業と共に更に本格的になっていく予定だった。




昨年の夏季休暇前に起きたヘンリク王太子によるイリス誘拐事件について、関係者———両国の王家及びアランブールの大神殿と、イリスの母方の実家であり、かつてシエル聖王国の神官であったスミアラ家の四者で事後の話し合いが行われた。

結果、王太子が他国の王子の婚約者であり女神ジュノーの巫女であるイリスを誘拐した事は大罪であるが、不問とする代わりにかつてシエル聖王国だった土地をアランブールに譲る事となったのだ。


旧聖王国の土地がサルマント王国からアランブール王国に譲られる事について、公には女神ジュノーの復活により土地を再建する事になったものの、枯れ果て人の住まない今の土地は国として独立させるには難しい事、またユーピテルとジュノーは夫婦神である事から、オーケアノス神を信仰するサルマント王国ではなくアランブール王国が治めるのが良いという事になったとしていた。



そうして旧聖王国はアランブール王国シエル公爵領となり、レナルドがシエル公爵となる事が決まった。

巫女であるイリスはレナルドと結婚後はシエル公爵夫人になる。

シエル領は今、かつての聖王国民を中心に人が戻りつつあり、神殿や公爵邸をはじめとしてさまざまな施設の建築が進められていた。

それらが落ち着くまでイリスはアランブールの王都に留まり、レナルドと共に公爵としての教育を受ける事になったのだ。



「それにイリス様がシエル領に行かれたら滅多に会えなくなりますのよ。今のうちに沢山思い出を作っておかないと…」

「ああ、分かった。分かったから」

最後は涙声になったフランソワーズに、アルセーヌは慌てて言葉を遮るように手を振った。


「いいえ分かっておりませんわ」

「フランソワーズ…私が悪かったから」

ぷいと顔を背けたフランソワーズの顔を、アルセーヌは慌てて覗き込んだ。

「本当に悪いと思うなら、明日のお妃教育のおやつにはアップルパイを用意して下さいませ」

「分かった、伝えておくから」



「…あれは将来、殿下が尻に敷かれますね」

レナルドと共にやりとりを眺めていたオレールがぽつりと呟いた。

「アルセーヌはフランソワーズ嬢に頭が上がらないからな」

元々は政略結婚として婚約を結んだ二人だが、フランソワーズは一途にアルセーヌを想い続け、邪神との事件でアルセーヌが王位継承候補から外されそうになった時も父親のバルビエ侯爵に反発しながらアルセーヌに寄り添い続けたのだ。

フランソワーズの存在がなければアルセーヌは王太子にはなれなかったであろう、とは周囲もアルセーヌ自身も認めている事だった。


「レナルド殿下はいつ結婚式を挙げるのですか?」

「まだ未定だ。領地や神殿の仕事が落ち着いてからがいいだろうし、それに」

ふ、と短くレナルドはため息をついた。

「まだクリストファーに勝てていない」


「その約束はまだ有効なんですか」

少し呆れたようにオレールは言った。

「ここまできて勝てないから結婚できませんでした、という事にもならないでしょう」

レナルドがシエル公爵となるのはアランブール王国だけでなく、サルマント王国とも決めた事項だ。

そして巫女イリスがその妻となる事も。


「気持ちの問題だ。…神官長と上手くやっていくためにもけじめはつけないと」

クリストファーはイリス達と共にシエル領へ行き、女神ジュノーの神殿の神官長になる事が決まっていた。

その能力を高く買っている魔術局、そしてユーピテルの声を聞く事ができる者として大神殿がクリストファーのシエル行きに難色を示したが、イリスを守る事を第一の使命とするクリストファーはそれらの声は気にも留めていなかった。


「しかし…公爵と神官長が結婚をかけて剣で勝負するなんて」

「そうなる前に。明日決着をつける」

鋭い視線で宙を睨みながらレナルドは言った。

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