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異世界に召喚されたら魔王でした 世界征服には興味ないけど勇者がイケメンだったので恋してみる  作者: 元 智


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プロローグ

プロローグ


 その日。


 白石結奈はコンビニへ向かっていた。


 目的はアイスである。


 期間限定のチョコミントアイス。


 友達が絶賛していた。


 気になった。


 だから買いに行く。


 それだけだった。


 それだけだったのに。


「なんでこうなったの」


 結奈は玉座に座っていた。


 いや。


 座らされていた。


 巨大な黒い玉座。


 赤い絨毯。


 高い天井。


 見上げるほど大きな柱。


 そして。


 目の前には数百人。


 角が生えた人。


 尻尾が生えた人。


 翼を持つ人。


 獣耳の人。


 どう見ても人間じゃない。


 しかも全員。


 結奈を見ていた。


「魔王様!」


 歓声が上がる。


「我らの魔王様だ!」


「伝説は本当だった!」


「魔族に栄光を!」


 うるさい。


 ものすごくうるさい。


 結奈は頭を抱えた。


 十分前まで。


 本当に十分前まで。


 自分は日本にいたのだ。


 スマホを片手に。


 コンビニへ向かっていた。


 それが。


 足元が光った。


 気付いたらここだった。


「帰りたい」


 結奈が言う。


 歓声が止まった。


「帰らせてください」


 誰も何も言わない。


「今なら怒らないので」


 やっぱり誰も何も言わない。


 嫌な予感しかしない。


 やがて。


 一人の老人が前へ出た。


「魔王様」


「はい」


「大変申し上げにくいのですが」


「はい」


「帰れません」


「却下」


 即答だった。


「却下じゃなくてですね」


「帰る」


「無理です」


「帰る」


「無理です」


「帰る」


「無理です」


「帰る」


「無理です」


「帰る」


「無理です」


「帰る」


「無理です」


 周囲の魔族達が泣きそうな顔になっていた。


 結奈だって泣きたい。


「なんで私なの」


 老人が咳払いをする。


「我々魔族は滅びかけています」


「うん」


「人類との戦争に敗れ続けています」


「うん」


「食糧も不足しています」


「うん」


「希望もありません」


「うん」


「そこで伝説の召喚を」


「うん」


「成功しました」


 老人が結奈を見る。


 結奈も老人を見る。


 しばらく見つめ合う。


「帰りたい」


 話が一周した。


 その時だった。


 玉座の間の扉が勢いよく開いた。


「おじいちゃーん!」


 小さな女の子が飛び込んでくる。


 十歳くらいだろうか。


 小さな角の生えた魔族の少女だった。


「こら!」


「魔王様の御前だぞ!」


 兵士達が慌てる。


 少女はびくりと肩を震わせた。


 そして。


 結奈を見た。


 大きな瞳。


 不安そうな顔。


「……魔王さま?」


 小さな声だった。


「助けてくれる?」


 結奈は言葉を失った。


 少女の服はボロボロだった。


 腕には包帯が巻かれている。


 靴も擦り切れている。


 痩せていた。


 栄養が足りていないのは一目で分かった。


 結奈は周囲を見る。


 老人。


 兵士。


 使用人。


 みんな疲れた顔をしていた。


 希望を失っていた。


 それでも。


 自分を見ている。


 期待している。


「……ずるい」


 ぽつりと呟く。


 神様か。


 運命か。


 この世界か。


 誰に向けた言葉なのか分からなかった。


 結奈は玉座から降りる。


 少女の前でしゃがみ込む。


「絶対とは言えない」


 少女が不安そうな顔になる。


「でも」


 結奈は少しだけ笑った。


「頑張ってみる」


 一瞬。


 少女の顔がぱっと明るくなる。


「ほんと!?」


「うん」


 その笑顔は。


 少しだけ眩しかった。


 こうして。


 コンビニへアイスを買いに行く途中だった女子高生は。


 魔王になった。


 ちなみに。


 この時の結奈はまだ知らない。


 自分が世界征服よりも先に。


 勇者の顔面に敗北することを。

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