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プロローグ

 僕は18歳スヴェア王国王位継承権1位。

 つまり王子だ。


 弟が二人いるから、一応王位継承争いはあるのだが、滅多なことでは1位である僕が負けることはない。

 当たり前だか王族である僕は、城内で暮らし生まれてこの方不自由とは無縁であった。

 その上才能もある。

 勉学はもちろん、魔法の才能は我ながら凄まじいものだと自負しいる。



 この世界には魔法が存在していて、様々なものが存在している。

 5歳で基本元素魔法を習得し10歳には陰と陽、今では固有魔法まで会得してしまったのである。

 城を壊したことは数えきれないほどだ。

 これは自分でも天才と言わざるを得ない。



 ただし欠点はある。

 容姿端麗とはかけ離れたデブ体型であり、顔も決してカッコ良いとは言い難い。

 見た目だけならば魔法で何とかならなくもないが、あくまでも一時的なものだ。



 容姿端麗である父母から生まれた子とは思えないような姿。

 お坊っちゃまであるが故の怠慢からくる肥満。

 自覚はある。



 そして何より、性格がクソ悪いのである。



 思いやりや優しさとはかけ離れた爺ちゃん婆ちゃん泣かせのものであり、王子という立場からか常に傍若無人な振る舞いや言動。



 城の人間やメイド、ましてや国王である父にさえ暴言を吐くくらいだ。



 お前のものは俺のもの。俺のものは俺のもの精神である。



 昔は優しくて心根の優しい純粋な子どもだったが、

 幼い頃に母を失い、心に傷を負った過去と向き合えずに王族とはいえあるまじき性格になってしまったのだ。

 自覚はある。



 優しくしたい気持ちはあるのだが、心のどこかでブレーキをかけてしまい代わりに暴言を吐いてしまう。

 母が生きていたらと何度想像したことだろうか……。



 そうは言ってもいないものは仕方がない。



「さ、今日も一日頑張りますかー。……と言ってもやることないんだけどね」


 そう呟くとドアがノックされる。


「フィン様、朝食の準備ができております。広間へお越し下さい」


 聞き慣れない声がフィンの部屋に響く。

 誰だ……?あぁ、そういえばこの前のメイドは7日で辞めたと言っていたか……。

 全く最近のメイドは根性がないんだよね。

 にしてもこの僕に広間に来い、か……。

 ったくメイドならここまで運んでこいよな……。


 一般民であれば感じることのない不満を抱きメイドを自室へ呼んだ。

 ちなみに不満を持つ理由が自身の体が重たく、動くのが面倒くさいというのは秘密だ。



「おいお前、入れ」

 そう言うと返事をして栗色の髪をふんわりなびかせ入ってきた。

 長さは肩につかないくらいだろうか。

 年は15.6くらいに見える。

 いや、耳が尖っているからハーフエルフか。だとしたら見た目通りの年齢ではないだろうな。



「失礼致します、フィン様!」

「お前名前はなんだ?」

「はい!お初にお目にかかります!フィリアと申します!」



 元気にそう述べると大きめの目をパチリと瞬きをする。


 ふむなるほど、今までとはちょっと違うタイプだな。

 これまではメイドらしいメイドが多く、礼儀をわきまえしっかり者が多かった。

 しかしフィリアを名乗るメイドは元気いっぱい、天真爛漫という言葉が相応しい。


 だがしかし先ほど抱いた不満が散るわけではない。



「フィリアだな。分かった。……お前! この僕に広間まで来いだと! ふざけるな! メイドの分際でこの僕に命令をするというのか! 僕はいつもこの部屋で食べているんだ! 分かったらさっさと運んでこい!」



