後悔しても全てが遅かった
グランはあの日から引きこもっていた。
目を閉じるとシルビアの血の気のない顔やだらんと垂れ下がった腕が目に浮かぶのだ。
「僕は関係ない。僕は知らない」
いくら必死でその呪文を唱えてみても、グランの仕出かした事はなかったことにはならないのだ。
何日たった頃だろう、グランは父親から呼び出された。
久しぶりに見た父親はがっくりと一回りも年をとったように感じられた。
「グランよ。お前は外国へ留学させる事に決めた。もうこの国にお前の居場所はない」
いよいよ自分の仕出かした罪が公になったのかとグランは震えた。
「あらゆる手を使った。あらゆるツテを使った。表向きお前は病気が原因で療養していることになっている」
「ぼ、僕は何もしていない…」
「ははっ、そのセリフをそのまま信じる訳にはいかないぞ。グラン。聖龍祭のあった日の翌月、ベアードがやってきて俺に金を強請っていった。口止め料だと言ってな。知っての通り奴はそういう仕事用の男だ。そのベアードがお前に頼まれて仕事をしたと言い、口止め料をねだる。その意味を俺が分からないと思うか?丁度その頃だったな、どこの誰のものかわからない馬車が「嘆きの谷」に落ちたようだと噂になったのは」
グランの父の目は笑っていなかった。冷たく冷え冷えとグランを見つめる。
「その馬車がお前がベアードに言って用意させたものだと、分からないように工作するのは骨がおれたぞ。
息子よ。俺を見くびるなよ、腐ってもマルボロース商会の、俺は会長だ」
手にした金貨入りの袋をグランに投げる。
「それでどの国でもかまわん、出てゆけ。次に商会に迷惑をかけることがあったら、俺は赦しはしないぞグラン」
「父さん…」
嗚咽をもらす息子を一瞬憐みを含んだ瞳で父は見やる。
「何故ベアードに言う前に俺に相談しなかった」
「父さん、僕は…僕は…本当にあんな事になるだなんて思わなかったんだ。」
「俺は二手、三手先をも読むのは普通、もっと先を読めとも教えたはずだ。もういい。何も言わず去れよ息子よ。自分の力で生きていくのだ」
父が合図すると屈強な護衛達がグランの両腕を両側から掴み、彼を外へと連れていく。
「父さん!父さん!僕のせいじゃないんだ!わかってくれよ!父さん!」
「俺の息子はたった今、旅に出た。行き先は誰も知らぬ」
父の後ろ姿はやはり昔より小さく見えた。
もう誰もグランを守ってくれるものはいない。




