02
終業式が終わり、教室に戻って学期試験の結果を受け取ればあとは帰るだけだ。
だが長期休暇を前に友人達との別れを惜しむように、教室内は何人もの生徒達が残っていた。
「今日はこれから王宮で用事があるんだ…」
はあ、とレナルドはため息をついた。
「せっかく早く帰れるのにイリスと過ごせないなんて…」
「散々一緒にいるのにまだ足りないのか。それに休暇中だって領地に付いて来るのだろう」
少し呆れたような顔でアルセーヌが言った。
「行くけど、今年は少ししか過ごせないし…」
大人に近づくにつれて、レナルド達王子が担う仕事も増えてくる。
この夏は長期間王宮から離れられないのがレナルドは不満だった。
「殿下、今年は私にイリス様を貸して下さいませ」
フランソワーズが言った。
「そうだ、フランソワーズもこれから忙しくなるし。この夏は二人で過ごさせてやってくれ」
「———今年だけだからな」
はあ、とレナルドは長いため息をついた。
「姫」
背後から声を掛けられ、イリスは振り返った。
「ヘンリク殿下…」
立ち上がるとスカートの裾を摘んで礼を取る。
「今日で終わりですね」
「ああ、名残惜しいが…良かったら私の国へ招待したいのだが」
「お断りします」
イリスが返事をするより先にレナルドが答えた。
「国へ帰られたらイリスの事は忘れるのがよろしいかと」
「運命の姫を忘れられる訳ないであろう」
ふっと笑みを浮かべると、ヘリクスは封筒を取り出しイリスに手渡した。
「花束は持ってこれないので家に送らせた」
「…いつもありがとうございます」
今日で最後だからと、イリスは大人しく礼を言って封筒を受け取った。
「最後に姫と二人きりで話をさせてもらっても?」
「許す訳ないではないですか」
見えない火花を散らしながらヘンリクとレナルドが睨み合うのも今日で終わりかと思えば少し寂しいかも、と思いながらイリスはその様子を眺めていた。
一人帰りの馬車に乗り込むと、イリスは手元の封筒に視線を落とした。
ヘンリクから送られるカードも貝殻も、美しいものだから嬉しいけれど…求婚は重すぎる。
「やっと平和になるのかしら」
あの様子では諦めてはいないようだけれど、直接会う機会はほとんどなくなるだろう。
手紙くらいなら我慢できるだろうか…
そう思いながら、封筒を開く。
いつもよりも強い、はっきりとした潮の香りが鼻をくすぐった。
「あれ…?」
封筒の中にはいつもあるカードがなかった。
あったのは青い貝殻のみ。
「入れ忘れ…?」
呟くとくらりと目眩がした。
———何かおかしい。
そう気づいた時、イリスは急速に意識が遠のいていった。




