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2 学院室にて

 薄暗い部屋を、窓から差し込む夕日が赤く照らしていた。部屋の中には2人の人影が、ソファーに腰かけていた。


「失礼します」


 扉が開いて、1人の少女が入って来た。白と紺を基調にした制服を着た少女は、2人の人影を見て、ため息を吐いた。


「……飲んでるんですか……」

「ん?俺は少ししか飲んでねぇぞ?」

「……わてゃしも酔ってにゃい」


 ソファーに座っているのはレイとアリシアだった。レイは酒の入った瓶を傾けている。アリシアの周りには数本開いている瓶があり、アリシアの両手にもまた、空いた瓶があった。


「シアさんは完全に酔ってるでしょ。レイは飲み過ぎないようにしときなよ?」

「ああ、出来たらな」

「リ~ズ~、わてゃしは酔ってなんか……ヒック、ないよ」

「どうしてその状態でその言葉を言えるのかわからない……」


 レイの生返事とアリシアの呂律の回っていない声に、リズは肩を落とした。


「シアさん、解毒魔術、かけますよ」

「だからわてゃしは酔ってなんかないってば~」


 アリシアの返事に呆れながらも、リズはアリシアに解毒魔術をかけた。アリシアの顔色が徐々に良くなっていく。


「シアさん、起きました?」

「……リズか……んっ、私は寝てたのか?どうした?」

「…………」


 記憶が無いアリシアを見て、リズは落胆したが、気を取り直した。


「シアさん、レイに私の事、話さなかったのですか?」

「ん?ああ、そうだった。レイの吃驚する顔が見たくてね」

「シアさん酷ぇ!」

「……レイの顔は面白かったから、良い案ですね」


 3人が集まると、笑いが溢れる和やかな雰囲気になる。その雰囲気が、3人は好きだった。


「リズ」


 ふと、アリシアが真面目な顔で口を開いた。その一言で場の雰囲気が変わった。先程まで酔っていた者(本人は自覚なし)が発する圧では無い。ピリピリとした雰囲気は、今にも戦闘が始まりそうだ。


「何でしょう、シアさん」


 リズはアリシアの雰囲気に、圧に同等以上の圧で返した。


「お前は今、アルセイト魔術学院の一生徒、リリー・ローズであると共に、5大魔術師が1人、水氷の魔術師、リズ・アーレントでもある」

「ええ。私はそれを考慮した上で、この学院に偽名で入学しました」


 リズとアリシアの間に火花が散る。レイは隣で酒を飲んでいた。もう既に手には空き瓶が握られている。


「だが、理解はしていない」


 アリシアの一言で、レイは片眉をピクリ、と上げたが、何も言わず、酒を飲みほした。


「ええ。私も完全に理解したつもりではありません。リズ・アーレントとしての私の仕事と、学院生活はを両立させる事は難しいでしょう。ですが、魔力を持つ者は全て、魔術学院に入学し、唄を発現させる義務があるのは周知の事実。後にリズ・アーレントが魔術学院に通っていなかった事が世間に露見すれば、混乱をまねき、魔族に隙を見せてしまいます」


 リズは滔々と語る。アリシアは表情を一切変えずに、リズを見ていた。


「それに、魔族との戦争は停戦中ですが、また戦争が始まるのは時間の問題。それまでに、私はもっと、もっと強く、なりたいのです」


 リズは真っ直ぐな瞳でアリシアを見た。


「戦争が再開すれば、お前は前線に出る事になる。その時にまだ学院に居る可能性が高い。お前は学院はどうするつもりなのだ?」

「その際は、前線で戦います」


 リズは一切の迷いを見せずに言い切った。


「本気か?」

「はい、それが水氷の魔術師としての、仕事ですから」


 リズのその言葉に、アリシアは優しく微笑んだ。だがその瞳には少しの悲しみが宿っていた。


「そうか……」


 アリシアは一瞬、悲しそうな顔をしたが、誰も気づく者は居なかった。


「リズ、試すような事をして悪かった。お前が前線に出る時は、戦況が悪くなくなってからだ。そんな事になったら、我々の敗戦が濃厚だ。できるだけ、そうなりたくはないがな」

「そうですね……そうならない為にも、レイが頑張ってくれないとだね」

「え、俺は面倒なんだけど……」

「頑張れよ、レイ」

「シアさんまで……」


 いつの間にか、いつもの雰囲気に戻っていた。笑顔に満ちた、そんな空間。


 戦争なんて、関係ない。その空間は、笑いを生み続けた。



 *****



 夕飯を3人で食べた後、リズは部屋に帰った。

 月光が淡く照らす部屋の中に居るのは、アリシアとレイの2人だけ。窓際に座り、憂い顔で、夜空を眺めるアリシア。酒を片手に夜空を眺め続けるレイ。部屋の中には僅かな衣擦れの音だけが聞こえた。


「リズに、あんな事を言って良かったのだろうか……」


 アリシアがふと呟いた。あんな事、とはリズが前線に出る事を話した事だろう。


「いつかは話さないといけなかった。出来るだけ早い方が良かっただろうし、俺は今日話した事に異論は無い」


 レイはアリシアに答えた。


「大陸が2つに分かれてから、戦争は小競り合いが多かったし、大規模な戦争なんて、起きなかった。でも、最近は大規模な戦闘が海岸沿いで起きている。何千年も続いたこの長い戦争にやっと幕が降りようとしている。悪い事では無いだろう」


 淡々というレイに反して、アリシアの顔は苦々しかった。


「それに、攻め込まれてはいるが、十分に防げている。このまま押し返しせば勝算も見えて来るだろう」

「しかし、多大な被害が出てるの事実。戦争が終結したとしても、被害は甚大だろう」

「その被害を抑える為に、俺達がいて、戦っている」


 レイははっきりと言った。その瞳はアリシアに向いているが、何処か遠くを映している。


「俺達がいる理由は、士気を高める為でも、戦力の増加の為でも無い。誰かを救う為。その為だけに、俺達がいて、戦っている」


 レイの言葉を聞いて、アリシアは驚いた顔をした。


「俺が5大魔術師になった時に、あの方から教えて頂いた言葉です。あの時は理解できなかったけど、今は理解しました。全て、理解しました」

「……」


 アリシアは夜空を見上げた。溢れそうな涙を堪える為に。


「レイ」


 アリシアはレイの方を振り返った。


「大きくなったな」


 その言葉は。


「ありがとうございます、師匠」


 その言葉は、師匠だったアリシアから、弟子であったレイへの言葉だった。





 その後、学院長室では、師弟兼同僚で飲み明かしたようだ。





 2人の時間を覗き見すれば、息の合った魔術で攻撃されるだろう。私の命の危険があるので、今夜はこれにて退散としよう。2人の師弟には是非、明日の仕事の事を教えてあげて欲しい。

 え、私ですか?命が惜しいので、拒否させて頂きます!



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