王、命令す
「ワイバーンを侯爵家が持つなどと、謀反でも企んでいるのかと思ったわい」
笑みを浮かべる国王の目は笑っていない。
「娘への謝罪には安いと思うのですが」
対してファーミア侯爵の笑みは底が見えない。
「むむむ。まだそれを言うか」
「さらに八つ裂きにしても飽き足らない犯人を、断腸の思いでそちらに引き渡したのですから、見返り位期待して当たり前でしょう?」
「むむむ。その件は本当に助かった。だから侯にはそれなりの優遇をだな」
「足りませんな。つり合いがとれない」
「むむむぬぬ。だが侯爵よ、これ以上の厚遇は他の貴族家からの不審を招き、強いては王国の乱れになりかねぬ」
「もちろん国あっての侯爵家ですから、このような場合ですし?おっしゃる事の意味はわかります。王家の意思に従う事は吝かではありませんが」
「『…が』。と言うか」
王はため息をつくとファーミア侯爵に一通の封書を渡した。
「ワイバーンの飼育と保有許可証じゃ」
「用意してあるじゃありませんか」
「別に勿体つけていた訳ではないわ」
やや憮然とした面持ちで王は言った。
「その代り、他の貴族家の手前、いくつか難題と言われる問題を解決してもらうのが、条件である」
侯爵の片眉が上がった。
「娘は英雄と呼ばれるかもしれぬの」
王はニヤリと笑った。
「普通に幸せになってくれることが親の望みですが」
対して、侯爵の顔は苦々しい。
「わしもお前も、そのようなものを選べる立場ではないと、知っていてまだそう言うか」
王の顔から先程までの人間らしい表情が抜け、上に立つ者の特有の威厳ある顔つきになった。
「これは命令である」
ファーミア侯爵の顔からも表情が抜け、一人の「侯爵」の顔になる。
「承りました」
「頼んだぞ」
王は臣下の侯爵を王座より見送った。
「王よ」
傍らで空気に徹していた宰相が声をかけた。
「マティアスよ。あれが兄の懐刀と言われていた男だ」
「学園時代を思い出しますね。何をやっても彼らの足元にも及ばなかった苦い過去が」
「兄が夭逝しなかったら、わしはこの椅子に座っておらなんだ。わしの焦りが、ルーカスに伝わってしまったのだろうか」
「陛下は十二分に努力して相応しい力を身につけなさった。今のあなた様は、お亡くなりになられたジークフリード殿下以上に『国王』であらせられます」
「そう言ってくれるか。マティアスよ。わしは兄上に追いつけておるのだろうか」
「この苦難多き時代を統治なされるのは、陛下です。私もおります。評価は後世のものがいたしましょう」
「その前に、後世を揺るぎないものとせねばな」
その治政を後世の者が評価するとしても、この『魔王顕現』からの魔物の氾濫を無事に乗り切らねばならない。
彼らは王であり宰相であった。
一人の親である前に。




