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※追いつめられた彼らたち


 グランがどうにかアーウェンを説得し、馬車に乗せていた薬箱から毛布を持って、シルビアを監禁している森の小屋に戻った時、横たわるシルビア身体の上に髭面の男がのしかかっていた。


「な、何をしている!」


 あわてて、男を令嬢の上から引きはがすと、男は目を眇めてグランを睨んだ。


「…もう死んでるよ。吐いたもんが詰まったんだ」


 見れば、床に吐いた跡がある。


 グランが見た時には、男がシルビアの首を絞めているように見えたのだが、見間違えだったのか?


「呼吸を回復させようとしたが、ダメだった。どうする?坊ちゃん」


「ええ???」


 そんな事を考えた事もなかった。自分達の行いが人を殺めてしまうだなんて。

 グランの手は恐怖で震えた。


「どうしよう。どうしよう」


 グランはただ茫然としていた。

 すでにグランのキャパを超えて、思いもかけない方向に進んでいる。

 グランも、アーウェンも問い詰めれば、シルビアがマリアベルにした事を自白するはずだと信じていた。

 シルビアが罪を認めないので、アーウェンが騎士団でやっている罪人を自白させる方法を実行すると言って、軽く腕を捻ったり、頬を叩いたりしたが、加減はしていた。

 加減はしていたはずなのだ。


 そこに、まさかシルビアの死という事態が起きるだなんて事はつゆほども思っていなかった。


 外を歩き回って頭が冷えたのか、アーウェンも戻ってきたが、目の前の光景に絶句する。


「え?なんで?何が…」


 騎士団で女スリの自白を引き出した時のやり方も見学した事があるが、その半分もやっていない。

 女騎士との鍛錬で出した力の4分の1ほども力を込めていない。

 なのに、どうしてこんな事に。

 


「お、おいっ!シルビア嬢!」


 あわてて、シルビアの身体を抱き起し、ゆさぶるが、少しずつ下がっていく体温に焦燥感を味わう。


「なんで、なんでどうしてだよ。どうしてこうなるんだよ。僕はやめようって言ったんだ。アーウェンがやったんだ。僕は関係ない」


 グランは泣き出し、自分は関係ない、自分はやっていないとただ繰り返すばかりだ。


「シルビアッ!目をあけろ!おいっ」


 アーウェンが叫ぶ声が、ただ小屋の中に響いた。



 やがて、小屋の中には沈黙が落ちた。


 グランはまだ泣いている。アーウェンは言葉もなく項垂れてシルビアの亡骸を見ている。



 シルビアの顔は青ざめ、その唇には乾いた血がついていた。

 おそらくアーウェンに叩かれた時に切っていたのだろう。


「何故だ、どうしたらいい?…何故…そんな…」


 頭をかきむしり続けるアーウェンに対して、グランはただ泣き続けている。


「そうだな。こうしましょうか。坊ちゃん方」


 髭面の男が、ゆらりと立ち上がった。


「こういう時に、俺達みたいなのが取る方法があるんでさぁ」


 言うが早いか、シルビア嬢の亡骸を抱えると馬車に放り込む。


「ついてきなせぇ。坊ちゃん方」



 アーウェンもグランも問いかける力もなく、男の言うままに自分達が乗ってきた馬に跨った。


 それきり男は、何も話さず、馬車を進ませる。


 2時間ほど進んだろうか、すでに明け方近くになってきた。


 朝靄が冷たい空気を伴って、二人の身体にまとわりつく。


「…ここでさぁ。坊ちゃん方」


 男は馬車から飛び降りると馬の頬を撫でた。


「もったいねぇなぁ。そこそこいい馬なのに…お前ら悪く思うなよ」


 そう言うといきなり馬に斬り付けた。


 馬は驚いて走りだして、そして…


 いきなり姿が消えた。


「…ここはそういう所なんでさぁ。まぁ今までに死体が見つかった事がないんで大丈夫でさぁ」


 はるか下方で馬の悲鳴と何かが壊れる激しい音が響いた。何かにぶつかりながら馬車が落ちる音である。


「て、事で終わりにしましょうや。お嬢さんは、家出して旅に出ていた事があったそうじゃないですか。

かわいそうにねぇ。靄で崖が見えなかったんでしょうよ。若いのに気の毒なことで」


 男は何事もなかったように言った。


「さて坊ちゃん方は遠乗りで遠くに来すぎましたねぇ。お戻りになるんだったらあっちの方向でさぁ。オレですか?オレは乗ってきた足が下に落ちちゃったんで、歩いて帰りますよ。ご心配なく。では、」


 そう言うと男はゆっくりと歩き出す。

 まるで散歩の続きをするかのように。



 グランとアーウェンはその日、自分がどうやって帰ったかも覚えていなかった。







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