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未来はどこにある  作者: しぐ
超未来で決着
39/43

4-4

 訓練が終わった後小隊で飲みに行くことになった。エミリアの提案である。

 ベルとしては酒飲みという文化に対して明るくないため丁寧にお断りしようと思っていた。


 しかしせっかくの誘いを無碍にすることは長年の付き合いから簡単には断りきれなかった。

 もちろん意識としては彼らと会って2日目ではあるのだがベルの記憶には彼らとの思い出が詰まっていた。

 知識規制がかかるのも面倒ではあるが、補正が掛かり過ぎるというのも厄介だとはじめて思った。

 とはいえ、行き先はベルの知識にある場所である。その料理内容についても情報を持っている。


 そうなればベルの行動は早い。

「私もいく」

 隊長らしく聞こえるように低めに格好よく言ったつもりだった。

 しかし上機嫌が隠しきれていなかったようですぐさま看破される。

「先生行きたいならもっと元気よくいきましょうよ」

 エミリアがベルに言う。

 ベルは急に気恥ずかしくなって「お、おう」と無愛想に応えてしまう。

「先生がいくなら俺もいこう」

 フロイドが珍しく乗るきである。

 いつもベル以外にはぶっきらぼうに接している彼がエミリアの提案にここまで興味を示したのだ。

 あとはなし崩し的に全員参加ということになった。


 箱庭に着いた面々は件の飲食店へ向かう。どうやら彼らにとってはいつもの場所のようだった。

「あれ、この道知ってるんですか?」

 エミリアは先頭を歩くが、それを追い越さん勢いで歩くベルに言う。

「ああ、一人で来たことがあるんだ」

 この世界でも美食家だったベルの記憶である。

「ひ、ひとり……」

 何を言いたいのかわかるようでわからないということにして、ベルは遠くを見て歩く。


 雰囲気を売りにするその店内は障子、座敷に座布団といったようにどこかで見覚えのある様式だった。

 金属質な街並みばかりで目が痛かったところである。

 目にやさしいその照明や木造建築を模したその壁や天井はベルを癒してくれた。

 席につくなりエミリアは幹事らしく初めの一杯を入力する。

 雰囲気に合わせて女将が給仕してくれることを期待したがそうもいかなかった。

 目の前に連続性を無視したように器に入った液体が現れる。まるで瞬間移動の手品を逆再生したようだった。


 ベルはその液体に釘付けだったがすぐにエミリアの指示が飛んでくる。

「先生、音頭をお願いします」

 それが作法らしい。しかしベルには知識としてそれを知っていても経験はない。この世界でもだ。

 うまくできるか心配だがやるしか食事にはありつけない。

 ベルは勇気を振り絞って言う。

「……かんぱい」

 ベルが言い切るとすぐに皆和気あいあいとした雰囲気になる。

 これで良かったようだ。ベルは安心して酒をやる。


 見れば各々好き勝手やっているものである。

 ベルはひたすらに色とりどりの料理たちを突き回す。

 こういった席では最後の一口分だけは遠慮して誰も取らずに余ってしまうままある。しかしベルにそれは通じない。

 ベルの豪快な食べっぷりに一同は驚きを隠せない。

 頼れる隊長がまさか満腹系女子だったとは思わなかったからだ。

 その顔には満面の笑み。誰もそれを止める気など起こらなかった。


「俺も付き合うぜ先生」

 フロイドも負けじと手と顎を動かすが最初から食へのやる気が違うため追いつかない。

 次第にフロイドも訓練の疲れが回ってきて眠り込んでしまう。

 一番体力の消耗が激しいのはいつもフロイドだ。

 その体格や豪胆さから当然のように働きを求められる。しかしそれは本人が望んだことではない。そうでなければ彼は他に劣るからやっているのだ。

 日々の負担は少なくない。それでも自らが認めたベルのもとにいるために文句のひとつも言わずについてきている。


 セオドアはと言えばエミリアに身の程知らずな展望を語る。

「俺は絶対にこの組織でのしあがってやるんだよ。エミリアもこの気持わかるだろ」

「さて、どうだか。私はあんたのこと伸びないタイプだと思っているから」

 辛口な意見にセオドアは強く反発する。

「何言ってるんだ今日の制圧戦だって俺の援護あってこそ戦線が維持できたんだって」

「またそんなこと言ってる。先生の援護がなかったらあのときそのまま落ちてたでしょ」

 それは本人のセオドアが一番よくわかっている。集中を切らせたあの一瞬、浮遊感を感じた。


 痛いところだったために過剰に反応してしまう。

「だったらお前こそ襲われそうだったの先生に助けてもらっていただろ!」

