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いつの間にか神殿の再奥まで来ていた。
荒れ果てたそこは、かつて夢で見たそのままの姿だった。
『はるか古は我ら神の声を聞き、姿を見る人間も多くいた。その頃の力をおぬしらは持っているのであろう』
二人の目の前、瓦礫の塊の上に、人に似た形の光があった。
「女神———」
『よく戻ってきた、巫女よ』
女神の声は光から発せられていた。
『しかしここはユーピテルの気が強すぎる。兄よ、あれが掛けたものを解いてくれ』
「は」
空気が揺れるのを感じた。
何かが解放されていく感覚。
『ああ、この空気を吸うのも久しいの』
目の前に白銀の髪に赤い瞳の、美しい女性が立っていた。
『畏まらずとも良い』
膝をつこうとした二人を制して女神ジュノーは言った。
『そなたらは、我にとって子供のようなものだからな』
裾の長い白い衣が揺れると衣擦れの音がした。
『巫女よ』
イリスの目の前に立つと、ジュノーは手を伸ばしてその頬に触れた。
ひんやりとした、柔らかな感触を感じる。
『よく我を目覚めさせた。ご苦労であった』
「…いいえ私は…何も…」
自分はただ、ヘンリクに攫われてここまで連れてこられただけだ。
女神を目覚めさせるために自ら何かをした訳ではない。
『そなたが我の元まで無事に来られた事が我に取っての喜びだ』
「ジュノー様…」
優しさを帯びた眼差しに、幼い記憶にある母親を思い出してイリスは目頭が熱くなるのを感じた。
刃がぶつかり合う度に火花のように光が飛び散る。
———強いな。
間合いを取りながら、レナルドはヘンリクを睨め付けた。
ヘンリクは魔法だけでなく、剣の腕も相当なものだった。
一応相手は隣国の王太子、致命傷は避けなければと遠慮があったが…このままではこちらが危ない。
相手も同じ考えだったのか、ヘンリクの目つきが変わった。
その左手が強い光を帯びる。
「これで終わらせる」
斬りかかると同時に青い光をレナルドに向けて放った。
次の瞬間レナルドの身体が金色の光に覆われると青い光を弾き返した。
「…っ防御魔法…違う?!」
金色の光はいくつもの玉となってヘンリクに襲いかかった。
ヘンリクは剣で光の玉を斬りつけた。
斬られた光の玉は金色に光る無数の糸へと変化する。
光の糸はまるで網のように広がるとヘンリクを覆い込んだ。
「くっ」
腕や脚へと絡みついていく光の糸がヘンリクを拘束する。
動きを封じられ、倒れ込んだヘンリクの上にレナルドは馬乗りになった。
「動くな」
その首元へ剣を突きつける。
「魔法も封じた。お前の負けだ」




