仲間本屋
仲間本屋。それは、町はずれにある小さな本屋であり雨の日にしか現れないという不思議な本屋。
訪れた人の願いを与える本しか置かず、町一番の謎と噂されていた。
さて、今日もお客さんが入ってきたようで…
***
カランコロンと軽快なベルの音とともに一人の男性が入ってくる。
外からは細かい雨が降っていて、部屋の中は水族館みたいにひやりとしていた。客は常連さんだ。今日はどんな本を買いに来たのだろうか?
「いらっしゃいませ、どんな本をお探しですか?」
たくさんの本が積まれた奥の部屋から、男性の姿が見える。
店に入ってきたのは若い男性のようだった。中肉中背で黒ぶちメガネをかけた普通の若者だ。
「この店に来れば探している本と出会えると聞いて来たのですが」
「ええ、その通りです。ここは『仲間本屋』。どんな本でも見つかりますよ」
そう答えると彼は嬉しそうに笑ったが、すぐにその笑顔も消えてしまった。
「しかし……本当にあるのでしょうか?」
「ええ、もちろんですよ。ただ、お代はいただくことになっておりますが」
「お金、ですか……」
彼の表情からは不安と焦燥感がにじみ出ていた。そんな彼を見て、僕はいつもの通り道順で本を紹介することにした。まずは……
「ではまず、あなたのお名前とご職業を教えて下さい」
「え?ああ……はい、私は佐藤太郎と申します。仕事は……しがないサラリーマンです」
「なるほど、佐藤さんですね。それではどんな本をお探しか教えてもらえますか?」
そう聞くと彼は少し言いにくそうにしながらも答えてくれた。
「実は、その……最近、仕事が上手くいっていないのです。それで何かいいアドバイスがもらえないかと思いまして……」
なるほど、確かにそういう悩みを持つ人は多いだろう。しかし、そんな時でも『仲間本屋』はちゃんと助けてくれる。
「わかりました。それではあなたの具体的な悩みを教えてください」
そう聞くと彼は少し考えてからこう答えた。
「最近上司との折り合いが悪くて……そのせいで仕事も上手くいっていなくて……」
「なるほど、上司との人間関係ですか」
彼は頷きながら話を続けた。
「ええ、そうです。それで何かいいアドバイスはありますか?」
僕は少し考えてから答えた。
「わかりました。では…」
店員は、佐藤の悩みに合う本を紹介する。
「ではこちらの本はいかがでしょうか?」
店員が奥から取り出したのは古びた二冊の本だった。
「これは……?」
佐藤が驚いた顔をする。無理もない。その二冊は普通では考えられないような奇妙な本だった。一冊は赤く、もう一冊は青く輝いて見える不思議な本だった。
「こちらは『仕事の本』です」
店員がそう答えると佐藤はさらに困惑した表情を浮かべた。
「仕事の本?」
「ええ、そうです」
そんな彼の様子を見て店員は優しく微笑んだ。
「この二冊の本にはそれぞれ異なる仕事の悩みを解決する方法が書かれています。たとえば……」
佐藤は不思議そうに首を傾げる。
「この本の赤い本には『仕事が上手くいかない』という悩みを解決する方法が書かれ
ています。そして、こちらの青い本には『上司との関係がうまくいかない』という悩みを解決する方法が書かれているのです」
佐藤は興味深そうにその説明を聞いた後、少し考えた後でこう言った。
「なるほど、つまりこの本に書かれている方法を実践すれば私の仕事も上手くいくかもしれないということですね?」
店員はその質問に対して大きく頷いた。
「ええ、その通りです。この本はあなたにとってきっと役に立つでしょう」
佐藤は嬉しそうに本を受け取った後、財布を取り出した。
「ではこの二冊の本をください」
店員は笑顔で答えた。
「ありがとうございます!それでは代金を頂戴いたしますね」
佐藤は財布からお金を取り出し店員に渡す。
「はい、ちょうどいただきました!それではまたのお越しをお待ちしております!」
彼は嬉しそうに店を出た後、ふと後ろに振り返ってみた。
「あれ?」
そこにはもう何も無かった。ただコンクリートの電柱と雨音だけが響いていた。
佐藤太郎は首を傾げながらも帰路についたのだった。




