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悪役令嬢に転生したら、亡国を立て直すことになりました  作者: のみ
第2章 辺境の地を立て直す
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第12話 【燕視点】マリアは変だ

【魔術師:燕視点】


500年生きてきて、いろんな人間を見てきた。そして彼らの終わりも、見てきた。


勤勉に働いていた男が地位を手にした瞬間、金におぼれ、妻や友を失った場面があった。

博打ばかりして働かない男が、愛する人を作り心変わりした場面もあった。

それ以外にも、一生を農民として暮らす者。自分の今の地位に満足せず、成り上がる者。見てきた人生は様々だ。

マリアは、その中の人間の中で特に秀でているわけではなかった。


高度な魔術の中に、常時自分にかけることができる「第六感」というものがある。ある時その第六感が反応したため、感覚を辿って向かってみると彼女がいた。噂では「無能姫」「落ちこぼれ」と評判のお姫様だ、正直拍子抜けした。

しかし、読心術を使って驚いた。彼女はこの世界で存在していないとされる、魔術石を探しに庭園に行こうとしていたのだ。しかも彼女の心を丁寧に読めば、どうやら俺が500年生きていることも知っている。


何者だ?と警戒心を抱くと同時に、久しぶりに心が震えた。どうやら、俺が今まで見てきた人間と「違う」存在が生まれる――ぶわりと全身の毛が逆立ったような気がした。


嫌そうな顔をする彼女を引き留めると、「探偵気取り」という未知の言葉。この世界に「探偵」という言葉がないことに、彼女は気づいていない。

エスコートをかって出ると、彼女は非常に迷惑そうな顔をしていた。


そこで、彼女の知らない情報をあえて漏らす。すると彼女はしばし思考し、頷いてくれた。


「では、お願いします」

「おや、ずいぶん殊勝な態度だ。君の父様みたいに偉ぶってもいいんだぞぅ。なんたって、君は第一皇」

「マリアです。貴女との短い付き合いの中に、身分を持ち込むほど無粋じゃないわ」


その言葉を言う彼女の心に、何の裏もない。

本心から「身分」が馬鹿らしいと思っている態度だ。

皇族らしくないその態度に、俺は彼女の「特異性」を除外しても、彼女のことが気に入った。


※※※

「……マリアはさぁ、なんで庭園に?」


庭園について石を探すマリアに、俺はそう問う。

俺以外の魔術師が初めて生まれるのだ、理由くらい聞きたい。

分かりやすい理由をわざと述べるが、彼女の心は凪いだままだった。


「生きたいから」

「……」

「私はこれから、死ぬ運命にある。だから自分の足で立って、戦って、生き抜けるために石が欲しいの」


ただの6歳の少女が、そのような言葉を吐くなんてばからしい。しかし彼女の頭の中には明確に、彼女が殺されるイメージがあった。彼女は何らかの理由でそれを予知しているのだろう。

読心術を使うと、彼女の「生きたい、生きたい、生きたい」という強い意志。その綺麗すぎる思いに何だか茶化したいような気がして、揺らがせるような言葉をわざと吐いた。


「……生への執着か。悪くない。しっかし、生きているのはそんなに楽しいかね?俺にはわからない」


すると彼女はくすりと笑った。おそらく本人も気づいていないほど、自然と出た笑い。

彼女の思いは俺の言葉なんかで揺らがなかった。むしろ『人生が楽しいか楽しくないか』考えること自体が馬鹿らしい、そんな風に彼女は言葉を返す。


「楽しくするのは自分の仕事。たとえ目が見えなくても、妹から貰ったネックレスを付けたら、綺麗な自分になれる気がするのよ。鏡なんて見えやしないのに。とらえ方次第で人生なんて悲劇にも喜劇にもなるわ」

「……そうかねえ」

「そんなもんよ、重くとらえすぎ。私は燕に会って、最初は正直『げっ』と思ったけど――今は感謝しているし、楽しいわ。燕も、私と喋れて楽しいでしょう?」

「自意識過剰だ」

「なによ、自意識過少よりはずっとマシだわ。――ほら、貴方も笑ってる」


そういわれて、俺は500年で初めて言葉が口からでなくなる。

マリアの言う通り――俺は笑っていたのだ。いつぶりだろう、ここまで自然に笑えたのは。


彼女の頭の中のイメージをそっと覗き見ると、盲目の少女が大輪の笑顔で笑う姿。マリアとはかけ離れた姿のその少女だが、どこかマリアに似ている気がする。その笑顔が魅力的で、俺は一瞬見惚れた。