「は、はいっ! も、申し訳ございません! すぐにお持ちいたしますっ!」



 怒鳴りつけられたフィリアは顔を真っ青にし謝罪を述べると部屋を後にした。


 全く、それくらいの配慮が出来なくてメイドなんて笑わせる。

 ……まああそこまで怒鳴りつける必要はなかったのだけれどな。


 フィリアが朝食を持ってくるまで少し時間があるか……。

 さて、どうしたものか。

 いつもであれば朝食後に大気中の魔素との親和性を高める為に体内に取り入れ循環させることを日課にしているが。

 ……先にやるか。


 おもむろに床に座り出し、背筋をピンと伸ばしながらも全身を脱力させている。



 すると、左右の手を包み込むように発光し始める。

 その光は腕までも包み程なくして、全身をも包み込みんでいく。



 魔法を行使する為のマナは自らの体内で常に生成されるが、魔素は生成されることはない。

 魔素とは大気中に含まれる火・水・土・風・光・闇の粒子のことだ。

 どんな天才であれ、空気中に漂っているだけ状態では視認することはできないだろう。



 フィンがその状態を維持しているとノックの音が聞こえてきた。



 ん?まだ魔素循環を始めたばかりだ。流石にフィリアが朝食を運んでくるには早いか?

 そう思ったものの一応確認をするとしよう。



「誰だ?」



 声を扉の向こうへ投げかけたが返事がないようだ。

 気のせいか?いやそんなはずはない。確かにノックは聞こえた。

 だんだんイライラが募りだし再び呼びかける。



「おい! 誰だ! 返事をしろ!」



 しかし無反応。



「……ッ!!」



 イライラと相手が誰なのかが気になり、循環させていた魔素を体から霧散させながら重たい腰を上げ扉に向かう。

 くそっ……!!僕に返事をしないなんてどいつだ!新しい魔法の実験台にしてやるっ!



 そう決意しながらのそのそとドアノブを回し扉を開けた。


 その瞬間。鋭い痛みが左腕に走りとっさしドアノブを放し後ろへよろけた。


「……え?」


 今ドアノブから放したと思っていた左手だけがそのままドアノブを掴んでいる。



「左手がっ……!?」



 扉を開けた瞬間、腕を切断されたのだ。

 冷静かつ早期であれば切断された腕だろうが治癒魔法で治せるのだが、初めて感じる激痛に頭が真っ白になっていた。


 何せ実践というものは今までほとんどやってこなかったのだ。

 どんなに魔法が使えても経験がなければ意味がない。



(痛い痛い痛い痛い痛い!!!!に、逃げないとっ!!ま

窓からなら!!)



 燃えるような腕の痛みに涙が溢れながらも、とっさにそう判断し窓の外へ逃げようとする。


 しかしその瞬間、喉元を切り裂かれる。これでは詠唱もできない。

 フィンの部屋は城のかなり上の方に位置しているので窓から落ちても死あるのみ。

 逃げ場を失いどうしよもない焦燥感に駆られる。



 そして、左腕を失い喉を裂かれたフィンは正面に相対する人物を視認した。



「どう……う…とだ……」



 目の前には先ほど部屋に来たメイド——フィリアが血の滴るナイフを手にして立っている。



 声にならない!

 くそっくそっ!!



「あ〜らフィン様ぁ〜。苦しそうですねぇ〜。なぜこんなことになっているのか分からないってお顔をしてますねぇ」

「…き…ぁ……ま……」

「どうせ死ぬんですもの。教えて差し上げましょう。フィン様は皆から嫌われているんですよねぇ〜」

「……っ」

「メイド含め城に仕えるもの者、国民、そして弟達からねぇ〜」

「……っ!」



 腕の首の出血がひどく、頭にモヤがかかったように意識が朦朧としてくる。

フィンはすでに思考停止状態に近づいてきていた。




「私は第2王子の遣いできましたの。貴方みたいな嫌われ者でも継承権1位だと王様に慣れちゃうみたいですからね。つまんないお仕事でしたけどねぇ。さ、もういいでしょう?そろそろ死んでくださいね」



 そういうと未だ血の滴るナイフを握り直し、腕を振るう。


 左胸にとんっ、とナイフが突き刺さる。



「ぁ……」



 切れ味が良いからなのか、思ったよりさっくり刺さるんだなぁという感想を抱きつつ視界がぼやける。



「貴方、才能はあるんですってね。もし来世があるのなら、もっと人に優しくなってみてはいかがかしら。きっと人生楽しめますわ。」



 殺人メイドの言葉をかろうじて頭に残し、ウルは思った。



(分かってた……。今まで僕は何にもしてこなかった……来世は……来世があるのなら……冒険して経験も積んで、もっと優しく生きたいなぁーー)




 深い深い闇の底に意識を沈め、フィン——フィンネル・リンディベルの人生は終わりを告げる。











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