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消える煙  作者: ゆずさくら


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材木座海岸

 あてもなく鎌倉を歩いていると、海岸に出ていた。

 そのまま砂浜へ出て、海を見つめた。

 広い。

 人間の作った建物が、幾つ入るだろう。

 ぼんやりとそんなことを考えた。

 波。

 繰り返しやってきては、引いていく。

 SNSに書いたものを見て、霊が動いているのだとしたら……

 しかし、こんなことをしていいだろうか。

 秋の爽やかな砂浜で、俺は一人、じっと座ったままダラダラと汗をかき始めた。

 けれど、やるしかない。

 俺はスマホを取り出して、書き込んだ。



 翌日、俺は普通に出社した。

 課長は右手を吊っていて、ペン回しは出来なかった。

 妙に気合の入った営業員がいて、叩くキーボードの音がやたら大きかった。

 俺はスマホを操作する。

『うるせ〜 気合入れてキーボード叩いたって、デジタルなんだからそんなの伝わらない』

 リプがつくが、俺は怖くなかった。

 例の『パチパチ』する音も、もう聞こえてこない。

 良かった。

 昨日の作戦は正しかった。

 俺は賭けに勝ち、救われたのだ。




 昨日。

 浜辺で俺は考えた。

 もし、俺が『波の音』にイライラするSNS書き込みをしたら……

 霊は海を消そうとするだろうか。

 波だけを消すことを考えるだろうか。

 もし本当に波が消えたら?

 波の音が聞こえないように、俺の耳を、あるいは俺を消しにくるだろうか。

 いや、そうならもっと早く俺を消しているだろう。

 音が聞こえないように大気を消したり、海そのものを消してしまったら?

 俺は恐怖した。

 もしそんなすごい力を持っていたら、核爆弾を落とすより恐ろしいことになる。

 だが、やってみる価値はある。

 波の音が消えるまで消す答えば見つかるまで、この霊が動けなくなってしまうなら、時間稼ぎになる。

 あるいは、ずっと波の音を消そうとして、ずっとかかりっきり(・・・・・)になってしまうかもしれない。それでも成功と言える。

 俺は入力した内容を読み返し、そして『投稿』ボタンを押した。

『波の音ウゼェ。どこに行っても聞こえてくる。波の音消えてくんねぇか』

 俺の耳には『パチパチ』という薪が爆ぜる音が聞こえた。

 そして、謎の煙も。

 海に向かい、広がり消えていった。

 始まった。

 俺は海をじっと見ていた。

 しかし、波の音は消えることなく、繰り返し繰り返し聞こえてくる。

 俺が海から離れれば、自然と音は聞こえなくなるのだが、音は発生し続けている。

 帰り際、俺は海に向かって言った。

「どうした? 波の音、消えてねぇぞ」





 おしまい






最後まで読んでいただきありがとうございます。

お手隙でしたら、評価いただけると幸いです。


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