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未来はどこにある  作者: しぐ
超未来で決着
40/43

4-5

 朝、ベルは半球形のカプセルの中で睡眠から目覚める。

 まどろみの中、耳に集中すると連絡が入っていることを知らせる警報機の音が聞こえる。

 ベルはその身を起こし連絡を確認する。


 演習場の手前、装備が置いてあるいわば更衣室である。

 そこにベルは到着する。

「皆、連絡は行き届いているな」

 小隊の面々は既に集まり、準備を整えていた。

 ベルが最後だったようで円筒形の個別装着機に乗り込む。


 すぐに装着が済んで改めて隊員たちと顔をあわせる。

「どこまで聞いている」

「正面入口からの箱庭襲撃だろ」

 フロイドが把握済みだといった調子でいう。

「先遣隊が左右側面からいく。そのあと私たちの番だ」

「タイミングは先生が教えてくれるんだろ。信じてるさ」

 彼からのベルへの信頼は厚い。


 一方でアガサが気がかりである。

「アガサ、お前はどう思う」

 非常に曖昧な聞き方ではあるがやる気を尋ねておくのもひとつだろうと思う。

「自分はいままでやってきたことを発揮するだけです」

 アガサはもとからこうなのだ。

 積み重ねてきたものを重んじる。そして信じる。

 そこへエミリアが声を上げる。

「私はこの時を待っていたんでやりたいほうだいやらせてもらいます」

「ああ、エミリアはそうだろう。無茶はするなよ」


 隊員との意識確認もそこそこにサイラスから呼び出しがかかる。

「こちらの船で接近してもらうが問題ないな」

 サイラスは小型船を指さし言う。

「ああ、全員が乗れれば問題はない」

 ベルは返答する。

「俺たちが乗るのにこんなに小さくていいのかよ」

 セオドアが不満をもらす。

 彼の選民意識のようなものにはベルも気がついていた。

「セオドア、静かにしろ」

 こうも派手に表現されては見過ごすこともできずにベルが強めにたしなめる。

 本人は悪びれる様子もなく「はいはい」と応答する。


「サイラス、また会おう」

 ベルがそう言って敬礼するのを見て隊員たちも同じようにする。

 セオドアもこれにはきちんと対応していたのでベルはさきほどの不用意な発言も不問とすることにした。

「ああ、行って来い」

 サイラスはそう言ってベルたちを送り出す。


 箱庭の入り口が遠くに見える。灰色の岩肌だがその形はいきものの頭のようにも見える。

 地上の輝かしい街並みとは対照的に薄暗い。照明がいくつかが視界に入るが、それも虎視眈々と得物を狙う獣の目のように見えた。

「あれが管理の入り口……。中はどうなっているのでしょうか」

 不安混じりにアガサが言う。

「そりゃ管理のやつらがいるんだろうさ」

 フロイドが適当に応える。当然その言葉はアガサの不安を払拭してくれない。

 ベルは船を自動操縦にまかせて耳に集中する。突撃の合図を待っているのだ。


 その時は永遠にも感じられた。

 隊員たちは各々話し合っているがベルはそれに加わらない。

 判断のそのときまで集中していなければならないのだ。


 それを見て、ベルを慕うフロイドも黙っている風なのだが、フロイドが黙っているのは普段どおりのことなので誰もそれを気にはしない。


 訪れる警告音。おかしい、通信が入るはずである。

 ベルはすぐに理解する。

 操縦を手動操作に切り替えながら隊員に指示を飛ばす。

「すぐに出られるように準備をしろ! 着いたら飛び降りろ」

 探知機には敵影が3つ後方から近づいていた。


 管理につくまで逃げ切れればよいのだが相手もそう簡単に通してはくれないだろう。

「セオドア、後ろを頼む」

 船に積んだ砲を任せ、迎撃を頼む。

 遠隔攻撃はセオドアの得意とするところである。

「だから俺は小さいのはだめだって言ったんだ」

「ああ、お前が正しかったかもな」

 どうでもいいことに応えながら速度を上げる。

「どうだ、この速度でも狙えるか」

「俺を誰だと思ってるんだ!」

 その言葉は結果で示される。

 探知機から敵影が一つ消えた。迎撃成功と見て良いだろう。


「先生、適当に褒めとけばいいですよ」

 エミリアが耳元でささやく。

 それを受けて手振りで了解の意を伝える。

「よくやったセオドア。もう着くからお前も準備しろ。エミリアもだ」

 操縦席にいるベルのところまで来ていたエミリアは後方の昇降口にもどっていく。

 セオドアも上部の銃座から降りて昇降帯をつかむ。

 フロイドの声がインカムを伝わってベルの耳に聞こえる。

『先生も早くこいよ』

 しかしすでにベルは昇降口の蓋にくっついていた。

 そしてインカムに怒鳴りつける。

「作戦開始だ!」


 昇降口が開かれる。

 先ほどよりも高い警告音が鳴る。これは手動操作のまま操縦席を離れたからだ。

 これからこの船は運転手を失って暴れるだろうが知ったことではない。

 昇降帯を握った隊員たちは船を飛び出すと同時に振り回される。

 その隊長、ベルはバックパックのみを背負って宙を舞う。


 重力は入り口へ向かっている。まるで生物の呼吸に巻き込まれるようにその体内へ彼らを誘う。

『これ大丈夫なんですか!?』

 悲痛なアガサの声である。珍しく大きく声を上げるものだからベルは言う。

「アガサか? その調子で戦闘中も通信してくれ」

 自由落下の浮遊感が心地よい。


 照明がいくつか見えるが役に立っているようにはみえない。

 ずっと底の見えない穴に落ちている感覚だ。

 上を見れば味方の研究者が悲鳴を上げている。

 ベルはあまりに騒がしいので通信をつなぐ。

「あんた気をしっかりもて。これから敵陣だぞ」

『こんな状況で落ち着いてられるわけないでしょう!」

 女の声が返ってくる。


「背中のものは飾りか? 減速なり壁に張り付くなりして落ち着いたらどうだ」

 バックパックを持っていればその程度、初心者でもできる。

『そんなことしたらみんなとはぐれちゃうじゃない』

 ベルが声をかけたことによって少しは考えられるようになったらしい。

 相手はそれらしい応答をする。


 船の発着地になっているのだろう。大型船が大量にとまる、開けた場所にでる。

「全員、一番大きな扉に集合しろ」

 小隊全体に向けて言う。

 ベルは真っ先にたどりつく。

 岬のように出っ張った足場の根本にはベルの身長の10倍はある大きな扉がある。

 多少混乱状態であってもこれを見逃すことはないだろうと目印に選んだ。


 そう間を空けずにすぐに集まってくる。

 小隊の面々以外には味方がいないため違和感がする。

 落下時にあわてていたのは誰だったのだろうか。

 相手の位置からたどり、顔をよく見れば知った顔であった。

「エミリアだったのか。珍しく取り乱したな、緊張してたのか?」

「まあそんなところです……」

 一番やる気だったエミリアが元気を真っ先になくすとはベルも思っていなかった。

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