しかし、彼女は危うすぎる。あまりに自分が「特異」であることに気づいていない。

俺にしては珍しく、口をはさんだ。


「マリア。君のこと、気に入ったよ。だから注意して。君が使った『探偵』という言葉――この世界には存在しない。俺みたいなやつに付け込まれるよ」

「あら。貴方も、読心術を得意としていることがバレバレよ。調子に乗ってあからさまに私の考えてることを指摘して。

ついでに宰相が庭園で自殺したことは知っていただけど、首つり自殺したことは知らなかったわ。情報をありがとう」


勝気な言葉。読心術を使っていることがバレているなんて驚いた。

彼女といるとずっと面白い。彼女の人生の最期を見てみたい、と思った。


※※※


それからは彼女に魔術を教え、成り行きで彼女の家庭教師をすることになった。

彼女と過ごす日々はあわただしく過ぎていく。魔術の覚えも速い彼女は、どんどんと成長した。


彼女の師匠として出した課題「炎を出してみろ」は、かなり意地の悪い課題だったと思う。おまけに彼女の前で炎を実際に出して見せている。それをイメージしてしまうのが自然だ。

一週間は悩んで泣きついてくるかと思っていたが、彼女は1日で謎を解いてきた。そして一切文句を言わず、次の課題を要求してきた。魔術師としての才能はあるのだろう。


報酬である彼女の異国話も楽しみになってきて、彼女との時間もどんどん大切になっていった。

そんな時、城下に出ようと彼女は言い出す。放っておけば一人で行こうとする彼女を慌てて止め、同行を願い出た。あまりに世間知らずの彼女がこの世界を見た時、どのように動くか興味があった。


ロマン帝国の城下はまだ秩序を保っているが、それ以外の地域はすでに荒廃している。病がそろそろ蔓延し、死者の数も倍増してもおかしくないだろう。そんな状況なのに、皇室はもっともっと金を搾り取ろうとする。町人の表情に、笑顔は一つない。

その光景を見てただ佇むしかできない彼女を見て、しかし俺は、何一つアドバイスをしなかった。忠告もしない。ただ笑いながら、彼女が次にとる行動は何なのか見守っていた。



※※※

【皇女:マリア=ファントム視点】


「あんた、名前はなんていうの?」

「マ…マリン、よ。あなたは?」

「名前なんてない。お前、とかゴミとか呼ばれてる」


少女の細すぎる手を握りながら病院へと歩を進める。歩きづらい道に、とっくにヒールを両方折った。こんな格好で来るべきではなかった、と後悔する。


「そう」

「マリンって綺麗な名前だね、羨ましい」

「ありがとう。貴方も名前なんて自分で名乗ってしまえばいいのよ、選び放題で最高じゃない」


そういうと、彼女はポカンとこちらを見る。「そんなこと、思いつかなかったよ」ともそりと呟いた。


「マリン、優しいんだね。偉い人は私たちのことなんて、名前なんてなくていいと思ってるのに。それに、綺麗な靴まで壊して歩いてる。おかしいよ」

「そうかしら」

「うん、おかしい。だって」


そこまで言葉を紡ぐが、彼女は次の言葉を発さなかった。無言で言葉を探しているが、見つからなかったようだ。私も特に会話をせず、彼女と無言で歩いた。


しばらくすると朽ちかけた家が見えてくる。前世で日本に住んでいた身からしたら廃墟同然だが、この村では比較的新しい建物。斜めになった看板に「診療所」という文字が見えた。


「ここだよ、お医者さんが住んでるところ」

「ありがとう、案内してくれて。助かったわ」

「私もマリンと話せて楽しかった。じゃ、私は行くね」

「あら、行ってしまうの?」


てっきり医者を紹介してくれるかと思いきや、彼女は帰るそぶりを見せる。引き留めると彼女は露骨に嫌そうな表情をした。


「ここの医者、嫌いなの。意地悪で、私たちを治してくれないの」

「……え?お医者さんでしょう?」

「やっぱり、マリンは分かってない。何一つ理解できていないよ。

……わかった、私も一緒に入ってあげる」


少女は失望した様子を見せると、診療所をノックした。


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