「あれはそのままもらっちゃったとしてもそれが私の役割なの。あんたは自分で立候補した役割をこなせないどころかいらない手間までかけさせてるんでしょ」

「攻撃もらう役割ってどんな役割だよ。もっと自分を大切にしろよ」

 図らずも良い言葉のようになってしまった。


 しかしそんな軽い言葉ではエミリアは自分を譲らない。

「私たちには任務があるの。そのためなら命をかけなければならない。あんたにその自覚があるの?」

「あるさ。あるからあんな目立つ役割を担ったんだろ。言っておくが俺の方がお前よりもリスクが高い役割だったんだからな」

「だからそれはあんたが立候補したんでしょ」

 二人は堂々巡りを続ける。


 かぶにたけのこ、箱庭の流行りである蝶や蜂の格好と相まって春を思わせる。

 よく食べたものである。ベルは腹をさすりながら満悦である。

 そうしているとアガサが這いよる。

「もうしわけありませんでした」

「……なんのことだ」

 ベルは美食たちによって緩んだ頬に力を入れて隊長らしく振舞う。

「制圧戦のときに混乱させるようなことを言ってしまいました。隊長である先生の指示を信じなければならないのに」

 アガサは自らの反省をしにベルのところまできたのだった。


 ベルは気にしないでもいいとは思った。しかしそれでは本人も納得しないだろうとベルはすこし踏み込む。

「配置を変えた後の指示は信じることができたか?」

 ベルが重要視するのはアガサが指示に反対したことではない。

「率直に申し上げて、その場しのぎと感じました‥‥」

 それは間違いない。ベルはその場しのぎでアガサの配置を変えたのだ。

「つまり間違っている可能性を感じたんだな」

「はい」

「だったらそれは言わなければならないな」

 問題意識の共有はともに戦う仲間として必要である。ベルは持論に則って助言した。

「ですが、結果としてその采配は正解だったと思います」

「結果が成功だったからか?」

「はい」

 ベルは腕組みをして考えこむ。


 素早い配置変えの指示によって不安感を覚えてしまった。しかしその根底には深い理由があったのかもしれない。それでもその不安を口に出すべきか。

 そういう命題である。

「うーん……」

 悩ましい。ベルが唸る。


 それを聞いてセオドアが口をはさむ。

「俺は今回アガサの判断が正しかったと思うね。もし大失敗に終わっていたら間違ってたってことで」

 セオドアはエミリアとの議論から逃れたくて口を挟んだようだ。となりのエミリアが不満で口をとがらせる。

「しかしそれは結果ありきじゃないか。発言する段階で結果はわからないのだから、普遍的な判断足り得ない」

 問題意識の共有という持論を崩そうとしているのだから、より柔軟に対応できるための修正を加えたいのだとベルは言う。


「ところがアガサの場合に限ってはそれが普遍性をもちうるんだな。アガサはバックパックで思考が読めるから」

「それは初めて聞くが本当か、アガサ」

 バックパックは基本的に万能である。効果範囲に限定はあるが理論上、想像次第で時間跳躍から物質創造まで何でもできる。

 だが欠点として効果と想像が一致しないのだ。使用者によっても言葉だったり音だったりする。

 また複雑な効果を発揮しようとするほどに想像しなければならないイメージも難しいものになる。

 その点で言ってこの小隊のバックパックの使用練度は奇跡的なほど高かった。


 思考を読み取るとなれば相当に難しいはずだ。それを例えて言うならば16桁の暗証番号をなんの手がかりもなしに当てようとするようなものである。

「本当です。知っている相手限定ですが」

 知っている相手ということはベルも含まれるはず。

「では作戦を指示したときにはそれをしなかったのか?」

「したのは配置が変わってからです」

 ということはベルが寸前まで迷っていたことまで読まれていたのだろう。だからアガサは先ほどの『その場しのぎ』も知っていて言ったのだ。

 ベルは頭痛を感じて手をあてる。


 アガサはベルが問題意識の共有を重要視していることも知っていて、まず不満を口にした。

 その後の配置変えにも不安を感じたが何度も変えさせるわけにもいかないので、万全を喫して思考を読む。

 読んだ結果、大きいとは言えないものの成功の公算はあるらしい。

「だからアガサは始めに謝罪から入ったわけか」

 ベルは最終的な結論にいたる。

 始めからアガサの方が上手だったのだ。


「なぜ誰もアガサが思考が読めるようになったことを教えてくれないんだ」

 知っていればこじれなかったものをとベルは言う。

「先生なら知っていると思ったんだがな」

 セオドアは飄々と言う。

 それを聞いてベルは「そ、そうか……」と落胆するだけであった。

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